第4話 冒険者ギルドに行くと

アイゼンとルナは城門をくぐり、領都ジェードの中に入った。


アイゼンが城壁に囲まれた都市の街並みを見渡すと、カラフルな建物の壁が目に入った。


大通りに立ち並ぶ建物は高層の木造建築で、窓の多い壁は赤や黄色や水色にられており、屋根は赤茶色で統一されていた。


アイゼンは小声でブツブツと感想をつぶやいていた。


「これがアルケド王国の街、領都ジェードか。綺麗きれいな街並みだな。でも人生でいだことない独特のにおいがただよっているけど。何の匂いなんだろ。これが旅の醍醐味だいごみってやつかもな。ここから俺の冒険者人生が始まるのか。故郷に帰るまでに立派な冒険者になってやるぜ」


石畳いしだたみ鋪装ほそうされた道には、至る所にゴミが散乱していてとても衛生的えいせいてきとは思えなかった。


「はあ。これがこの地域では普通のなのだろうか。憂鬱ゆううつだ。上だけ見てたらお洒落しゃれな街並みなんだけどな。しかし・・・」


城壁の下には路上ギルドの大人や子供たちが多数座っていて物乞ものごいをしていた。


すると、ロニーが城門から出てきたアイゼンとルナに向かって声を掛けてきた。


「冒険者ギルドに行くぞ」


「はい」


アイゼンたちは街の中心部にあるという冒険者ギルドに向かった。



ルナはアイゼンの「匂い」と言う小さな声を聞き逃さなかった。


「ロニーさん。匂いがしますけど街の中で動物を飼育しいくしているのですか?」


「匂い? くんくん。そんなに匂うかな。こんなもんだろ。確かにぶたや牛やヤギやにわとりなどを城壁の中で飼育しいくしてんだ。外はオオカミとか魔獣がいるからな。もちろん外の森にも木のさくかこって豚などを飼育してるぞ。ここは城壁が高くて分厚いから匂いがこもってんだろう。れたら気にならないぞ」


「そうですか」


「森の飼育場の警備の依頼もあるし、街中の豚の散歩の見張りの依頼もあるぞ。あいつら何でも食うし凶暴だからな。住民たちに怪我が無いように見張る仕事だ」


「そうなんですね。それにしてもこの街は道が汚いですね」


「ん? そうか? 他の都市は知らねえが、こんなもんだろ。豚を街の中で散歩させてるから豚が食えるものは食ってるはずだけどな。他にも骨拾いを生業なりわいにしている奴らもいるし。ただ裏道はもっとひどくて何でも捨ててるから散歩はおすすめはしないけどな」


「そうですか。そうします」


「お。ルナ、アイゼン。あの店がおすすめだぞ。安くて量も多い」


ロニーは指さした先には料理屋があり冒険者でにぎわっていた。


「はい。覚えておきます」


アイゼンは料理屋を興味深そうにのぞき込んだが、料理は見えなかった。


(外国の料理か。どんな料理があるのか興味きょうみがあるな。緊張きんちょうでお腹すいてないけど、明日にでもロニーさんのおすすめを早く食べてみるかな)




しばらく行くと二つ目の城壁が見えて来た。


アイゼンたちは街の大通りを通り内側の城壁を抜け、運河の近くにある冒険者ギルドに向かった。


「何か聞きたいことがあれば答えるぞ」


「ありがとうございます。この街には他にどのようなギルドがあるのですか?」


「そうだな。魔術師ギルドや商人ギルド、鍛冶屋かじやギルドや皮革ひかく加工ギルド、肉屋ギルドに魚屋ギルド。ギルドだらけさ。同じ職業の仲間同士で組合を作らないとやっていけないのさ」


「そうですか。それにしても路上ギルドの方が多いですね」


ルナは道のはしに座っている人々に目を向けた。


「そうかもな。ここの路上ギルドはまあまあいいほうじゃないか。領都だからな。竜神教会もしっかりしてるし貴族や富豪の寄付きふも多い。だがそれだけじゃ全員が救われるわけじゃないからな。人が多いと貧民に落ちる奴も多い。誰もが成功するわけじゃない」


「そうですね」


「それぞれに事情があって働けなくなり、貧民になり路上で生活するしかなくなっちまう。竜神教会が路上ギルド所属者に対して食事や衣服や住む場所を提供しているが、さすがにすべての面倒は見れねえしな。城壁の近くに座っている連中だけじゃなく竜神教会の周辺でも目にするだろうさ」


