夢にまで見た3度目の生
ゆっくり目を覚ますと、懐かしい天井が目に飛び込んでいた。あれ?僕は、馬車にひかれ、命を落としたのでは…
まさか!
飛び起きると、辺りを見渡す。
間違いない、ここはかつて暮らしていた王宮の僕の部屋だ。急いで鏡の前に立つ。
「僕…幼い…」
何度も何度も鏡に映る自分を確認する。
「戻ったんだ…過去に…」
何度も夢見てきた3度目の生。嬉しくて涙が出る。その時だった。
「殿下、おはようございます」
「おはよう、ねえ、僕って今いくつ?」
僕を起こしに来た執事に、真剣に問いかけた。
「殿下、何を訳の分からない事をおっしゃられているのですか?あなた様は、14歳でしょう?今日は王宮で夜会が行われる日です。午後からご準備をお願いいたします」
14歳…
今日は夜会が行われる日…
きっとマリアのデビュータントの日だ。
こうしちゃいられない!
急いで飛び起き、部屋から出る。
「殿下、どこにいかれるのですか?そんな恰好で…」
後ろで執事が叫んでいたが、今はそれどころではない。急いで父上の元へと向かった。
「父上、大事な話があります」
「ヒューゴ、一体どうしたんだ?そんな恰好で」
僕が寝間着姿だったためか、父上がかなり驚いている。
「父上、僕は一夫多妻制に反対です。僕はたった1人の女性だけを愛したい」
2度目の生の時、異母兄上は父上を説得し、一夫多妻制を廃止させた。だから、僕も!そう思ったのだが…
「ヒューゴ、一体何を言っているのだ。王族は一夫多妻制と決まっているのだよ。そんなバカな事を言っていないで、すぐに着替えてきなさい」
そう言って、父上に追い出されてしまった。やっぱりそう簡単に、王族の一夫多妻制を廃止する事は出来ないか…
こんな事なら、2度目の生の時、どうやって異母兄上が一夫多妻制廃止に持ち込んだのか、詳しく聞いておけばよかった。
それに、マリアが僕を受け入れてくれるとも限らない。2度目の生の時の様に、マリアに1度目の生の時の記憶が残っていたら、きっと僕を受け入れてはくれないだろう…
2度目の生の時、どんなに僕が求めても、マリアは振り向いてくれなかった…その時の記憶が、僕の中で鮮明に残っているのだ。
ダメだ、つい悪い事ばかり考えてしまう。せっかく過去に戻れたというのに。そうだ、こんな時は、体を動かそう。
そう思い、稽古場へと向かい汗を流す。僕は一応王太子だ。最低限自分の身は自分で守れる様、武術も学んでいる。体を動かした後は、自室に戻り汗を洗い流した。
その後は朝食をとるため、食堂へと向かう。そこには、母上がいた。久しぶりに見る母上。そういえば、最後に見た母上は、僕のせいで寝込んでいたな…
「ヒューゴ、今日は王宮主催の夜会があるわ。きっとこの夜会をきっかけに、またあなたの妃になりたいという令嬢たちから、申し込みが来るわよ。既にたくさんの申し込みが来ているものね。さすが私の息子だわ」
嬉しそうに微笑む母上。
「ねえ、母上。僕はたった1人の令嬢だけを愛したいんだ…だから、一夫多妻制を廃止したいと考えている…」
僕の言葉に、目を大きく見開いた母上。
「ヒューゴ、あなたは一体何を言っているの?そんな事、出来る訳ないでしょう?いい、あなたは王太子なのよ。沢山の子供を作って、王家を盛り立てて行かないといけないのよ」
案の定、そう言われてしまった。
その後は母上から、いかに一夫多妻制が素晴らしいものかを、延々と聞かされた。特に王妃になる為には、厳しいお妃争いを勝ち抜いてこそ、立派な王妃になれると。
はっきり言って、我が強く自慢話しかしない母上が、王妃にふさわしいとは僕は思わない。
そんな思いから、僕はさっさと食事を済ませ、その場を後にした。これ以上母上の話なんか、聞きたくなかったからだ。
部屋に戻ると、午前中は剣の練習や国王になる為の勉強をこなす。また母上に捕まると面倒だと思い、昼食は1人でさっさと済ませた。
そして、今日の夜会の準備へと取り掛かる。
準備が終わると、いよいよ今日の会場でもある王宮のホール近くにある控室へとやって来た。そして、入場の時を待つ。
「ヒューゴ、今日のあなたも、とても素敵よ」
そう母上が声を掛けてくるが、適当に返事をしておいた。いよいよ王族の入場だ。父上と母上と一緒に僕も入場する。
ふと周りを見渡すと、真っ赤なドレスに身を包んだ、マリアが目に入った。10年ぶりに見るマリアは、やはり美しかった。
マリアを見た瞬間、涙がこみ上げてきた。ダメだ、こんなところで泣くわけにはいかない。必死に涙を堪えた。
そして、いよいよ夜会が始まった。僕の周りには、たくさんの令嬢たちが集まって来た。いつもの様に、マウント合戦を繰り広げている。相変わらずな光景に、つい苦笑いをしてしまった。
そんな事よりもマリアだ。ふとマリアを探すと、両親と一緒にいた。キョロキョロと辺りを見渡しているかと思ったら、そのまま中庭へと出て行った。
これはチャンスだ。
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