第47話 秘境の里に向かうと

翌朝、アイゼンとルナは宿屋で依頼人であるフラミンゴ獣人の女性が待つという地下道に向かう準備じゅんびをしていた。


地下道は街の下の広範囲に広がっている。


アイゼンとルナは宿屋の部屋で依頼書に書かれた記号をみていた。


依頼書にはいくつもの数字が羅列られつしていた。


アイゼンは数字の列を見て首をかしげた。


「数字だけ?」


「ええ。暗号になってるわ」


「そうなんだ。暗号はけたの?」


「ええ。簡単な暗号よ。迷路のような地下道を碁盤ごばんに見立てて数字を振っているだけ」


「なるほど」


「依頼書をやぶいていいかしら。他の人が見ても分からないと思うし、有効期限も切れて暗号は役に立たないけど」


「うん。一応ね」


ルナは依頼書を粉々に破り捨てた。



アイゼンとルナは宿屋を出ると地下道への入り口に向かった。


地下道への入り口は街の中にいくつもあり宿屋の近くにもあった。


アイゼンとルナは階段を下り、地下道に足をみ入れた。


地下道の壁は赤色をびた土で出来ていた。


地下道にはあかりが所々に設置されていたが全体的に暗かった。


ルナが歩き出したのでアイゼンもその後に続いた。


「ここって何のための地下道なんだろ」


「ビールやワインの発酵はっこうや保管に使われているわ」


「そうなんだ。それにしては広すぎない?」


「そうね」


アイゼンとルナは黙々もくもく薄暗うすぐらい地下道を進んでいった。


すると広い空間があらわれた。


ルナの言う通り地下道に造られた広い部屋にいくつもの木のたるが保管してあった。


「あ。おお。いっぱいあるね。あの木の樽にビールやワインが保管してあるんだ」


アイゼンは興味津々に地下道に置いてある木の樽をながめながらルナの後に続いた。



アイゼンとルナは地下道の十字路を何度も曲がり奥へ奥へと進んでいった。


「何回も曲がるんだね」


「ええ。尾行対策でもしているのでしょう」


「なるほど。近くに誰かいる?」


「いえ。周辺の地下道には誰もいないわ」


「そうだよね。朝っぱらから地下道にいたらあやしいもんね」


しばらく行くと照明しょうめいが付いていない真っ暗な地下道にたどり着いた。


「灯りがないよ」


「この先よ」


「そうなんだ」


「アイゼンに暗視の能力を追加するわ」


「お願い」


すると、アイゼンの視界が暗闇の中をはっきりと見ることができるようになった。


「行きましょう」


「うん」


アイゼンとルナは真っ暗な地下道を進んだ。


しばらく行くと、アイゼンとルナはビールが入った木の樽が大量に保管してある地下室にたどり着いた。


アイゼンとルナが部屋の中に足を踏み入れると、暗闇から女性の声がひびいて来た。


「冒険者パーティー『女神めがみ』さんですか?」


「ええ。そうよ。私はルナ。彼はアイゼンよ」


部屋の奥からフードをかぶった人物が二人出てきた。


女性の一人が灯りをともした。


ランタンの光で暗い室内が少し明るくなった。


二人はフードの付いたロングコートを着ていた。


灯りでらされたおかげで、フードの奥にあわい薄ピンク色の髪の毛がのぞいて見えた。


「私はリタ」

「私はリリアです。里までの護衛をお願いします」


「うん。よろしく」

「よろしく」


「冒険者パーティー『女神』様のおうわさはかねがね聞いております。依頼を受けてくださり感謝しております。信頼はしていますが、里までの案内は私たちがしますので指示に従ってください。『女神』様は護衛にだけ集中してください」