「そうですか。治安の方はどうですか?」


「うーん。貧民街に行かなけりゃそこそこじゃねえかな。ルナは行くんじゃねえぞ。さらわれちまうからよ。人攫ひとさらいをする組織があるから気を付けな」


「はい」


「路上ギルドは路上生活者が犯罪を犯さないように組織されたギルドだからな。竜神教会はがんばってる方じゃねえかな。孤児院もあるし」


「そうですか」


「冒険者ギルドに着く前に周辺の状況も教えてやろう」


ロニーはアイゼンとルナにアルケド王国や周辺国家について話し始めた。


「半島のジェード領の南で接しているのが王領だ。海峡かいきょうはさんだ東にデカい半島があって、そこにエルフの国がある。王国の東にある隣国りんごくは、エクリュベージ王国というんだが何回かの魔獣の襲来でほろんだ。王国の南には山脈地帯があるが、その地下にドワーフの王国があるらしい。西には鬼人の大森林という鬼人が住む広大な森林地帯が広がっている。さらにその西にゴールドブルー帝国がある。ちなみにアルケド王国は数百年前に大きな国が分裂してできたらしい」


「そうなんですね。勉強になります」


「聞きかじりの情報だよ。俺はアルケド王国や周辺国の歴史についてはくわしくねえからな。歴史については詳しい奴を探して聞いてくれ。だはは」


「ロニーはエルフについては知っていますか?」


「いや。噂話うわさばなしだけだ。見たことすらない。東の国が滅んでからあまりこっちには来なくなったそうだ。ちなみにこの世界ではエルフだけが金髪らしいぞ」


「そうなんですね」


アイゼンは二人の会話を興味深そうに聞いていた。


(エルフ? どんな種族なんだろ。会えたらいいな)



しばらく石畳の道を歩いて行くとアイゼンたちは街の中心にある広場に到着した。


「着いたぞ」


アイゼンが広場を見渡すと、そこには八角形の形をした広場があり、そこに4つの建物が広場を囲むように建っていた。


4つの建物は冒険者ギルド、竜神教会、役所、魔術師ギルドで、そのすべてが白い石を使った石造りの長方体の3階建ての建物で、屋根は黒い三角屋根になっていた。


また、その周辺には豪華な屋敷が立ち並び、沢山の人たちが広場を行きかっていた。


(おお。中心地なだけあってにぎわってるな。それに建物が立派だな。お金持ちが住んでるのか)


アイゼンが周囲の景色をキョロキョロ見ているとロニーが立ち止まっていた二人に声を掛けて来た。


「おーい。二人とも行くぞ」




アイゼンたちは冒険者ギルドに向かった。


冒険者ギルドの大きなとびらは両開きで全開だった。


「ここが冒険者ギルドだ。そういや来たことあるのか?」


「いえ。まだ行っていません。この街に着いて早々周囲の探索たんさくに出ましたから」


「そうか。24時間営業だから一年中扉は空きっぱなしだ。まったところは見たことねえよ。だはは。んじゃ入るか」


アイゼンたちは冒険者ギルドの中に入った。


喧噪けんそうがアイゼンたちを包み込んだ。


正面には受付と2階に上がる階段があり、左側は飲食ができる場所で多くの冒険者がたむろしていた。


そして右側には冒険に必要な道具が売っている店があった。


早速さっそくロニーとアイゼンたちは受付に向かった。




受付には女性のギルド職員がいて、アイゼンたちを笑顔でむかえてくれた。


「よう。アースラちゃん。依頼いらいの薬草だ。換金かんきんしてくれ」


ロニーは採取さいしゅした薬草を受付の台の上に置き、冒険者ギルドカードを差し出した。


「こんにちは。ロニーさん。おあずかりします。少々お待ちくださいね」


「ああ」


アースラは後ろにいたギルド職員に薬草を渡した。


ギルド職員はすぐに薬草の査定さていを始め、すぐに結果が出た。


「お待たせしました。全部で小金貨3枚ですね。カードに入金しますか?」


「ああ。そうしてくれ」


するとアースラは冒険者カードを台の上に置かれている黒い台にかざした。


「それからアースラちゃん。ここに初めて来た冒険者パーティー『女神』を紹介する。ルナとアイゼンだ。アイゼンはノドを怪我して話せないそうだ。しばらくいるそうだから、よろしくしてやってくれ」


