第3話:俺のことを考えてみたんだが


「ね? 気分悪くない?」



 彼女が俺に抱き着いたままで聞いた。彼女はどうも俺に惚れているらしい。それは大変うれしいことだけど、なぜ好かれているのか分からないと どこか落ち着かない。



「ん、少し頭が痛い。あと、身体がだるい感じがする……」


「んー、水分補給? スポドリ買ってくるね?」


「あ、もう、遅いからいいよ」


「何言ってんの、コンビニはお隣でしょ?」



 そうだった。俺がこの物件を決めた理由の一つが、コンビニの隣だということ。だから、冷蔵庫にストックしなくても欲しいと思ったら、すぐに降りて買いに行けた。俺は、あのコンビニを「冷蔵庫」と呼んでいたほどだ。



「ごめん、じゃあ、お願い。気を付けて」


「うん♪ 他に何かいる?」


「いや、食欲はないんだ……」


「そう、わかったー」



 普通に出て言ったけど、鍵は持っているんだな。コンビニのことも知っていた。やはり、俺は彼女と交際しているらしい。その一方で、俺にその記憶が全くない。


 ここで俺は確信した。


 これは「タイムリープ」だと。タイムスリップではなく、タイムリープ。


 タイムスリップは、現在(2021年)の俺自身が未来(2022年)に来ても、未来の俺は存在する。つまり、俺が2人になる。


 それに対して、タイムリープは俺の意識だけが何らかの理由で、1年前からこの2022年に飛んでいるのだ。


 マンガなんかであるのは、タイムリープは一時的な物で、再び過去に戻ることが常だ。俺は、この時間に来たのには何らかの理由があるのではないだろうか?


 それだけじゃなく、せっかく未来に来たなら、現在(2021年)に戻る前に未来(2022年)の情報を手に入れておきたい。宝くじの当たり番号なんかは、直接的に役に立つ。



 俺は再びスマホを手にして、LINEで友達の橋本にメッセージを送った。



「ヤバい!俺、タイムリープしたかも!? 気づいたら2022年だった!」



 橋本は高校の時からのクラスメイト、ラノベやマンガの趣味が合うのでずっと仲が良かったヤツ。大学も同じになったので、現在も仲が良いはず。



『久々だね! タイムリープ!? マジ!? 何年から来たの!?』



 お、早速乗っかってくれた。あいつはノリもいいし、ノリで言っているだけだろう。



「いや、マジなんだって! 俺、いつの間にか聖さんと付き合ってるみたい!」


『え!? そうなの!? 高校の時の聖さん!?』


「そう! 未来の俺に『偉い! よくやった!』と言いたい!」


『そうなんだ。今、聖さん近くにいるの?』


「いや、コンビニに行ってる」


『タイムリープのことは、聖さんにも相談してみたら? きっと誤魔化しきれないよ?』



 たしかに、そうかも。ただ、さっき少し話を合わせてしまったので、全部話すのは少しバツが悪いな。しかも、タイムリープなんて突拍子もない話、彼女が信じてくれるかどうか……



 ガチャンと鍵が開く音がして、聖さんが帰ってきた。コンビニは隣だから、帰宅も早い。俺は、橋本とのLINEを切り上げた。



「おかえり」


「ただいまー、新作スイーツが出てたから買ってきちゃった。一緒に食べない?」


「あ、うん。ありがとう」



 俺は、彼女にどう切り出すかひたすら考えるのだった。

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