第43話 新たな調査地
結果、確かに10数分後、言い合いは終わった。
レイアがこの間のように地雷をぶち抜かなければ基本的には大丈夫なのだろう。
その辺はレイアも分かっているはずだ。
彼女的には不本意だろうが、現状ヒナミに力では勝てないことも分かっているだろうし。
食事が落ち着いたころ、何気なく発したブーギーの言葉は俺の心を抉った。
「そういえば紳弥ー。そろそろ新しいところの調査しなーい?」
「うっ」
非常に痛いところを突いてくる。
確かに最近、レイアが負傷していたこともあり、調査には行けていなかった。
流石にニートっぽいので、前線組に加わろうとしたが、ハルキから許可が出なかった。曰く、皆が君を怖がる。もし君に何かあったとき、レイアに殺される。などの理由らしい。
現状、前線組の調査も遺跡に入れずに停滞しているということで、新たな素材などが市場に流れることもない。
その現状が、ブーギーとしては退屈なのだろう。
「レイアも治ったことだし、本格的に再始動だな」
このままでは平伏の黄原だけの一発屋になってしまう。
なにより、ずっと拠点にいるだけでは、骸具は手に入らないし、転生者に会うことも叶わない。
「あ、じゃあさじゃあさ、この間オカコ族が見つけた南の洞窟とかどう?まだ誰も調査はしてないでしょ?」
俺はメーシィにアイコンタクトで、オカコ族って何?と訊ねる。
メーシィは、鳥の翼を持つ種族だと教えてくれた。ハーピーみたいなものだろうか。
それにその洞窟のことも初耳だ。
「ちょっとハルキに訊いてみるか」
俺はポーチの中の端末を取り出す。
すると、端末が急にしゃべり出した。
「話は聞いていたよ!」
「うわびっくりした」
実は攫われてから、プライベートモードにするのが少し怖くなって、ずっとハルキとのパスは繋がったままにしていた。だから、ハルキがこちらに気を配っていれば、いつでも話は筒抜けということだ。
「さて、南の洞窟のことだね。僕も報告では聞いていたよ」
曰く、街の南側には岩山が広がっていて、そこに新しく洞窟が発見されたらしい。今までは、ただの岩壁という認識で、獣もいなければ素材もないということで調査は後回しにされていたが、今回洞窟が見つかったことで調査対象としての選択肢に浮上してきたとのことだ。
「ということで、ちょうど調査団も興味があったところだ。前線組の遺跡の調査にはまだかかりそうだし、君がそこの調査をしてくれるなら非常に助かるよ」
「そうかあ。それじゃあ、調査に行くか。レイアも良いか?」
「ええ、大丈夫よ」
レイアに目配せをすると、レイアはいつものクールな笑みを浮かべ、頷いた。
「私も問題ありません」
その隣で、もう一つ同行の意思を示す声が挙がる。
「え、ヒナミも来るのか?」
「ええ、たまに貴方のお仕事を見学させてもらうのもいいかなと思いまして」
「うーん」
戦力的には申し分ない。
味方として同行してくれるのなら頼もしいことこのうえないのだが…。
ちらりとレイアを確認する。
「………」
許可しないわよね?私だけでは不満とでも言いたいわけ?そうでなければ断りなさい!
