第10話:俺バイト辞めてたんだが

 俺はマックから部屋に戻り、ダラダラと時間を過ごしていた。当然なにも進展していない。俺の現在(2021年)に帰るためのトリガーすら思いつかない。


 とりあえず、分かっていることは、俺は高校を卒業して一人暮らしを始めたこと。家から大学まで片道1時間ちょいかかるから、通学を諦めた。


 東京とかなら片道2時間でも通う人がいるというけれど、ここ福岡では通学に30分もかかったら長い方だ。


 一人り暮らしは洋室のアパート。元クラスメイトの聖藍子ひじりあいこさんと半同棲の生活らしい。



「あれ? 俺バイトは?」



 今日は、1日のんびり過ごしてしまった。身体がしんどいというのはあったけど、何のバイトをしているのかも覚えていなかった。大学に入ってからすぐにパン屋さんでバイトを始めたのだけど、それは今でも続けているのだろうか。


 部屋のテーブルで出されたコーヒーを飲みながら、すぐ隣に藍子さんが座っている。



「隆志は、今はバイトしてないよ?」


「え? そうなの?」



 学費は親に出してもらってるけど、ここの家賃は俺のバイト代で支払っていたはず。



「家賃って……どうなってるの⁈」


「今は私が払ってるけど……」



 俺、ヒモだったーーーっ!



「ご、ごめん! なんでそんなことになってるのか分からないけど、俺もバイト始めてちゃんと払うから」


「へへへ、隆志は優しいね。いいんだよ。私は好きでやってるから」



 いやいやいやいや、そういう訳にはいかない! 未来(2022年)の俺はどこかぶっ壊れてる。こんなに献身的な彼女に家賃まで任せて! 一人バイトさせて!


 そう言われてみれば、部屋はちゃんと片付いている。



「あの……もしかして、掃除とかも?」


「うん、私がしてるよ? お洗濯も」


「ご、ごめん!」


「ううん、いいの! 好きでやってるの! お料理も!」



 いつから!? いつから俺は社会のクズになったのか⁉ 絵にかいたようなヒモだよ。



「俺、大学の方は……?」


「……1年くらいお休みしてる……かな?」



 はい、終わりー! 俺って学校も行かず、家賃も払わず、料理も掃除も彼女まかせ。ごめんなさい。俺、社会のクズでした。ごめんなさい。生きていてごめんなさい。



「それよりも、今日、昼間なにしてた?」


「今日は……橋本に会おうと思ってマックに行った……かな」


「……それだけ?」


「うん……でも、結局会えなくて帰ってきたんだ」


「そうなんだ……」



 嘘は言ってない。嘘は言ってないけど、珊瑚さんのことは事故みたいなもんだから、言わない方がいいだろう。変にやきもち妬かせるのも違うと思うし、なにより俺は会うつもりはなかったのだから。

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