「わかったわ。よろしくね。ギルド職員のアースラよ」


「ルナです。そして彼がリーダーのアイゼンです」


アイゼンは軽く頭を下げた。


綺麗きれいな方ですね。めずらしいわね。ロニーが人とつるむなんて。どこからさらって来たんですか?」


「攫ってねえって」


おどしてるんでしょ」


「脅してねえって。偶然出会ったんだよ」


するとそこにロニーがたまに働いている冒険者ギルドの解体施設かいたいしせつの職員がやってきた。


「おお。ロニー。ひまなら解体の仕事するか?」


「いや。今からめしだ。そうだ。最近街に来た冒険者と知り合ったんで紹介する。ルナとアイゼンだ。なんかあったらよろしくな」


「へえ。別嬪さんと坊主か。どこで攫って来たんだ?」


「だから、攫ってねえって」


「がはは。そうか。俺はイーヴ だ。ロニーは時々解体所で小遣こづかいをかせいでいる。ロニーはこう見えて解体の腕がいいんだ」


「初めまして。ルナと申します。彼はアイゼンです。彼は今事情があって声を出せません」


「そうか。ルナとアイゼンか。よろしくな。解体の手伝いはいつでも募集ぼしゅうしてるぞ。金が欲しくなったらいつでも解体の仕事手伝ってくれよな。ロニーは冒険者を引退して職員として働いてくれてもいいぞ」


「俺は冒険者として成功するんだよ」


「がはは。期待しているよ。たまには動物だけじゃなく魔獣をいっぱい持ってきてくれよな。じゃあな」


そう言うとイーヴ はギルドの奥に歩いて行った。


「魔獣は無理だって。ルナとアイゼン。俺は右にある道具屋に行くから、用事をませてくれ」


「わかりました」


ロニーは道具屋に向かった。


「さて。ルナさん、用件は何でしょうか」


「はい。オオカミに襲われた冒険者の冒険者ギルドカードを持ってきました」


ルナはアースラに3枚の冒険者ギルドカードを差し出した。


「あら。そうですか。ご苦労様です」


「その方々は何人パーティーか分かりますか?」


「調べますね」


アースラはカードを黒い板にかざした。


「5人組ですね」


「そうですか。残りの二人は見かけませんでしたので安否あんぴは不明です」


「なるほど。別の場所で襲われたのでしょうね。どこの森ですか?」


「ここから北東にある森の奥地です」


「なるほど。オオカミに襲われたという事ですが、なぜわかったのですか?」


「オオカミの死体を一体だけ見ました」


「そうですか。オオカミは群れで行動しますから、残りがまた冒険者を襲うかもしれませんね。依頼でその森に向かう冒険者に注意喚起ちゅういかんきを出しておきましょう」


「オオカミの魔石を回収したのですが、権利は誰にあるのでしょうか」


ルナは魔石をアースラに見せた。


「所有権はルナさんたちにあります。換金かんきんしますか?」


「はい」


ルナは魔石と冒険者ギルドカードをアースラに渡した。


アースラは魔石を受け取るとまた背後のギルド職員に魔石を渡し査定をお願いした。


アースラはルナのカードを黒い板にかざした。


「ルナさんは第4級なのですね。ルナさんたちはしばらく領都に滞在たいざいなさるとのことですが、何か依頼を受けるのですか?」


「はい。その予定です」


すると魔石の査定が終わった。


「どちらのカードに入金しますか? それとも等分に分けますか?」


「いえ。現金でお願いします」


「わかりました。魔石は魔力属性も一般的ですし、少し小さいので買取の値段は安めですね。買取価格は小金貨5枚です」


ルナは小金貨5枚を受け取った。


「依頼が書かれた掲示板けいじばんは後ろの壁にありますので、どれでも選んでください」


「わかりました」


アイゼンが振り返ると、入り口側の壁一面に無数の依頼書がられていた。


「依頼を受けるのためのランクの制限はありませんけど、初めての場所では無理をしないでくださいね」


「はい」


アイゼンとルナは掲示板に向い、掲示板の前に立った。


アイゼンが小声でルナに話しかけた。


「今日はもう街の外には出ないけど、とりあえず依頼内容を見てみようか」


「はい」


アイゼンが依頼書を見ると何やら文字が書かれていたが読めなかった。


「字が読めないな」


「どの様な依頼を探しましょうか? 私が読み上げます」


「そうだなあ。最初は危険じゃない奴がいいかな」


「わかりました」


ルナはザッと壁一面にある依頼書を見渡した。


「薬草採取や魔石のないウサギやイノシシやシカの肉。冒険者ギルドで魔獣の解体の手伝いもありますね。他にはスライムの捕獲ほかくや井戸またはごみ捨て場の穴掘あなほりがあります」


