推しが婚約者になりました~婚約破棄?推しのためなら全力でしますが?~
とうふ
第1話 とにかく推しがすばらしいことだけ分かった
ここは、バロミア王国王宮、王太子の私室。
さすが王太子の私室とはいうもので、部屋の家具はどれも最高級のものでそろえられており、床には塵一つ見当たらない。そんな最高級の部屋にある最高級の向かい合うソファーには、同じように向かい合って2人の男女が座っていた。
「単刀直入に言うが______
3年後に婚約を破棄していただけないだろうか」
真剣な面持ちで一方の男性が言葉を発する。
女性は息をのみ、言葉を失ったかのように思ったが、次の瞬間には元気よくとびきりの笑顔でこう答えた。
「もちろんですわ!」
「............は?」
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バロミア王国侯爵令嬢、ソフィア・アーガスト。今年で15歳。
彼女は朝から少し機嫌が悪かった。
今日から、学園に通うことになっており、起床してから準備で大忙しだったのである。もちろん前日に準備はしていたが、彼女は朝が弱い。起床してから1分1秒が惜しいほどに、ぎりぎりの時間に起きるのが彼女の癖になりつつあった。
そんな中、この国の宰相である父から呼び出されたのだ。自分が悪いことはわかっているが、寝起きでイライラしていたこともあり呼び出しついでに父に文句の一つでも言おうと思いながら、ソフィアは父の部屋の扉を乱暴に開けた。
「なんですかお父様。今日は登校初日であることはお話ししましたよね。」
不機嫌オーラを隠さずに、文句を連ねていく。
「待て待て、そう怒るな。というか、ソフィアは勉学以前に早寝早起きをまず学べ。だから、そんなに朝慌てることになるんだぞ。」
「そのくらいわかっています!昨日は楽しみであまり眠れなかったんです!だって、学園にはあのグレン様がいるんですよ!?そんなの眠れるわけn..」
「わかったから。まぁ、このまま話していても平行線だし、王太子の話になるとソフィは止まらないのでここで止めさせてもらうな。実は今日はそれ以上に話したいことがあって呼んだんだ。」
話を切られて少しイライラする反面、時間も時間なのでソフィアは黙って父の話を聞くことにした。
「実はそのグレン様とソフィが婚約することが決定した。」
「........................................え?...............」
ソフィアはその瞬間思考が停止し、気づけば登校時刻になって学園の入学式の会場に来ていた。
それ以降、父が何を話していたのか全く覚えていない。
現在は、もう少しで入学式が始まるところだ。
「おはよう、ソフィア。...............ソフィア?」
「........っ!あらおはよう。リリー。」
隣から声を掛けられ、はっとして声がした方を向くと、伯爵令嬢であるリリーが立っていた。リリーは領地が隣同士であることもあり、幼いころからの友人である。
「ソフィア、今日はなんかいつもと様子が違うわね。どうしたの?」
「いえ、なんでもないの。しいて言うなら、入学初日で楽しみにしていたくらいよ。」
「なるほど。確かに私もすごく楽しみにしていたわ。ソフィアと同じ学園生活を送るのが夢だったからね。そのために勉強だって頑張ったんだから。」
きっと夢の延長線だなと今朝のことを位置づけ、リリーとは学園生活の話をすることにした。
ソフィアとリリーの通う学園はこの国の貴族が多く通う学園ではあるが、試験に合格することで入学することのできる学園だ。しかも、この王国のみならず大陸でトップ3に入るほどの超難関の学園で、留学生も多い。そこに、2人は入学し、かつ、ソフィアは首席で入学した。
「私もよ、リリー。とても嬉しいわ。一緒に勉強したのが昨日のことのようね。一緒に通えるのが嬉しすぎてなかなか寝付けなかったのよ。」
「それは嘘ね。正確には、グレン様と一緒の学園に通えるのがでしょ?」
「あら、ばれたかしら?」
「ばればれ。........ふふふっ」
「ふふふふっ」
「..........あら?」
2人でいつもの冗談を言い合いながら、式の開始を待っていると、急に会場が暗くなり、ステージにスポットライトが照らされる。しばらくすると、制服を着た、生徒会役員らしき生徒がステージに上り、式の開幕を告げていた。
「今日はお集まりいただきありがとうございます。まず初めに___」
ぞくぞくと学園長やその他学園にかかわりのある方の祝辞が述べられていく。ソフィアもその中で、首席入学者として淡々と話を述べていった。正直、式自体、最初はつまらない話ばかりだろうと思っていたが、意外と面白い話ばかりでソフィアは眠そうになっているリリーの横で耳を傾けていた。さすがは、トップクラスの学園である。学園関係者の質が高い。今度話を聞きに行きたいなと思っていた矢先、
「では最後に、この学園の生徒会長であるグレン・ルスタリオからの祝辞です。」
(キ、キターー-----------!!!!)