「わかりました」

「ええ」


「それと、私たちは常にねらわれていますので外ではフードはぎません。まだまだ髪の毛のピンク色が完全に抜けきっていなくて目立ちますので」


そう言うと二人の女性は地下道を歩き出した。


地下道を出ると、アイゼンたちはそのまま街の外に向かった。


領都シャルトルーズの外に出るとアイゼンたちは街道を北西に向かった。


リタが舗装ほそうされた街道の先を見ながら言った。


「ミューテッド領に向います」


「はい」


ルナがアイゼンに地理を説明した。


「ミューテッド領の北はウイロウ領、さらに北に行けば王領だよ。西はモスグレイ領で南はセラドン領だね」


「なるほど。領都ミューテッドには立ち寄るんですか?」


アイゼンがフラミンゴ獣人の二人に聞いた。


「いえ。我々の里はミューテッド領の南部にありますので、領都まではいきません」


「そうなんだ」

「近くて助かったわね」


「『女神』様はどこかに行く予定があったのですか?」


リタはルナの目を見て言った。


「ええ。セラドン領の西部にあるという『千歳緑ちとせみどりの森』に調査に向おうとしてたの」


「えっ!?」」


フラミンゴ獣人の二人はフードの中で驚愕きょうがくの表情を浮かべていた。


「あそこは非常に危険なダンジョンですよ。森に立ち入っただけですさまじい攻撃を受けます。入らないほうがいいです」


「えっ。そうなんですね。教えてくれてありがとうございます」

「気を付けるわ。まずは近くの街で情報収集することにするわ」


「それがいいです。森の西に温泉街があるので行ってみてはどうですか?」


「そう。おぼえておくわ」

「へえ。温泉があるんだね。行ってみようかな」


「ぜひ」」


「領都はどんな街なんですか?」


「ミューテッド領の中央にある領都ミューテッドはアルケド王国で5番目に大きな都市で、中心部を川が流れています。街の建物は木造りで階段状の三角屋根をしています。リンゴ酒が特産です」


