第24話 鬼人族に遭遇すると

アイゼンとアンドロイドのルナは『竜王の庭園ていえん』ダンジョンの地下26階に到着とうちゃくし、地下27階へのとびらを守っている4体の石像と戦うことになった。



アイゼンとルナは第1級冒険者パーティー『レッドビーク』たちが待機たいきしていた部屋から石像がいる広大な部屋に移動した。


アイゼンが待機部屋から石像の部屋を見渡みわたすと、奥のかべとびらがあり、その両側に巨大な石像が2体づつ座っていた。


アイゼンとルナが部屋に入ると、部屋の壁際かべぎわに座っていた4体の巨大な石像がゆっくりと立ちあがった。


石像は男の姿をしていた。


ルナが高さが9メートルはある石像を精査せいさした結果をアイゼンにげた。


「白砂で造られた石像ではありますが、白砂は作動していません。頭部に異物いぶつを確認できました。石像に魔力が宿やどって動き出したと思われます。いわゆるゴーレムでしょうか。とすると誰かの命令を受けている可能性があります」


「なるほど。勝てそうなの?」


アイゼンは巨大な石像に対して強度きょうどが心もとない丸盾をかまえた。


「おまかせください。まずは相手の能力と攻撃方法を確認します。私に反応はんのうするかどうか分かりませんので、アイゼンはこの部屋のギリギリの位置に立っていてください」


「わかった」


4体の石像がドスドスと足音を立てながらアイゼンとルナにせまってきた。


アイゼンが入り口で見守る中、ルナは石像たちに向かって走り出した。


石像の攻撃は単調たんちょうこぶしを打ちおろして来たり、足でみつけるものだった。


ただ威力いりょく絶大ぜつだいで、ルナに回避かいひされた石像の拳や足がゆかにぶつかると巨大な音ともに床が振動しんどうふるえていた。


ルナはしばらくの間、4体の石像の攻撃をかわし続けていた。


ルナが戦い始めてからほどなくして、『レッドビーク』たちが武器を装備して部屋に入ってきた。


王国最強パーティーとうわさされる『レッドビーク』は5人組で、リーダーのジークフリードのほかに魔法使いの女性と大盾を持った男と剣を持った男性が二人いる。


大盾の男は石像との初めての戦いのときに石像の一撃をモロに受け、盾ごと吹っ飛ばされて大怪我おおけがったことがある。


大盾の男は怪我が回復後、再び今回の『竜王の庭園』攻略に参加したが、石像の力が強すぎて単独たんどくで石像の注意を引きつけることが不可能なため、遊撃ゆうげきの一人として誰かに石像の攻撃が集中しないように立ちまわることになった。


『レッドビーク』たちが部屋に入ってきたことをさっし、ルナが石像との戦いを止めアイゼンの所にもどってきた。


『レッドビーク』のジークフリードがルナに話しかけた。


「無茶をする。君の動きは見事だがね。あの石像がどんな奴かを見せてやるから、まずは見ていてくれ」


ジークフリードがこしに差してある白いさやの剣に手をけた。


「君たち。今から剣をくから出来るだけ僕の剣を見ないように注意してくれ。ちょっとばかしまぶしくてね」


「わかりました」


ジークフリードが剣を抜くと強烈きょうれつな光が部屋の中をらした。


(うわっ。まぶしっ)


アイゼンは丸盾をジークフリードに向けた。


ルナがアイゼンの前に移動し、光からかばった。


「ちょっとどころではないようですが」


まない。こういう魔剣なんだ。だがこの程度ていどおどろいてもらってはこまる。すぐ終わらせるよ」


ジークフリードが光る剣を一振ひとふりするとすさまじい光の奔流ほんりゅうが部屋中をくした。



ジークフリードが一番近い位置にいる石像に近づいた。


すると石像がジークフリードに向かって拳を振り下ろした。


ジークフリートは石像の右腕を閃光せんこうの魔剣で一閃いっせんした。


石像の右腕が見事に切断せつだんされ、地面に落下しにぶい音を立てた。


すると、落下した右腕がくずれ砂となり山を作った。


うでを切られた石像が砂の山に右足をむと、砂の山が一瞬でなくなり右腕が復活ふっかつした。


ジークフリートはルナの所に素早すばやく戻ってきた。


御覧ごらんの通り切っても切ってもすぐ復活するんだ。魔石がどこかにあると思うんだけど、残念ながらまだ見つけられなくてね。一体を倒すのに時間がかかって、苦戦する仲間の援護えんごにも行けない。4体と戦いながらだとなおさらだ。魔法の攻撃の効果もかんばしくなくてね。それに砂のゴーレム相手じゃ、いくら光がまぶしくても全く効果が無いのさ」


