あの日

 あら、眠れないの? めずらしいわね。



 ふふ、それじゃあ昔みたいにお話する? 



 内容は……むかし話にしましょう。



 ちょうどあの日のことを思い出していたの。アナタが私を外に連れ出してくれたあの日のこと。



 何回もこの話してるかもしれないけど。



 いいじゃない。何回でも話したいの。



 いい?



 アナタ、目から水を出しながら戻ってきたわよね。それで、私をいじめていたおじさんと話してくれたの。


 私は隅っこから覗くことしかできなかったから、何を話しているのか分からなかった。


 その時は、私を連れ出そうとしてるなんて思いもしなかった。



 でも、忘れられないの。



 おじさんに連れられて歩いて行った通路の先に、アナタが待っていたことを。



 ……私を抱きしめてくれた。



 すごく……温かかったわ。



 そして「ウチにかえろう」って言ってくれたわよね?


 「ウチ」って何のことだろう? って思ったわ。でも、その後すぐに分かった。


 「ウチ」ってアナタと同じくらい温かい場所。


 お義父さんがいて、お義母さんがいて、お義姉さんがいて……そして、アナタがいる。



 みんな笑顔だった。



 私には眩しいくらいだって、そう思った。


 でもアナタは「おかえり」って言ってくれた。



 今なら分かる。その意味が。



 「ウチ」も「かえろう」も「おかえり」も全部アナタが教えてくれた。



 その時、気付いたの。



 私は……アナタが好きだって。



 一生をこの人と共に歩きたいって。



 なんだか改まって言うと恥ずかしいわね。



 いつもならもっと「好き好き〜」って言えるにね。



 ……もう眠そうね。



 また明日お話しましょう。



 おやすみ。また明日ね。

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