「へえ。そうなんですね」



夕方頃、アイゼンたちはそこそこ大きな街にたどり着いた。


すると、リタが街道沿いに広がる畑を指さした。


「見てください。ここはワインの産地で、ブドウ畑が広がっていますよ。もう収穫しゅうかくは終わっていますけど」


「へえ。そうなんだ」


アイゼンが見ると街の周囲にはブドウ畑が広がっていた。


アイゼンたちは要塞ようさいのように頑丈がんじょうな城壁に囲まれた街に入った。


「すごい城壁ですね」


「ええ。なぜかこの辺りは盗賊や夜盗など犯罪組織が沢山たくさんいましてね」


「そうなんですね」


アイゼンたちは宿屋にまった。



翌朝、アイゼンたちは日の出と共に街を出発した。


街道を西に進んでいくと、途中で道が二手に分かれていた。


舗装された街道から舗装されていない道が枝分えだわかれしていた。


前を歩くリタがアイゼンとルナを振り返った。


「このまま大きい街道を進んでいくと領都に着きます」


「そうなんですね」


「ですが、我々の里は領都の南にありますので左に曲がります」


「はい」


アイゼンたちは街道から外れ、鋪装されていない細い街道に進んだ。


街道を進んでいくとどんどん森が深くなっていった。


すると、二人が立ち止まった。


「ここから道を外れ森の中を進みます。道は里まで続いていませんので」


「そうですよね。秘密ですもんね」


「はい」」


アイゼンたちは道を外れ、うっそうと木々がしげる森の中に入っていった。


しばらく道なき道を進んでいると、ルナが警告けいこくを発した。


「止まって。前方に複数の人がひそんでいる」


「っ!?」」」


「あなた方を狙う犯罪者集団の一味でしょうね」


「見つからないように移動できそうですか?」


「無理ですね。すでに補足ほそくされているわ。どこからか私たちを見つけ近づいてきたのでしょうね」


「そうですか。『女神』さん、お願いできますか?」


「ええ。仕事ですので。お二人はここでかくれて待っていて」


「わかりました」」


フラミンゴ獣人の二人はしげみに身をひそませた。


アイゼンとルナは森の中に進んだ。


「ルナ。何人いるの?」


「10人。こちらに向かってきている」


「そう。ルナは人に攻撃できないから陽動ようどうして。俺がとどめを刺すから」


「わかったわ」


アイゼンは魔盾と魔剣を手に持つと透明化とうめいかスキルを発動した。


「『透明化』」


アイゼンは透明になっているが気配を消せないし、音を消して歩くこともできないので強者にはすぐに存在がバレてしまう状態だ。


「じゃあ、行こうか。一応、犯罪者集団かどうか確認しないとね。こんな森の中にいるのは不自然だけど」


「そうね」


アイゼンとルナは森にひそむ集団の元に向かった。


ルナがやぶをかき分けガサガサ音を立てながら進んでいき、その後ろを透明になったアイゼンが進んでいた。


しばらくしてルナが立ち止まり大声を上げた。


「出てきなさいっ。隠れていることは分かっているわよ」


ヒュッ


森の中、どこからか矢がルナに向かってはなたれた。


パシッ


ルナは矢を平然と片手でたたき落とした。


森の中に男の声が響いた。


「冒険者っ。フードをかぶった女たちは何処どこだっ。あいつら、フラミンゴ獣人だろ。命を助けてやるから俺たちに引き渡せっ」


ことわる」


「一人で何が出来るっ。命は取らねえ。お前も売りさばいてやるからよ」

「げへへ」」」」」」」」」


「あなたたちにはできないわ」


「ちっ。やっちまえっ。殺すんじゃねえぞっ」

「うおおおおおおっ」」」」」」」」」


森の中から盗賊の格好をした男たちが一斉にルナに向かっておそいかかって来た。


ルナが背後にいるアイゼンに小声で話しかけた。


「アイゼンは一呼吸おいて攻撃を」

「わかった」


アイゼンは立ち止って状況を見ることにした。


ルナは少し前に出て男たちの注目をさそった。


手に剣を持った男たちがルナに殺到さっとうした。


ルナは襲い来る男たちの攻撃をかわし続けた。


剣を振り回していた男がさけんだ。


「くそっ。当たらねえ」


すると、ルナの背後に回った男がルナに攻撃を仕掛けようとした瞬間、激痛が襲った。


「ぐあっ」


男の絶叫ぜっきょうが森に響き渡った。


ルナを囲んでいた男たちの目が一斉にその男に向かった。


男が怪我を負い、ひざを付いていた。


リーダーらしき男がひざを付いた男に声をかけた。


「っ!? どうしたっ」


「わからねえ。攻撃を受けたようだ。ぐあっ」


男は2度目の攻撃を受け倒れした。


「っ!?」」」」」」」」」


リーダーらしき男がルナを見た。


「おいっ。仲間がどこかに隠れてんのか? それとも貴様が何かやったのか? 男は獣人の見張りについてるんだろ?」


「さて」


ルナはそう言うと高速で動き、リーダーの背後に回った。


「っ!?」


ルナはリーダーをうでを取ると背後に回し、白砂製の縄で両腕をめ上げ拘束こうそくした。


「ぐっ!? 早えぇ」


「犯罪者を拘束します」


「リーダーっ!?」」」」」」」」


「ぐあっ」


リーダーに注目が集まった瞬間、今度は別の男が一撃でアイゼンに倒された。


「っ!? 気を付けろ。やっぱり何かいるぞっ。ぐあっ」


錯乱状態さくらんじょうたいになった男たちはアイゼンとルナによって無力化されていった。


森の中に怪我けがをした犯罪者集団が横たわり、怪我の痛みでうなっていた。


縄を振りほどこうとあがいている者もいた。


「アイゼン。拘束した者たちはどうする?」


「置いていこう。残念だけど連れてはいけない」


「そうね。だったら私が冒険者ギルドネットワークを通じて地元冒険者ギルドに連絡れんらくしておくわ」


「それがいいね。お願い。二人の所に戻ろうか」



アイゼンとルナは二人の所にもどってきた。


森の中に潜んでいた二人がアイゼンとルナの接近に気付いて姿を現した。


「お帰りなさい」」

「上手くいったようですね」


「ええ。少し移動して休みましょう。周囲には人の気配はありません」


「そうですね」」


アイゼンたちは森の中を少し移動し休憩きゅうけいをした。


しばらくしてアイゼンたちは再び森の中を進んだ。



その後もアイゼンたちに盗賊にふんした犯罪者組織の襲撃しゅうげき頻発ひんぱつした。


アイゼンとルナはその集団を返りちにしていった。




アイゼンたちは森の中でつかの間の休憩をしていた。


すると、リタがアイゼンとルナに申し訳なさそうに話しかけて来た。


「狙いは私たちですが、奴らはこの近くを通る者を見境みさかいなく襲っています。その中にフラミンゴ獣人がいれば当たりですから。そうじゃなかったとしても金目のものを奪って小遣こづかかせぎになるだけです」