そんな視線を感じる。
分かったよ、断るよ。
俺が口を開こうとしたところで、さらに思わぬところから声が挙がった。
「あ、じゃあ、アタシもついてっていい?」
「ブーギーもか!?」
「え、なに、そんなに大声出すほど意外?」
「あ、いや、そういうわけでもないけど…」
ちらりともう一度レイアを確認する。
眉間に深い皺が刻まれている。
「あ、ボクもいいですか?」
メーシィまでもが同行の許可を求めてくる。
「いいですよ、皆で行きましょうか」
「やったー!」
何故かヒナミが許可を出し、喜ぶ姉弟。
今更断れる雰囲気でもなくなってしまった。
「でも危険かもしれないぞ?」
いくらレイアがいるからといって、全員を守ることはできないだろう。
「大丈夫大丈夫、アタシらが自分の故郷から旅をしてこの街にやってきたのを忘れた?自分の身くらい自分で守れるわよ」
「まあ、そこまで言うならいいか」
レイアは不満そうだが、個人的には賑やかで楽しそうに思える。
「よし、じゃあ、明日の朝にこの店集合でいいか?」
「今から閉店して準備するから!」
ブーギーはピューっといなくなった。
「じゃあ俺らも準備するか」
レイアに言うと、彼女はため息をつきながらも立ち上がる。
「ヒナミはどうする?」
一応、今日は彼女へのお礼の外出の日だ。
服を見て、食事をしたが、まだ足りないというのであれば準備は後回しにして、ウィンドウショッピングを継続するのも吝かではない。
「じゃあ、私も準備のお買い物についていっていいですか?」
「おお、そうか。んじゃあ、一緒に行くか」
レイアは怒るだろうが、もともと今日はそういう日だ。
俺とレイアとヒナミはメーシィの店を出て、3人で食料品などを買い込む。
洞窟ということなので、光源などもあったほうが良いだろう。
ライターのような骸具であれば、平伏の黄原の調査のときに買っていたが、たいまつなども念のため買うべきだろうか。
「その剣に火を付ければいいじゃない」
たしかに良く燃える油を分泌できるイカソードだが、持っている手が熱くないか?
結局、たいまつを買って、あとは洞窟内の気温が低いことも見越して毛布なども買った。
買い物を終えると、すでに夜になっていた。
「折角お礼の外出のはずだったのに、結局俺たちの買い物に付き合わせてしまって申し訳なかったな」
俺は隣を歩くヒナミに言う。
「いいえ。一緒に買い物するだけでも楽しかったですよ」
そう言って笑ってくれた。
こうしてみると、つくづく変なスイッチさえ入らなければとても良い子だと思うし、仲良くもしたい。
刺されたり切られたり縛られたり腕を切断されたりもしたが、あれは過去のことだ。水に流そう。
そうなるとレイアからの視線が痛くなるわけだが、まあ、レイアはハルキとも馬が合わないみたいだし、相性が悪い人もいるだろう。
歩いているうちに、そろそろレイアと別れる道にさしかかってきた。
「じゃあ、また明日ね。7時頃には行くから」
レイアがそう言って俺の脇から離れる。
「おっけー、俺もそのくらいには集合場所に行けるようにする」
前のように待ちぼうけさせるわけにはいかないからな。
俺が何を考えているか伝わったのだろう。レイアは少し笑って、手を振りながら去って行った。
と、思ったら戻ってきた。
「ちょっと。そこの女はどこまで紳弥と一緒にいるつもりなのかしら」
「え?ずっとですけど」
「え!?」
てっきり俺もそのうち別れるとばかり思っていたので、ヒナミの発言に驚いた。
「いや、帰ろう?な?」
「私、実は特定の場所に住んでないんですよ。貴方と会ってからあそこからは出ましたし」
あそことは、初めてヒナミと出会った古城のことだろう。
「そう。じゃあ仕方が無いから私の家に泊めてあげるわ。しっかり縛って、抜け出すことのないように見張っててあげる」
「いや、別にいらないです。寮のベッドは広いので、私の寝るスペースはありますので。そうでなくてもソファもありますし」
当然のように俺の部屋の事情に詳しいのはやめてくれ。
「いいから行くわよ」
レイアがヒナミの腕を掴んで歩き出す。
「いいんですか?私が本気を出したら、貴方また病院送りですよ?」
ヒナミがクスクスと笑いながらレイアを見つめる。
それでもレイアは怯まずに、ヒナミの腕を引いていった。
「まあ、次は私が会いに行く番ですし、いいですけど。そしたら次は貴方の番ですからね?」
去り際、ヒナミの瞳に一瞬狂気の色が浮かぶ。
俺は、笑顔で頷き、ヒナミを見送った。
早いうちにヒナミを迎えにいかないと、酷い目に遭うなこれは。
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