第10話 先は長い

奴に突っ込んで行くと――


「あっつぁ!?」


イフリートの全身の炎が揺らいだかと思ったら、次の瞬間、くっそ熱い熱波に襲われる。

俺はその熱に足を止め、全身を焙られている様な痛みに思わず悲鳴を上げた。


駄目だ。

こりゃとても近づけん。


俺は溜まらず、慌ててその場から引き下がる。


「壮太」


「ば、祖母ちゃん」


戻ってきた俺に祖母ちゃんが手を向けると、上から青い光が降り注いだ。

それと同時に、体から痛みが引いていく。

どうやら回復魔法をかけてくれた様だ。


「助かったよ。ありがとう」


「壮太よ。近づけんようでは話にならんぞ」


爺ちゃんの言う通りだ。

近付く事すら出来ないなら、戦う以前の話である。


「分かってる」


けど、全くどうしようも無いって事はない。

何故なら、今の一瞬でアビリティが手に入ったからだ。


―—熱耐性Lv1。


文字通り、熱に対する耐性を付与してくれるアビリティである。


「もう一回!」


俺は再びイフリートへと突っ込む。

再び熱波が奴から発せられるが、今度は耐えて見せた。


いやまあ、それでも滅茶苦茶熱いんだけどね。

けど、さっきみたいに我慢できない程じゃない。


「む……これに耐えよるか。なら――」


「ぐわっ!?」


再びイフリートの体の炎が揺らいだ。

そして今度も熱波。

けど、それはさっきとは比べ物にならない程強烈なものだった。


「あっっっつ!!」


俺は溜まらず後退する。

くそ、どうやら最初の熱波は加減された物だった様だ。


「壮太」


祖母ちゃんが回復魔法で癒してくれる。

有難い事だ。

お陰でまた突っ込めるという物。


熱耐性のレベルは1である。

つまり、熱を受け続ければレベルが上がっていくって事だ。


「まだまだ!」


再び突っ込む。

そして熱波で追い払われ、祖母ちゃんの魔法で回復させて貰う。


「壮太。無理をしちゃいかんよ。ダンジョンなんかに行かなくても、きっと自分に合った仕事が見つかるはずだから」


回復させて貰えるとは言え正直きつい。

だから祖母ちゃんの優しい言葉に、思わず甘えてしまいそうになる。


けど、ここで逃げるわけにはいかない。

俺は独り立ちして、ダンジョン探索で生計を立てるって決めたから。

そのためには、これを乗り越えなけばならないんだ。


まあ少なくとも……自分で宣言しておいて、三日坊主どころか、三回で諦めるなんて真似は出来ない。

そんな情けない姿を見せて、爺ちゃん祖母ちゃんに見せたくないからな。


「大丈夫。これぐらいどうって事ないさ」


そうだ。

赤の他人としたくもない会話をする事に比べたら、ちょっと焙られるぐらいなんて事はない。


「おおおおおお!」


俺は再びイフリートに突っ込んだ。

10回ぐらい熱々言いながらお祖母ちゃんに回復して貰った所で熱耐性がレベル2に。

さあこれで近づけるぞと思ったら、更に温度が上昇。


まだ手加減してたのかよ!


本気の熱がどれぐらいか爺ちゃんに聞いてみたら。


「今で1割ぐらいじゃな」


って愉快な返答が返って来た。

いーやマジかよ!


その後数十回突っ込んで熱耐性がレベル3になったところでその日は終了。

イフリートを倒せるようになるまでの道のりは長そうだ。


まあ……頑張ろう。

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