第45話 赤+青は?

ブーギーは光る苔を、メーシィは魚を見ている。

レイアは辺りの警戒を続けており、ヒナミは俺にべったりだ。

少し考えて、ブーギーの様子を見に行くことにした。

俺の接近に気がついたブーギーは俺を手招きする。

ブーギーがのぞき込んでいたのは、赤色に光る苔だった。


「あ、紳弥。この苔、真ん丸い形していて、壁にも根を張ったりしているわけじゃなくてくっついてるだけみたいよ」


壁にくっついている苔を、ブーギーが持っている棒でつつくと、コロリと地面に落ちた。

見た目は完全にデカくてカラフルで光るマリモだ。


「それとね、えい」


「あ、おい!触って大丈夫なのか!?」


「大丈夫よ。それより見てコレ」


ブーギーが苔を指で押し込むと、そこから発光する液体がしみ出した。


「おお、スポンジみたいだな」


「そうねえ。にしても不思議よね。湿って水分を吸収しているのはそこの湖の水分だとして、こんな鮮やかに発光する液体に変えているのはこの苔ってことでしょ?苔に擬態した獣でもないみたいだし」


「きれいですね」


珍しくヒナミが前に出てくる。

ヒナミは、少し離れたところに生えている青色の苔を引力で引き寄せ、キャッチする。そしてそのまま握った。

するとやはり、青く発光する液体がしみ出てくる。


「こちらもきれいですね」


右手に赤い苔を、左手に青い苔を持ったヒナミは、苔の光に照らされながら満足そうに微笑んでいる。


「もしかして、混ぜたら紫色の液体になるのか?」


「それもきっときれいですよね」


ヒナミが俺の思いつきを試そうと、赤い苔と青い苔を重ねた。

その瞬間。突如ヒナミが爆発した。


「きゃあああ!」


「うぐっ…!」


近くにいたブーギーと俺がかなり吹き飛ばされる。

すごい威力の爆発だ。


「ヒナミ、大丈夫か!」


俺は爆心地であったヒナミに声をかける。

まだ煙は晴れておらず、安全は分からない。

ようやく煙が晴れてきて、そこには上裸のヒナミがきょとんとした顔で立っていた。


「上半身…吹き飛んじゃいました」


なんという爆発の威力だ。

試したのがヒナミじゃなかったら確実に死人が出ていた。


「紳弥大丈夫!?」


騒ぎを聞きつけたレイアとメーシィが駆け寄ってくる。


「赤い苔と青い苔をくっつけると大爆発するから気をつけてくれ!」


俺はヒナミの方を極力見ないようにしながら、2次被害をださないように注意をした。


「…苔を接触させるというより、赤い液体と青い液体が混ざると爆発するんじゃないかしら」


ブーギーがまだ多少腰が引けた状態でそう言う。

すると、ヒナミが立ち上がり、先程ブーギーが出した赤い液体の上で青い苔を絞り、液体を出した。

結果、大爆発。


「ヒナミ、そこまで身体張らなくて良いんだぞ…」


もはや全身が吹き飛び、全裸になっているヒナミの背中に声をかけた。


「あ、あの、アタシ服持ってきたから…着替えな?」


ブーギーが自分のバックからヒナミに服を渡していた。


「たまには軟体動物も役に立つものね」


レイアはそんなヒナミを見て、笑っていた。

軟体動物ってお前…。


§


ブーギーがヒナミに渡したのは、水着だった。

こういう展開も想像していたらしく、全員分の水着も用意しているとのこと。

湖の調査をするにあたって、確かに水着は便利なので、全員が着替えていた。


「この湖の水は、普通の水みたいです。魚がいるということは、川に繋がっているんだと思います」


先に湖を調べていたメーシィが言う。

水際に置かれたバケツには魚が数匹泳いでいる。メーシィが捕らえたようだ。


「気になりますよね、食べられるのか」


「ああいや、別にそんなつもりで見てたわけではないが、確かに気になる」


「とりあえず1匹捌いてみますね」


バケツから魚を1匹取りだしたメーシィは、手にしたナイフであっという間に捌いてみせる。


「おお、すごいな」


「いえ、ただ慣れているだけですよ」


