第9話  多視点

青の泉とはアーンバル帝国の東側の森に位置する、帝国管轄の泉の事を言う。

何故、帝国管轄なのかと言うと、所謂、発情期を抑えるための泉だからだ。


王族は、むやみやたらと種をまき散らすことは禁忌とされている。竜人族は中々子宝に恵まれないが、その精子は色々な薬の材料に適していると言われているからだ。

その薬とは、万能薬だったり依存性の高い媚薬だったりと様々。媚薬は当然、禁止薬に指定されている。

効果が高いものを作るには特に、魔力の高い王族の精子が最高の材料だと言われていた。

現実問題、王族の精子はほぼ手に入らない。

代用品として希少な薬草を使っているらしいが、断崖絶壁の危険な場所にしか生息していないらしく、自然とその価値は高くなっていった。

危険な目に遭いながらもとれる薬草はごくわずか。それに比べ、精子は欲さえ満たせばいつでも手に入る代物。

その所為で、魔力がそこそこ強い竜人が、金の為に自分の精子を売るという闇取引が横行していた。

国としても取り締まりを強化するものの、まさに鼬ごっこ。手を変え品を変え、根を張り巡らせていくのが裏社会なのだ。

よって、ありとあらゆる事を考え、発情期を抑えるために未婚の王族の竜人は、丸一日泉に浸かりそれをやり過ごすのが慣例となっていた。

未婚の王族が何故狙われるのかというと、竜人は伴侶を持つと溺愛モードに入る為、誘惑されたり浮気するなどまず在り得ないからだ。

だが未婚であれば、可能性が万が一にもあるかもしれない。実際遠い過去に、不名誉な事例があったから。


発情期の発生周期は各個体によって違い、数か月に一度の者もいれば、数年に一度という者もいる。

だが、未婚の男性王族は今のところレインベリィしかいない。

そのレインベリィは、数年に一度どいう周期で泉に通っていた。


何故、泉に浸かっただけで発情期を抑えることができるのか。

何故、ほかの泉では駄目なのか。いまだに理由はわからないが、泉に一日浸かって眠るだけで発情期を抑える事ができるのだ。


青の泉と呼ばれるのは、単純に美しい透明な青色の泉だからである。


いくら帝国管轄で厳重な結界が張られてるとはいえ、泉の中で無防備に眠るのだ。

世界樹の結界とは違い、人が施した結界である。万が一にも破られる可能性もある。

襲撃にはもってこいのシチュエーション。

しかも、結界には王族しか入れないため、基本単独行動である。

よって、それを知るのはごくわずかな側近のみ。

レインベリィは未だ自由にならない身体に苛立ちながらも、頭は常に冷静にと己を諫める。


『ルリ殿、スイ殿、手数をかけさせて申し訳ないが、俺の安否は元竜帝である父にお願いできるだろうか』

「前帝様にですか?」

『あぁ・・・この度の俺の行動は側近である三人しか知らないはずだ。どこから漏れたかは知らないが、今現在の状況で誰が怪しいとは言えない。だから、俺が動けるまで父上に動いてもらう』

「承知いたしました。現在、前帝様はどちらに?」

『城の東側にある離宮に母上と住んでおられる』

表情が今一わからない黒龍の姿であるにもかかわらず、意気消沈しているのを肌で感じる姉妹。

レインベリィに、なけなしの魔力で手紙を書いてもらい、それをルリが届けることにした。

明日には城に帰る事になっている為、何とか明日中には手紙を届けてほしいと頼まれた。

裏切り者に関しても、自分がいないほうが炙り出し易いかもしれない。そこは前帝でもある父親に任せる事にしたようだ。


油断していたつもりはないが、このような状態になったという事は、油断していたのだろう。

情けなさを噛みしめながらレインベリィは再度、姉妹に頭を下げたのだった。

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