第6話 異空間
お断りします、という言葉は恐らく言っても無駄だ、と伊上は察した。
担任は思い立ったが吉日とでも言わんばかりに勢いよく立ち上がり、顎で伊上に付いてくるよう促した。
旧校舎のことを学生は不気味がっていた。
現在使用している校舎も30年は経つが、旧校舎は60年以上前にできている。
現校舎にメインを変えてからは科学部が時々理科室を使用するくらいで、他は誰もり付かない。時間の止まった、所謂廃墟のような場所だ。
まだ使用されている時でさえ、心霊現象は多かったと聞く。
それだけ様々な思いが込められている場所で、伊上にとっては有難みを感じる場所であったのだが、それは同級生には理解できない考え方のようだ。
「お前と植志田が旧校舎で時々屯っているのは知っているが、何か良からぬことはしでかしてないだろうな?」
担任はペッと唾を吐くように、歩きながら呟いた。
何故そこまで嫌われるのかは分からないが、担任は伊上と植志田のことを目の上のたんこぶのように見ている。
「何も。教室で喋っていたら、コソコソと嫌味をいう連中がいるから旧校舎にいくんですよ」
伊上と植志田がただ何気ないことを話しているだけで、クラスメイトは茶化したり陰口を叩き、果ては今朝の榎木のように行動に出るものもいる。それで落ち着いて話すというのもバカバカしい。構わないのが一番だ。
伊上はともかく、植志田はやや直情的で偶にその安い挑発に乗ってしまうことがある。「自分の株が下がる」というのは彼も分かっているようだが、まだ学生。カッとなってしまうこともあるようだ。
担任は大きく舌打ちをし、「つくづく生意気な奴だ」と嫌味ったらしい。
一階奥の古びた重い鉄の扉の前に着くと、伊上に「押すのを手伝え」と言った。
確かに重い扉だが、成人男性が一人で開けられない扉ではないだろうに、と内心冷ややかな目で見ている伊上だった。
「よいしょ、と」
この扉は力任せでは開かないのを、担任は知らなかったようだ。
少し左に寄せるような形で押せば簡単に開くのを見て、ますます担任は不愉快そうな顔をする。
鉄の扉を軽く殴り、担任は「来い」と言った。
廊下を歩くたびに、床の木がキシキシと音を立てている。
担任はポケットからハンドライトを出し、やや薄暗い旧校舎の地下に降りていった。
「…ここだ。伊上、視えるだろう?」
地下にある管理人室の前で、担任は立ち止った。
彼の目の前にある管理人室の扉は、朝に榎木が吸い込まれたものと同じ異空間の入り口のようなものができている?
いや、少々朝とは違う。本来なら扉を開ければ駐在するスペースがあるだけなのに、その異空間の入り口からは全く見たことのない、広そうな石作りの空間が見えていた。
「これが…最近話題になっている異空間…キャッ!!」
担任は伊上が呟いた瞬間、彼女の左腕を引っ張って体制を崩させて異空間の中に放り込んだ。
担任の思惑通りだったのか、異空間は伊上が入った直後に閉じてしまった。
「ククッ!これでもうこんなふざけたものはできないだろう!人身御供だ、悪く思うなよ、伊上!!」
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