第18話 クリア
イフリートを単独撃破してから1月ほど経つ。
「ぐぬぬぬ……」
2対1の戦いはやばかった。
2体揃って正面から殴りかかって来てくれるなら、たぶんどうにでもなっただろう。
問題はこいつら、連携してきやがる点だ。
俺を前後で挟む形で。
挟み撃ちやばい。
マジヤバイ。
見えない所から飛んでくる攻撃とか、普通は回避できないからね。
上手く攪乱する様に動いて、前後を取られない様に立ち回れ?
それが出来たら苦労しないっての。
間合いを離して位置をリセットしても、こいつらお互いの距離を開けたまま、ジリジリにじり寄ってきやがるからな。
俺から攻撃したら瞬く間に挟まれるし。
こいつらその状態じゃ、絶対自分達から攻撃を仕掛けてこないのでお手上げだ。
壁を背にしたら?
それは俺も真っ先に考えたさ。
けど、端で壁を背にしたら、やつらは一定距離以上近付いてこない。
そう、その状態でも絶対攻撃してこないのだ。
そうなると睨みあいよ。
【奇跡の生還】には時間制限があるし。
フレイムやクールボディには体力消耗がある。
なので、睨み合いになるとこっちが一方的に不利になってしまう。
これで一体どうやって勝てと?
「くそっ……」
―—そんな折、転機は突然訪れた。
もっと相手を瞬殺できるようなレベルじゃないと、勝つのは厳しいだろうな。
そう思いつつも定期的に2体と対峙していた俺に、新たなアビリティが生えて来た。
その名も、
それはその名の如く、一定範囲内の空間を視界以外で認識するアビリティだ。
これにより、俺は背後の敵の動きすら把握できる様になった。
がっちりした第6感的な物だと思って貰えばいいだろう。
「そこだ!」
背後からのシヴァの攻撃。
俺はそれを振り返る事なく躱し、そして刃の属性を炎に変えて切りつけた。
「「——っ!?」」
俺の完璧な対応に、イフリートとシヴァが動揺を見せた。
空間把握のお陰か、その反応を、俺は如実に感じとる。
行ける!
未知への動揺。
それがイフリート達か、爺ちゃん達の物かまでは分からない。
召喚された魔物に意思があるかは不明だからな。
だが、間違いなく今が最高のチャンスだ。
【奇跡の生還】の残り時間は1分ほど程。
この30秒で決着をつけて見せる。
「オラァ!」
剣術アビリティ。
2刀流からの更なる派生である効果。
これは刃にオーラを纏わせ、舞う様に旋回しながら相手を斬りつける連撃だ。
俺はシヴァの腕を駆け上がりながら斬り付け、そして最後は頭部を狙って2刀を叩きつけた。
「ちっ、やっぱこれだけじゃ終わってくれねーよな」
それでシヴァを狩れればよかったのだが、世の中そうそう上手くはいかない。
奴は右手で、俺のフィニッシュブローをガードしてしまったのだ。
動揺しててもきっちり防いでくるあたり、ほんと、こいつらは厄介だ。
「くっ!なんて攻撃してきやがる!」
シヴァの背後に着地して振り返ると、奴の胴体には何故か穴が開いていた。
『そんな所攻撃してねーぞ?』なんて思う間もなく、その穴からイフリートの拳が飛んでくる。
どうやらシヴァは、イフリートに攻撃させる用の穴をわざと体に開けた様だ。
「けどな!」
もしこれがさっきまでの俺なら、イフリートの拳が直撃していた事だろう。
だが今は違う。
俺には
穴からパンチには純粋に驚いたが、動き自体は見えていた。
「はぁ!」
俺はその頭上からの拳を小さく飛んで躱し、その上に乗る。
そして再び
剣は冷気に。
体力の消耗は激しいけど、どうせもうそう時間は残ってないんだ。
ここで全て吐きだすつもりで行く。
「おおおおおおおおお!!」
イフリートの腕を斬り付けながら駆け上がり、そして俺は火属性へと斬り変えたラストアタックでシヴァの首を跳ね飛ばす。
まずは一体。
「次はお前だ!」
そしてシヴァの肩から、イフリートへと飛び掛かる。
幸いだったのは、シヴァは倒されても一瞬で消えなかった事だろう。
イフリートはその片腕を完全にシヴァの体に突っ込んでいる状態だったので、まともに動けない。
俺は奴の動けない腕側から落下し、冷気属性に変えた刃を連撃を叩き込んでやる。
肩。
脇腹。
そして太もも、足首に至るまで。
「くっ……」
イフリートがダメージから膝をつく。
だが俺も、着地の際、膝ががくんとなってしまう。
ブレードダンスを連続で使用した消耗による反動だ。
体が死ぬほど重い。
だが俺は歯を喰いしばり、三度ブレードダンスを発動させる。
「これで決める!」
膝をついたイフリートの丸まった背中を駆け上がりながら斬り付け、そして――
「終わりだ!」
俺は2刀による渾身の一撃を、その首筋へと振り下ろした。
胴体から離れるイフリートの首。
俺の、勝ちだ。
完!
いや、正確にはチュートリアル完。
だな。
まだ本番は始まってもいなし。
そんなくだらない事を考えながら、俺はイフリートの体から落下する。
疲労困憊でもう指一本動かせそうもなかった。
このままだと地面に激突だが、まあ物理耐性がある今の俺にとって3メートルぐらいの落下など、どうって事はないな。
とか思ってたら――
「見事じゃったぞ」
―—爺ちゃんが受け止めてくれた。
爺ちゃんは魔法使いだけど、魔法による肉体強化があるからな。
趣味に近い物とは言え、魔闘術なんてジャンルもあるわけだし。
「へへ、これで合格だよね」
「仕方ないのう。約束は約束じゃからな」
ふぅ。
これでやっとダンジョンに行けるな。
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