たとえ母上でもマリアを傷つけるなら許さない

3度目の生が始まってから、10日が過ぎた。まだ調査結果は来ない。調査には少し時間がかかるとのことなので、とにかく待つしかない。


その日僕は、いつもの様に剣の稽古に励んだ。あれから10日、マリアには会っていない。もうすぐ貴族学院の入学が控えている。貴族学院に入学すれば、ずっとマリアといられる。あと少しの辛抱とわかっていても、やっぱりマリアに会いたいな…


その時だった。


「殿下、王妃殿下がどうやらマリア様を呼び出した様で、今客間でお話をしている様です」


僕の元にやって来たのは、僕の専属執事だ。


「なんだって?母上が?」


嫌な予感がする。もしかしたら、マリアに酷い事を言っていないだろうか?そんな思いから、急いで2人がいる客間へと向かう。そこには、護衛騎士が2人立っていた。


僕が入ろうとすると


「殿下、今来客中でございます。ですから…」


「相手はマリアだろう?彼女は僕の大切な人だ。悪いが失礼するよ」


「しかし…」


「君たち、僕は王太子だよ。僕が入ると何か問題でもあるのかい?」


「いいえ…」


さすがに僕には逆らえないだろう。すっと1歩後ろに下がった騎士たち。


ゆっくりと扉を開けると…


「あなた、どんな手を使ってヒューゴをたぶらかしたか知らないけれど、この国は一夫多妻制なの。ヒューゴには側室を持ち、たくさんの子を作る義務があるのよ。それを分かっていないから、今すぐ王妃になる事は諦めなさい!第一王妃というのはね。激しい戦いを勝ち抜ける令嬢じゃないと、務まらないのよ。わかっているの?」


マリアを自分の前に立たせ、文句を言う母上。目に涙をためて、ただひたすら話を聞いているマリア。その姿を見た瞬間、怒りで体が震えた。


「母上、一体なにをしているのですか?」


すぐに部屋に入ると、マリアを背にかばう。


「ヒューゴ、どうしてあなたがここに?」


「そんな事はどうでもいい。母上、あなたって人は、何て酷い事を言うんだ。彼女は何も悪くない。僕が一夫多妻制が嫌なんだ。それなのに、マリアに文句を言うなんて」


「ヒューゴ、私はあなたの為を思って…」


「僕の為?ふざけた事を言うな!とにかく、二度とマリアに近づくな。もし今度マリアに近づいたら、ただじゃおかないからな」


そう叫び、マリアを連れ部屋から出る。そしてそのまま別の部屋へと案内した。本当は僕の部屋に連れていきたいところだが、さすがにそれはマズいと思ったからだ。


別の部屋に着くと、そのままマリアを抱きしめた。


「マリア、ごめんね。君に嫌な思いをさせてしまったね。本当にごめん」


母上のせいで、マリアに嫌われたら…そう思うと、気が気ではない。


「ヒューゴ様、私は大丈夫ですわ。でも、王妃様にあんな事を言って、大丈夫なのですか?」


不安そうな顔のマリア。


「僕の事を心配してくれているのかい?君は優しいね。僕の事は気にしないで。そうだ、せっかく王宮に来たんだ。一緒にお茶でもしよう」


近くにいたメイドにすぐにお茶の準備をさせ、2人でお茶を楽しんだ。その後はマリアを門まで見送る。


「マリア、今日は本当にすまなかったね。二度とあんな事が起こらないように、母上にはきつく言っておくから」


「私は本当に大丈夫ですわ。きっと王妃様は、ヒューゴ様を心配して私を呼び出したのでしょう。ですから、あまり王妃様に酷い事を言わないで下さい」


マリアはなんて優しいんだ。そんなマリアが愛おしくて、強く抱きしめてしまった。


マリアを見送った後は、再び母上を訪ねた。


「母上、少し宜しいですか?」


「ヒューゴ、あの…今日はごめんなさい。でも私は、あなたの為を思って…」


「僕の為?そもそも、なぜ母上は一夫多妻制に賛成なのですか?母上は一夫多妻制について、何を知っているのですか?」


「なぜって、今までずっとそうやってきたし。それに王族を繁栄させるためには、たくさんの子供が必要でしょう?」


「母上、そもそも一夫多妻制は、1000年前の国王が沢山の女性を愛したいという理由で作られた制度です。そして今、王族が増えすぎたせいで財政面を圧迫し、側室たちの子供たちの待遇に関しても頭を悩ませている事を知っていますか?第一母上は、父上を他の令嬢と共有する事に対して、何とも思わないのですか?」


「それは…でも、これは決まりなの。だからヒューゴ、あなたも…」


「間違った制度があれば、僕は正していくべきだと思います。とにかくマリアをこれ以上傷つけるようなことはやめて下さい。それでは、失礼します」


母上の部屋を後に、自室に戻ってきた。すぐに執事を呼び出し、今後母上を含め令嬢たちがマリアに嫌がらせをしない様、見張りの騎士を付ける様指示を出す。


「殿下…しかしそれは…」


「費用は僕の個人財産から出してもらって構わない。とにかく、これ以上マリアが傷つかないようにしたいんだ」


「…かしこまりました。すぐに手配をいたします」


そう言って部屋から出て行った執事。そういえば、ライアンはマリアに居場所が特定できる機械を付けさせていたな。そのお陰で、あの女の悪事を暴くことが出来なんだった。


もうすぐ貴族学院の入学式か…

クラシエ・ディースティン、あの女も入学してくるだろう。2度目の生の時の様に、マリアを傷つけるかもしれない。とにかく、用心しないと。

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