「そうなんだ。獣の解体はやったことないから無理だな。ルナは出来そう?」


「はい。おまかせください。解体の知識は入っております」


「そうだよね。ところでスライムって何?」


「ギルドの情報によるとアメーバのような粘性ねんせいの体を持つ不定形原生生物です」


「なるほど。ん~。今日は休むから明日の朝またここに来て決めよう。まあ、薬草採取になるだろうけど」


「わかりました」


「あ。まいったな。宿屋のこと考えてなかった。ロニーさんにおすすめの宿を聞いてみるか」


「はい」


そこに買い物を終えたロニーがやってきた。


「依頼、何か受けるのか?」


「いえ。今日は受けずに休みます」


「そうか。朝早かったからな。無理はしないほうがいい。今後、お前らはどうする予定なんだ?」


「依頼をこなしながら旅を続けます」


「そうか。しばらくはここを拠点きょてんにするのか?」


ロニーは二人の顔を交互に見た。


アイゼンがうなずき、それを見たルナが返事をした。


「はい。そのつもりです」


「そうか。何か一緒に出来る合同依頼があればいいがな」


「そうですね。その時はよろしくお願いします」


「それはこっちのセリフだな。4級がいるとたのもしいぜ。依頼はランク関係なく受けることは出来るが、身のほどを知らないとすぐ死ぬからな。失敗し続けると信頼を失うし」


「そうですね」


「んじゃ、出るか」


「はい」


アイゼンたちとロニーは冒険者ギルドの外に向かった。


冒険者ギルドを出たところでルナがロニーに話しかけた。


「ロニーさんはどこにまっているのですか?」


「内側の城壁沿いの安宿だよ。俺のかせぎじゃそこが限界かな。もっと中心に近いところに住みたいんだがな」


「おすすめの宿屋はありますか?」


「そうだなあ。女性のルナも泊まるってことは、俺の宿屋はお勧めできねえな。近くにある運河沿うんがぞいの宿屋なら大丈夫だ」


「わかりました。行ってみます」


「おう。じゃあここでお別れだな。俺も飯食って宿屋に帰るよ。またどこかで会ったらよろしくな」


「はい。また」


ロニーは料理屋に向かった。


アイゼンは周囲をキョロキョロ見ながらルナに話しかけた。


運河うんがか。ここ海に近い街なんだな。ルナ、先に海を見に行こうぜ」


「わかりました。こちらです」


アイゼンとルナは運河に向かった。


しばらくするとしおの香りがただよって来た。


アイゼンたちは運河に到着した。


アイゼンが運河の景色を見渡すと、運河には何隻なんせきか船が停泊ていはくしていた。


運河沿いにもカラフルな建物が立ち並んでいた。


「ここも裕福な人たちが住んでいるのかな。ん?」


アイゼンは走って運河のふちに行き水面をのぞき込んだ。


「白くないぞ」


運河の水は暗い水色だった。


「海の事ですか?」


「うん。八島の海は真っ白なんだ。白砂でね」


「そうですか。私の知る海の色は青ですね」


「そうなんだ。これが自然な色ってことか」


「そうですね」


アイゼンは運河の水を見ながら河口に向かった。


河口にたどり着いたアイゼンの目の前には広大な海が広がっていた。


「おお。海って初めて肉眼で見たよ。広いなあ。ん。何だあの城は」


運河の河口かこうの近くには、海水の水堀みずぼりと高い城壁に囲まれた星形の要塞ようさいがあり、圧倒的あっとうてきな存在感をはなっていた。


城壁の上から鋭い3本の尖塔せんとうと緑色の屋根が特徴的とくちょうてきな石造りの巨大な建物が見えた。


「あれが領主のやかたなのでしょう」


「そうなのか。すごいな。まあいいか。それよりも海だな」


アイゼンは再び視線を海に戻すと長い間海を見ていた。


「・・・。明日からいよいよ冒険者としての第一歩が始まる。興奮してきたな。よし、宿を探すか」


「はい」


まかせたっ」


アイゼンたちは宿屋を探しに向かった。

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