俺が褒めると、メーシィは照れくさそうに微笑んだ。

さて、肝心な魚の方だが、見た感じは何の変哲も無い川魚に見える。しかし、先程の爆発を見てしまうと、未知のものへの恐怖感が急に沸いてくる。


「た、食べられそうか?」


「んー、ぱくっ」


「そんな何の躊躇もなく!?」


可愛い顔して度胸がある。川魚って生で食べるのは駄目だった気がするが…。


「んー、普通に食べられるみたいですね。味も、普通の魚っていう感じです。特別なものではないみたいですね」


「でも、普通の魚が街の近くで捕れるのが分かったのはいいことじゃないか?」


だからこそ魚に似た味のホウセキアナトカゲが日本人に人気だったわけだし。


「いえ、ここにいる魚たちは川からはぐれた魚たちが迷い込んでいるに過ぎないので、数もいません。なので、ここで漁をするのは無理なんです」


「ま…確かにそうだな…」


改めて湖面を見ても、魚は数匹しか見当たらない。

餌もないだろうし、この湖に迷い込んだ時点でいずれこの魚たちは死んでしまうのだろう。この湖内での繁殖も望めまい。


「んー、色々残念だな」


「はい、色々と残念です」


俺とブーギーは顔を見合わせて笑った。


「何をいちゃついているのよ」


湖面から顔だけを出したレイアが俺たちの間に現れる。


「いちゃついてはないって」


レイアに苦笑しながら、手を伸ばした。

俺の手を掴んだレイアは、湖から上がり、髪の毛の水分を絞っている。

レイアには水中の調査をお願いしていたのだ。


「どうだった?」


「やっぱり、横穴を見つけたわ。あと、底についても潜れる範囲では見えなかったわ。かなり深いみたいね」


「そうか、その横穴がどこに繋がっているかも気になるし、水底についても気になるな」


「試しにそこの女に石でも括って沈めてみる?」


レイアが顎で、ヒナミを差す。彼女は今、少し離れたところから俺たちを見ている。


「それは酷いにしても、横穴の調査とかはできるのか?」


俺に問われたヒナミは、首を横に振った。


「私の再生能力はあくまで外傷によるものですから。あくまで再生能力であって、不死ではありません」


「そっか、そうだよな」


「もし一緒に潜ってくれるなら喜んでやりますけど」


「謹んで遠慮させていただく」


となると、やはり潜水設備がないとこれ以上の調査は難しいな。

それから念のため壁面なども調べて、特に何もないことを確認した俺たちは,着替えて、荷物をまとめた。


「よし、帰るか」


「あ、待って待って、これ紳弥が持ってる素材用のハウストマックの胃袋にいれて」


ブーギーが俺が持っている胃袋に何かを入れていく。


「何を入れたんだ?」


「苔」


「おま、胃袋の中で爆発したらどうする!?」


「大丈夫よ、ちゃんと混ざらないように包んだから!」


「死んだら恨むぞ」


などとやりとりしながら、来た道を戻っていく。

行きは下りの斜面で、滑り落ちないように慎重に歩いていたが、帰りは登りなので、なおさら気合いを入れて帰らねばなるまい。


「もしもし、紳弥くん。聞こえるかい?」


地上に向かって歩いている最中に、ポーチから声が聞こえた。


「ん?ハルキ?」


「調査は一段落付いたようだね。このあと、出来るだけ急いで本部に来てくれるかな?」


「報告には行こうと思ってたけど」


「いや、緊急事態だ。まだ君たちに動いて貰うつもりはないが、念のため本部に控えていて欲しい」


端末から聞こえるハルキの声は、いつもよりも強ばっているような気がする。


「分かった。すぐ行く。そういうことであればレイアも連れて行った方がいいよな」


「その方が助かる。よろしく頼むよ」


そしてハルキからの通信が切れる。


「よし、早めに戻ろう」


俺たちは少し速度を上げて、地上へ向かった。

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