深緑の眼は惹かれる エピローグ
新学期に入り学校がはじまって数週間がたった。まだまだ暑さが残るなか、俺は相島君たちと一緒にグラウンドに向かっていた。
「こんな暑いのに長距離走なんて頭おかしいよな」
「だね。俺もさすがにきついかな」
「西野って結構体力あるよな。この間の授業でも早めに走り終わってたし」
そんななんでもない話をしながら運動靴に着替えて外に出る。9月になったとはいえ、まだまだ日差しは強くて暑い。そして体育の授業がはじまり、各自グラウンドを指定された回数走る。無言で走りながら俺は新学期に入ってからのことを思い返していた。
俺は新学期に入ってまず相島君たちになるべく自分から挨拶をするようにした。みんな最初は驚いた顔をしていた。でも俺から俺自身の壁を薄くしていくことで次第にみんなの方からも挨拶や雑談を振ってくるようになった。
特に相島君は俺のことをかなり気にかけてくれていたようで、最初に挨拶した日からお昼に誘ってくれたりみんなの輪に入れるよう行動してくれた。本当に相島くんには頭が上がらない。
「ラスト1週ファイトー」
相島君の話によると、クラスのみんなは俺のことを気にしながらも俺が壁を作っていたことから無理やり引き入れるのは良くないと考え、様子を見ていてくれたらしい。しかし最近俺から挨拶をして壁を薄くしたため、これなら大丈夫だろうと判断しみんなからも話しかけるようにしたとのことだ。
みんな優しい人たちだ。相島君も、クラスのみんなも、そして早川さんも。まだ相島君たちには眼のことは話せていない。眼鏡もかけたままだ。確かに俺は人との距離を縮められるようにはなったけれど、そう簡単に過去の傷を癒せるわけではない。でも、それでもきっとこれから先の未来で、俺は眼鏡をはずして歩けるようになるだろう。
そんな風に考えるようになったのはきっと早川さんのおかげだろう。早川さんは何があっても俺の味方でいてくれると言ってくれた。その言葉が俺の背中を押して、クラスの人たちとの距離を縮めてくれたのだ。彼女に会って俺の高校生活、いや人生は変わった。大げさかもしてないけれど、きっと本当のことだ。
「西野くん!お疲れ様」
「早川さんもお疲れ様」
体育の授業が終わると早川さんがこちらに向かってきた。早川さんとはあの日を境に付き合いはじめた。正直恋人なんて初めてできたから何をするかなんてわからないけれど、俺たちは俺たちらしくゆっくり進んでいこうと決めた。
「今日の放課後本屋さんに行かない?私買いたい本があって」
「いいよ、帰りによっていこう」
そんな話をしながら教室に戻る。俺はこんな何でもない日が好きだ。早川さんが隣にいて、相島君たちとなんでもない話をしているこの日常が。こんな日がずっと続けばいい。
放課後はいつものように手をつないで一緒に帰ろう。それでなんでもないことを話しながら一緒にいる時間を積み重ねていこう。
このなんでもない日常が、どうかずっと続きますように。
Q.あなたにとって恋とはなんですか?
早川奈緒 A.隣にいて安心できるものです。
西野淳 A.自分自身を変えてくれた宝物です。
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