ほかの人の話を聞きながらも、今か今かと待ち望んでいたグレンの祝辞の番になった。リリーを含めた眠そうに話を聞いていたソフィアの周囲も、眠そうにしていたことが嘘かのように目を輝かせ、グレンに注目している。
「入学おめでとうございます。本日からあなた方は____」
美しい声で言葉を連ねていき、ソフィアも周囲も彼のとりこになっていた。
(今日もステキすぎる...。最後にお見かけしたときは2か月前の隣国の王太子訪問パーティー。それから、あまりに長かったですわ....。今日からあのお顔を毎日拝むことができるなんて....なんて光栄なことなんでしょう....あああああああ.....好きすぎる)
「これにて、私、グレン・ルスタリオによる祝辞とさせていただきます。」
推しの美しさに悶えていたため、体感時間1秒で祝辞が終わっていた。ソフィアはしばらく余韻に浸っていたが、グレンの祝辞が最後であったため、入学式も終わりのようだ。今日は入学式のみの予定であるため、生徒もちらほら解散し、帰っていっていた。
「ソフィア、さっきのすごくよかったわよ!さすがは親友!皆さん解散しているようだし、私たちもそろそろ帰りましょうか?」
「ありがとう。そうですね。...........ああああ、すごくかっこよかったですわ。さっきお見かけしたのに、もうまた会いたくなってます。」
「ああ、グレン様の話ですね。確かにすごく美しい方ですよね。ソフィアが好きなのすごく納得したわ。」
「で・す・よ・ね!!!!!!!わかりますか!!!!あのお美しい金色の髪に、エメラルドを閉じ込めたような碧眼の目、神の息吹と言わんばかりの美しい声、凛々しくもありつつ母のような温かいほほ笑み、それに...」
「あああ、もういいです!!!ちょっと話を広げた私が馬鹿でしたわ!早く帰りますよ!」
ものすごい食いつきようでリリーにグレンの良さを羅列していく。
「いえ、まだありますわ!グレン様の祝辞は彼の知性がところどころy....」
「お話の途中に申し訳ない。君がソフィア・アーガストさんであってるかな?」
これからだというのに、話に割り込んできたのは誰だと、少しムッとした気持ちで声をかけられた方を向くと、そこには今現在話していたグレン本人が立っていた。
「............は、は、はい。そうでございますですわ。」
動揺しすぎて、ソフィアは自分でも何を言っているかわからなくなっていた。
「本当に申し訳ない。僕はグレン・ルスタリオと申します。この国の王太子をしていて、学園では生徒会長をしています。ちょうど先ほどの式では祝辞を述べていた者です。ソフィアさんも今日のすごくよかったです。」
「あ、ありがとうございますですわ。」
「また、急で申し訳ないんだけど、これから王宮で話があるんだけど問題ないかな?おそらく君のお父上から聞いていると思うのだけど。」
「え?
...あ、そうですわね。聞いていました。問題ないですわ。」
(聞いていない。聞いたのかもしれないが、聞いていないですわお父様!)
持ち前の頭の回転の速さで、何とか答えを返したが、さっきから自分が言っていることもわからないし、グレンが何と言っているかもわからない。わかっているのは、推しが吐いた二酸化炭素を自分が吸っているということだけだ。
「そうか。よかった。では、さっそく向かおうか。」
「承知いたしましたわ。リリー、では、明日また学園で会いましょう。」
わけもわからないが、王宮に行かないわけにもいかず、驚きと心配を前面に顔に出したリリーを背に、王宮のへと向かったソフィアだった。
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