「味方の方が被害ひがいが大きいのでは」


ジークフリードはルナを見て苦笑にがわらいをかべた。


「全くだ。君は平気なようだね」


「はい」


おどろいた。君は何か特殊とくしゅな魔法でも使っているのかな。くわしくは聞かないけど」


すると、巨大な火の玉が石像におそい掛かった。


ドウンッ


アイゼンたちに近付いて来た石像に巨大な火の玉が衝突しょうとつし炎が石像をつつみ込んだ。


レッドビークの女性魔法使いが魔法を発動していた。


しかし、火が消えると石像の表面は黒焦くろこげになっていたが、何事もなく動きジークフリードたちに襲い掛かってきた。


ジークフリードたちは石像の部屋から外に出ると、石像たちは追ってこなかった。


石像たちはその部屋から外には出られないようだ。


「火属性魔法も表面を焼くだけで効果がないのさ」


「そのようですね。では、私が2体引き受けます。残りの2体はあなたたちでお願いします。私たちが石像を倒してもいいですか?」


「それは構わないけど、すごい自信だね。君、何者なんだ。ランクは?」


「第3級です」


「3級? そうか。ランクを上げるよう冒険者ギルドに進言しんげんしておくよ。共に戦おう」


「わかりました。アイゼン。行きましょう」


(っ!? おとりか。頼んだぞ。ルナ)


アイゼンは丸盾を持ちルナと共に前に出た。


ジークフリードたちもその場にいる全員で石像たちに戦いをいどんだ。



アイゼンがルナと左側の2体の前に進んでいくと2体の石像がドシドシと足音を立てながら襲って来た。


アイゼンの前に立つルナが向かって来る二つの巨大な拳を上からたたきつけた。


ドガッ。ドガッ


すると、石像たちの拳が地面を叩いた。


石像たちが前かがみになったところで、ルナが石像たちの顔面に連続で回しりをお見舞おみまいした。


石像たちの頭が粉々こなごなに吹っ飛ぶとその中に魔石があった。


魔石を失った石像たちは粉々になり巨大な砂の山をきづいた。


ルナは二つの魔石をひろうとジークフリードたちに見せた。


「魔石は頭部にあります」


「わかった。それだけ分かれば十分だ。見学しててください。僕たちも働きます。イメルダっ」


「あいよっ。『草枕くさまくら束縛そくばくつる乙酉きのととり茨道いばらみち』」


レッドビークの魔法使いであるイメルダが緑属性魔法を発動すると、とげえた無数のつるが石像の足元にあらわれ石像たちにからみついた。


石像を蔓で拘束したかに思えたが、石像があばれると蔓が千切ちぎれ拘束からのがれた。


その一瞬の拘束の間に、ジークフリードは一人で突っ込んでいき石像の体を走り9メートルの石像をけ上がっていた。


ジークフリードが閃光の魔剣を石像の首に向けて一閃し、石像の頭部を飛ばした。


さらに、ジークフリートはその石像を蹴り、仲間たちが戦っている別の石像に向かって飛んだ。


その石像がジークフリードに手を伸ばしてきたが、ジークフリードの仲間たちの剣がその腕を切断した。


「ありがとう」


ジークフリードは礼を言うと、もう一体の石像の首を切り飛ばした。


石像たちは新たな砂の山を作った。


ジークフリードが石像の魔石を拾うとアイゼンとルナの所にやってきた。


「ふう。君たちのおかげであっさり片付いたよ。長い間ここに足止めされてたんだけどね」


ジークフリードはかがやきを放つ剣をさやおさめた。


部屋の中をらしていた強烈きょうれつな光が消えた。


ジークフリードがルナに向き合った。


「ルナさん。僕たちのクラン『ユニオン』に入らないかい?」


「お断りします。私は冒険者パーティー『女神』の一員です」


「そうか。それは残念だ。では、ルナさん。君を第1級に推薦すいせんしたいと思うんだが、いいかな? 君が冒険者登録した領地の領主も君の活躍かつやくを知ってすぐに冒険者ギルドに推薦するだろうけどね。第1級の誕生となれば領地の栄誉えいよだからね」