リリアも話に加わった。


「犯罪組織は一つだけではありません。目的もそうです。我々が所持している火属性魔力原液だったり、里の情報だったり、私たちそのものだったり様々です」


アイゼンが二人に聞いた。


「一年中狙われているんですか?」


「そうですね。私たちが里を出る目的は魔力の体外への排出はいしゅつと火属性魔力原液の販売です。里は火属性魔力が豊富な土地なのです。体内に魔力がまると白い髪の毛が赤くなります。体内に魔力がまる速度も個人差がありますし、魔力が抜ける速度も人それぞれです。里の外に出る時期はバラバラですのでいつも狙われています」


「そうなんですね」


アイゼンたちは休憩を終え、森の奥に向かった。


アイゼンたちは黙々もくもくと森を進んでいると、次第しだいに犯罪者組織の連中に襲われなくなった。


アイゼンが周囲を見渡しながら二人に話しかけた。


「襲撃に会わなくなりましたね」


「ええ。森の奥地は凶悪な魔獣が住む秘境です。冒険者も立ち入りません」


「っ!? そうなんですね。危険なんですね」


「ええ。ですが、我々は森の中に隠された安全な通り道を知っていますし、魔獣に襲われない方法も熟知じゅくちしています。ですのでここまで来ると安全です」


「そうなんですか。安心しました」


しばらくして、アイゼンたちは日がれたため野営をすることになった。


アイゼンたちは食事を済ませ焚火の周りでのんびりとくつろいでいた。


リタがアイゼンとルナに言った。


「もう少しで里に着きます。ここまでの護衛有難うございました」

「ありがとうございました」


「いえ。無事依頼が果たせそうでよかったです。最後まで気が抜けませんが」


「そうですね。朝になるまでは緊張感を持った方がいいですね」


「周囲には人も魔獣の気配もありません。皆さんはゆっくり休んでください」


「はい」」


アイゼンたちは暗い森の中、焚火たきびの囲んで休んでいた。



しばらくして、フラミンゴ獣人の二人はその顔に戸惑とまどいの表情を浮かべていた。


アイゼンは焚火に当たりながらコクリコクリと舟をこいで寝ていた。


リタが小声でリリアに話しかけた。


「ちょっと。魔法を発動したのに、あの人だけ寝ないんだけど」


寝ているアイゼンと立って周囲を警戒けいかいしているルナを交互にチラ見した。


「さすが第1級ね」


「そんなこと言ってる場合ですか。早くしないと里に着いちゃうよ」


リタが立って森の奥を見ているルナに話しかけた。


「ルナさんは寝ないんですか?」


「ええ。私にはお気遣きづかい無用です。お二人は寝てください」


「そうですか」


次にリリアがルナに話しかけた。


「お話しませんか? まだ眠くなくて」


「ええ。かまいませんよ」


「ルナさんは魔法は得意なんですか?」


「いえ。得意ではないわ」


「そうですか。ということは魔法に対する防御は装備や魔道具ですか?」


「何もしてないわ」


「えっ。魔法を使う相手と戦う時はどうしているのですか? もしかして魔法使いと戦わないとか。魔法を使う前に倒すとか」


「戦ったことありますよ。魔獣は魔法を使うから」


「そうですよね。ということはすべて避けるとか? 魔法が効かない体質とか?」


「そんなことはないわ。攻撃を食らえばダメージはあるわ」


「ですよね。呪いとか精神操作系とか幻術とか暗示のたぐいは?」


「そういうのは全くかないわ」


「そ、そうですか」

「ね、眠たくなったのでそろそろ寝ますね」


「ええ。おやすみ」


「おやすみなさい」」


二人は焚火のそばでマントで全身をおおい横になった。


二人は顔を近づけ小声で会話を始めた。


「どうしよう」

「仕方ない。次は別の方法をためします。最悪の場合はアレで巻きましょう。近くを歩いているって情報があった」

「そうね。危険だけど、もうなりふり構っていられないわ」

「ええ。里の正確な位置は誰にも知られるわけにはいかない」

「里に到着とうちゃくする前に何とかしないと」

「そうね」


二人は眠りについた。


ルナは二人の小声の会話をすべて聞いていた。


ルナは暗闇にまる森を眺めながらつぶやいた。


「さて。どうすればすべてがうまくおさまるでしょうか」

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