かまいません」


「そうか。王都に戻ったら王都冒険者ギルドのギルド長に君を推薦しておくよ」


「そうですか。では私たちはこれで失礼します」


ルナは用事がんだとばかりに部屋の外に向おうとした。


「ちょっと待ってくれ」


ジークフリートがあわててルナを引きめた。


「なんでしょうか」


「これから僕たちは東に向かうので、僕たちの代わりに山脈の西の周辺に行ってもらえないかな。山脈を一回りして『鬼人の大秘境だいひきょう』に接する街の見回りをしてくれるだけでいい」


「依頼を受けていたのですか?」


「そうだ。そろそろ森でおおわれた『鬼人の大秘境』から鬼人族が出てくる時期なんだ。来ないこともある。来たら大迷惑だいめいわく存在そんざいだ」


「そうですか。わかりました」


「それが終わったら、君たち『女神』も東に向ってくれないかな。王国の安全のために君の力を借りたい。冒険者ギルドから要請ようせいが来ると思うけどね。第1級冒険者のルナさんにね」


「そうですか。仲間と相談します。行くと思いますが」


「ありがたい」


「では」


アイゼンとルナは地上を目指すため上りの階段に向かった。


ジークフリードたちはアイゼンとルナの姿が見えなくなるまで見送みおくった。


「やれやれ。何者だったんだ。先に進まずにすぐに帰っちゃったよ」


すると、イメルダがジークフリードに話しかけてきた。


「ジークフリード。どうする? 新エリアをのぞきに行く?」


「扉を開けて先を確認だけしてみるか」


ジークフリードたちは奥の扉に向かった。


クランメンバーが地下へと続く扉に手を掛けたが開かなかった。


メンバーの一人が振り返りジークフリートに言った。


「開かねえぞ。ビクともしねえ。それにかぎらしきあなもねえ。どうしたらいいんだ。破壊はかいしていいか?」


「ああ。いたし方ない。やってみてくれ」


クランメンバーが持っていたハンマーで扉をぶったたいたが、扉には傷ひとつ付かなかった。


「ジークフリード。こりゃ無理だ。どうするよ」


まいったな。扉を開ける鍵や方法をさがさないといけないのか。それとも別の道があるのかな」


ジークフリードは少し思案しあんした。


「王都に帰ろう。白の大地の魔獣を片付けたらまた戻ってこよう。その時はこのエリアを入念にゅうねん捜索そうさくすることとしよう」


「わかったわ」



ジークフリードたちも荷物にもつを整理して地上に向かった。






アイゼンとルナが『竜王の庭園』からベルディグリの街に戻ってきた。


アイゼンとルナは冒険者ギルドに入ると受付に向かった。


ルナが受付の女性に話しかけた。


「こんばんは」


「こんばんは。早いお帰りですね。荷物は届けられましたか?」


「はい。無事『レッドビーク』に荷物をわたし、ついでに地下27階への道を妨害ぼうがいしていた石像も彼らと共闘きょうとうして倒してきました。すぐに『レッドビーク』たちも戻ってくることでしょう。詳細しょうさいは彼らから聞いてください」


「まあ。石像を倒されたのですね。すごいです。『女神』のお二人はそんなに強かったのですね。これでさらに地下への探索たんさくが進みますね」


「そうですね。それと地下26階までの竜王の庭園の地図を作成して来ました。かくし部屋も見つけましたので、それも記載きさいしてあります」


「っ!? 隠し部屋!? 新発見ですね。凄いです」


ルナが受付に『竜王の庭園』の正確な地図を提出ていしゅつした。


受付の女性は興味深そうに食い入るように地図を見始めた。


「情報提供ありがとうございます。相変わらず丁寧ていねいで正確な地図ですね。ここが隠し部屋ですか。隠し部屋には何があったのですか?」


「大量の白砂しかありませんでした」


「白砂? ああ。竜神教会が集めているという。冒険者たちの小遣こづかかせぎの場所が見つかりましたね」


「そうですね。たくさん持って帰ってもらって竜神教会の建材けんざいとして使ってもらいましょう。それから『レッドビーク』のジークフリートからわりに山脈の西側の様子を見るようにたのまれたのですが、何か変わったことは起きていますか?」


「ああ。鬼人族のことですね。実は現在、西にあるネイロという街に一人の鬼人族の女性が滞在たいざいしているという情報が入っています。今の所、問題は起こしてはいないようですが、一応周囲の街もふくめて見回りに行ってもらいたいのです。アルケド王国は西で鬼人族が住む『鬼人の大秘境』と呼ばれている大森林地帯と接しています。そろそろ鬼人族の発情期の時期なのです。たまにその『鬼人の大秘境』からアルケド王国に鬼人が侵入しんにゅうしてくるのです。『鬼人の大秘境』に住む鬼人族や魔獣はあまり森の外には出てこないのですが、出てくると街に大きな被害をもたらすのです。女性の鬼人はまだいいとして男の鬼人は女性をさらったり街を破壊したりとやりたい放題ほうだいなのです」


「わかりました。行ってみます」




翌朝、アイゼンとルナはベルディグリの街の西に広がる山脈の北側を通って西に向かった。


アイゼンとルナはまずは鬼人族の女性が滞在しているという王国の西端にあるネイロの街を目指した。


その後は鬼人の大秘境に接する周辺の村々を回りながら山脈の南側を通り、山脈を一周して帰ってくる行程こうていになっている。





アイゼンとルナはネイロという海の近くにある小さな街にたどり着いた。


ネイロの街の西には大きな川の河口かこうがあり、その先に鬼人族が住む『鬼人の大秘境』が広がっている。


その川はアルケド王国の西部を南北に縦断じゅうだんしており、船で川を上って王国南部までいくことが出来る。


『鬼人の大秘境』は国土を森におおわれた広大な土地で、そのどこかに鬼人族の国があると言われているが交流がほぼないため実際のところ誰も知らない。


アルケド王国の西にある鬼人の大秘境は、北から王国の王領、マラカイト領、モスグレイ領と接している。


ネイロの街の北には広大な干潟ひがたが広がっており、しおが引くと歩いて遠くまで行ける。


また、干潟の手前には土で堤防ていぼうつくられており、そこでひつじ放牧ほうぼくがおこなわれている。


アイゼンとルナは堅牢けんろう城壁じょへきかこまれたネイロの街の中に入った。


街の中では人々がなごやかに行きかっていた。


アイゼンは石造りの建物が立ちならぶ小さな街を見回した。


「この街に滞在たいざいしている女性の鬼人族はあばれていないようだね」


「そのようですね」


「どこにいるんだろう。まずは食事にしようか」


アイゼンとルナは料理屋に向かった。


料理屋に入ると緑色の皮膚ひふと緑のつのを持った女性がいた。


その女性は着物を着ており、大勢の男の冒険者たちと酒を飲んでいた。


その大柄おおがらな女性は大きな声で会話をしていたので、否応いやおうなくアイゼンの目にまった。


「あ。鬼だ。いや、あの人がうわさの鬼人族の女性かな。角が生えている獣人の可能性もあるか。八島の鬼とここの鬼人族はちがうのかな」


アイゼンは小声でルナに話しかけた。


「私には鬼や鬼人族や獣人の情報がりません。もうわけありません」


「気にしないで。俺も知らないから。あの女性も楽しんでるようだし、俺たちも食べよう」


「はい」


アイゼンとルナが席にすわり注文を終えると、角の生えた女性がアイゼンの所に一人でやって来て同じ席に座った。


アイゼンが女性がいた席を見ると、冒険者の男たちはいつぶれていた。


「あんた。八島の言葉を使ってたね」


「っ!? はい。あなたも使えるんですね。やっぱり鬼なんですか?」


「ああ。昔、村ごと八島からここに飛ばされたらしい。私はまだ生まれてなかったころの話だけどね」


「あ。それ知ってます。鬼の村がきりまれて消えたと聞きました。当時は神隠かみかくしが頻繁ひんぱんに起こったとか。あなた方の祖先そせんのことだったんですね」


「へえ。八島で有名なのか。たぬきの里の奴らもここに飛ばされてるよ。ここから少しはなれた南にある山の奥地に住んでる。あんたはなぜここに? あんたも飛ばされたのかい?」


「そうなんです。洞窟どうくつつぼの中に神隠しのきりの妖怪をふうじてたんですけど、俺が壺を壊したせいで出現した霧に呑まれてここに飛ばされたんです」


「あはは。おっちょこちょいだね。あんたからはなんだかなつかしいにおいがするねえ。八島の空気なんだろうか。それとも霊力かもね」


「そうですかね。あなたは鬼人族なのですか?」


「ああ。ここではそう呼ばれているね。私の名はアリサ。あんたは?」


「アイゼンです。彼女はルナさん」


「そうかい。アイゼンっていうのか。弱そうだけど持ち帰るか。八島の男はめずしいからね」


アリサはあやしい目線をアイゼンに向けた。


「ど、どういうことですかね」


すると、ドカーンという建物が破壊される轟音ごうおんが店の外からひびいて来た。


「なんだ?」


アイゼンは店の外を見ると、通りすがりの人が同じ方向を見ていた。


店にいた人達もおどろき、立ちあがっていた。


「っ!?」」」」」」」」」」」」」」」」」

「なんだっ」」」」

「何が起こった」」」」


客が一斉いっせいに店の外に出ていった。


「やれやれ。見つかっちまったか」


アリサは面倒めんどうくさそうに席を立ち外に向かった。


アイゼンとルナもアリサを追って店の外に出た。


外に出ると、破壊された建物の中央に紫色の皮膚ひふをした巨躯きょくの男の鬼がいた。


群衆ぐんしゅうは鬼の姿を確認すると蜘蛛くもの子をらすように一目散いちもくさんに逃げだした。


「ぎゃーっ。鬼人が出たぞーっ」

「逃げろーっ」」」」」

「女はすぐ逃げろっ。姿を隠せっ。さらわれるぞっ」

「きゃーっ」」」」」」」」」

「冒険者を呼べーっ」


鬼人の男は住人の混乱には目もくれずゆっくりと道に出てきた。


鬼人の男は姿を現したアリサに目を向けた。


「アリサっ。探したぜっ。いい加減かげんに俺の女になれよ。俺より強い男なんて滅多めったにいないぞ」


「おことわりだよっ。イルマ。本当にしつこい男だね。私より弱い鬼となんかと結婚するもんか」


「なにおっ。俺様の方が強いに決まってるだろ。今から証明しょうめいしてやろう。俺の強さを体にきざめ。殺しは死ねえ。俺様の子を産んでもらうからな」


「けっ。私はもう運命の人を見つけたんだ。あきらめなっ」(ウソだけど)


「どこのどいつだ。名前を言え。どこの村の鬼だっ。殺してきてやる」


「鬼じゃないさ。女の子がしいんだ。鬼と結婚したら男しか生まれない」


「鬼じゃないだとっ。この街の男か。れて来い。ぶっ殺してやるっ」


「この人さ」


アリサはアイゼンを指さした。


「はっ!?」


「貴様かーっ」


イルマはアイゼンに向かって巨大な金棒かなぼうを振り下ろした。


ドッ


いくつもの突起とっきがついた金棒は、いつの間にかアイゼンの前に立っていたルナが片手でふせいでいた。


「女。何者だ。気に入った。貴様も俺様のよめにしてやろう」


「お断りします」


ドスッ


「ぐはっ」


ルナのこぶしがイルマのどてっぱらを穿うがった。


イルマは吹っ飛び地面を転がった。


「げほっ。げほっ。や、やるねえ。重い一撃いちげきだ。強い女は大歓迎だいかんげいだよ」


ルナが宝槍を構えた。


「ほう。なかなかの魔力が宿った槍だな。冷気がここまでただよって来ているぞ。俺様も本気を出してやろう」


すると、イルマは地面をり、一瞬でルナの目の前に現れた。


イルマの手には禍々まがまがしいもやまとわりついていた。


ルナはり出されたイルマのこぶしを回避した。


「よくぞ回避した。いつまで続くかな」


すると、アリサがルナに助言をした。


「イルマの魔力にれると毒におかされるよ」


「ちっ。戦いの邪魔じゃまをするんじゃねえ」


「あんたの紫の皮膚は邪属性だ。私が言わなくても見ただけで能力がわかるじゃないか。バレたくなかったら全身をかくすんだね。ただでさえ珍しいってのに」


「ちっ」


ルナが宝槍と体術でイルマへの攻撃を開始した。


イルマは宝槍の能力を警戒けいかいし、槍の攻撃だけは確実に回避するように心がけていた。


ルナが手刀でイルマの腕を切り飛ばした。


しかし、イルマの腕がすぐに復活した。


「すごい再生力ですね。しかも身体能力がものすごい。これが鬼ですか」


「これほどの再生力を持つのは鬼の中でも上位のものだけだ。邪属性魔力持ちも貴重きちょうなのさ。れたか?」


「いえ。まったく」


「かかか。いいねえ」


その後は両者がゆずらず攻撃をり出し続けた。


すると、ついにルナがイルマの拳を受け止めさせられた。


「重たっ。どうなってんだ。お前。魔法か? それとも魔道具のよろいでも装備してんのか?」


ルナがイルマにりを見舞ったが、イルマはギリギリ回避して後ろに下がった。


「さて、どうでしょうか」


「けっ。まあいいか。貴様、俺様の触れたな。すぐに全身に毒が回って動けなくなる。それは麻痺まひの毒だ。殺しはしない。もったいねえからな。もちろん猛毒の霧も持っているぞ。俺の機嫌を悪くさせないほうがいい。死ぬことになる」


ルナの手は紫色に変色していた。


ルナが手をはらうと、手から紫色の液体が飛び散った。


ビチャッ。


砂がじった毒の液体が地面に広がった。


「っ!? どうなってんだっ。何をしたっ」


「毒を体外に排出はいしゅつしただけですよ」


「だからどうやってだよっ。どんな体してんだ。魔法の気配も感じないし。もしや貴様、妖怪のたぐいかっ」


「失礼ですね」


「では、これはどうかな。男ともども死んじまえっ。『紫迅風むらさきじんぷう』」


イルマが魔法を発動すると、ルナとその背後にいるアイゼンに向かって紫色の突風とっぷうあれれた。


猛毒もうどくの風だ。逃げることもふせぐことも出来ねえ。女はさっきのように死なねえかもしれねえが、男はどうかな」


すると、ルナが向かって来る紫の風に向かって宝槍を高速回転させた。


宝槍の能力で毒が次々にこおり、毒のかたまりが次々と地面に落下した。


「っ!? 何だっ。その魔槍まそうはっ」


イルマは驚愕きょうがく表情ひょうじょうかべていた。


その問いに戦いを見ていたアリサが答えた。


「その魔槍は『神隠し』のきりを封じてたそうよ」


「なんだとっ。あの霧をっ。なるほどね。じゃあ、霧はかねえか」


「よそ見してていいの?」


「っ!?」


イルマがルナの方を見たが、すでにルナはそこにいなかった。


「ガハッ」


イルマは背後から宝槍で心臓を突かれた。


すると、心臓がこおりイルマは動かなくなった。


さらに、ルナがイルマの全身を宝槍で突いて行った。


宝槍で突かれた個所かしょから凍り始め、全身に広がるとイルマは氷漬こおりづけにされた。


さらに突き続けると宝槍がかたい何かに当たった音がした。


「魔石を見つけました」


ルナは宝槍で魔石周辺を突き魔石を取り出し、つのたたった。


アリサがルナの近くにやってきた。


「あんたやるねえ。宝槍があるとはいえイルマを倒すとはね」


「あなたも私と戦いますか?」


「やめとくよ。そんなことより一緒に食事でもしないかい。ふたりとも食ってないだろ」


「わかりました」


アイゼンとルナはアリサと共に料理屋に戻った。



道には氷漬けのイルマが取り残されていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る