第15話 サブクエスト
姉と同じく黒い肌に、緑色の癖っ毛気味の髪の毛。そして…あれ?もう一つの顔は後頭部にはない。
「弟の顔は、腹のあたりにあるの。アタシもその辺だったらよかったのに!」
俺が見た目で判断しないことを分かっているからか、ブーギーは俺にそう教えてくれた。
「よろしくな、メーシィ。俺は紳弥。こっちはレイア。お姉さんにはお世話になったんだ」
「話は姉さんから聞いています。こちらこそよろしくお願いします」
自己紹介が終わったのを見計らって、俺は改めて先ほどブーギーが言っていたことを訊ねる。
「それで、姉弟の目標ってのは?」
「アタシたち姉弟は、色々な素材で武器を作ったり、メーシィで言えば料理を作るのが目標なのよ。住んでた村では基本的に同じ素材しか取り扱わないし、たまにレアな素材が見つかっても村の年長者が処理をする。それじゃあ面白くないし、新しい技術も学ぶことはできないわ」
真剣なまなざしで熱弁するブーギー。メーシィも同じような真剣な顔で頷いている。
「だからアタシらは危険を承知で村から出て、旅をしてたんだよね」
「んじゃあ、この街に来たのは…」
「そう、異世界と繋がる街の噂を聞いて、もしかしたら異世界の素材を加工する機会があるかも!って。まあ、さすがにそれは無理だったけど、色んな物が流通してるから、とても充実した日々を送ることが出来てるの」
瞳を輝かせながら語るブーギー。メーシィも楽しそうに頷いている。
だが、異世界の品物は扱わせてもらえないというのは、ブーギーは確かにそうかもしれないが、メーシィもそうなのだろうか。
他の客のテーブルの上や、カウンターの上に置いてある食材を見るに、この店で出している料理には見覚えある食材が沢山あるんだが、もしかして気づいてないんだろうか。この話が終わったら訊いてみよう。
「それで、貴方たち姉弟の目標は分かったけれど、私たちに何を求めるのかしら」
俺が余所事を考えていると、レイアが話を進めてくれた。
「でもま、結局、落ち着いてしまえば目新しいものなんて滅多になくてね、そこでお願いしたかったのが、未踏区域の素材の提供よ!これから貴方たち、例の平原に行くんでしょ?聞くところによると、今まで誰も調査できてないみたいじゃない!」
急にに会話のボルテージが上がった。声が大きくなり、店内にいる少ない客も何事かとこちらを見ていた。
「もちろんそこから来たという人も聞いたことないわ。つまり、そこには見たこともない素材が沢山転がっているはずなのよ!!」
ついには立ち上がって目からきらきらとした光を出す…くらいに輝かせるブーギー。そしてブーギーの隣を見ると気づかないうちにメーシィの顔は俺たちの間近まで迫っていた。
どちらも職人気質なのだろう。自分の仕事を生きがいにしている。
「あー、なるほど分かった。素材を持ってこいと。そういうことだな」
「そのとおり!もちろんタダでとは言わない、きちんと買い取らせて貰うわ」
「食材ならボクが買い取ります!」
なるほど、武具になりそうな物はブーギーに、食べられそうなものはメーシィに渡せば良いってわけか。
「良いんじゃないかしら。確かに幼馴染にたかるような薄給には良い話よね」
レイアが隣で頬をつついてくる。
俺はそれを手で払いながら訊ねる。
「ただ、何が素材になったり、食べられるかなんて素人には分からないぞ」
これで俺が持ってきた食材やら素材で健康被害なりが出ても困る。
そうなったらさすがに樋口さんやハルキにも怒られそうだ。
「それはもちろんアタシらが判断するわ。貴方はただ、珍しいものを見つけたら拾ってくるだけでお金が稼げるの!良い話でしょ!」
「ふむ…」
確かにそれなら俺の負担はかなり少ないうえで、報酬をもらえそうだ。
「分かった、その話に乗ろう。レイアも良いよな?」
俺は2人にそう言い、レイアに訊ねる。
「もちろんいいけど、荷物を持つのは紳弥ね」
「え、お前の方が力強いのに…」
「あら、いつから私の幼馴染は、か弱い女の子に重い物を持たせるような男になってしまったのかしら」
か弱くないだろ。戮腕さん。
と言ったらハルキのように殴られる未来が見えたので、不承不承ながら了承することとした。
「そんなに心配しなくても、ほら、これ貸してあげるから、重さとかは気にしなくて良いから」
不満そうな俺にブーギーが縄で縛られた野球ボールくらいのガラス玉のようなものを渡す。
きらきらと日光を反射していて、とてもきれいだ。触ってみると少し弾力があり、ガラスではないことが分かる。
「田舎で見たことがあるガラス玉を縄で縛ったインテリアみたいなものに似ている…あれはもっとでかいけど」
「ビン玉ね。でもそれではないと思うわよ。これは…ハウストマックの胃袋ね?」
ペタペタ触っていると、レイアが俺からひょいと取り上げながら言った。
「ハウストマックの胃袋ってなんだ?」
「ハウストマックっていうのは、胃袋に異次元的な空間を持つ4足歩行の生き物よ。群れの中で最も胃の容量が多い個体が、群れごと胃に飲みこんで、その中で群れは生活して個体数を増やしていくの」
「へえすごい。つまりこれは簡単に言うと4次元ポケットみたいなものってわけだな」
用途を知ってからガラス玉を見てみると、確かに頂点に穴が開いている。そこから物を出し入れするのだろう。
「結構貴重なものよ、これ。こんなもの貸して貰ってもいいのかしら」
「いいのいいの、それ幼体の胃から作られてるからあんまり容量ないし、それに沢山素材を持ってきてもらえて嬉しいのはこっちなんだから」
「分かった、ありがとう。あと使い方を教えてくれ」
「あいあい」
そうしてブーギーにハウストマックの胃袋の使い方を教わった俺は、早速買ったばかりの鉄の棒を胃袋の中に収納し、店を後にする。
「んじゃあ、行ってくるよ」
わざわざ店の前まで見送りに来てくれたブーギーにそう声をかける。
「いってらっしゃーい!素材楽しみにしてるね-!」
彼女は、大きく手を振って俺たちを見送ってくれた。
「よし、行くか」
俺はレイアに声をかける。
一般の人間では調査できない厳しい環境だと聞いている。
一応、俺たちなら大丈夫だとハルキは送り出してくれたが、詳細が分からないので不安にはなる。
「大丈夫よ。どんな場所でも私が守るから」
緊張が顔に浮かんでいたのだろうか。レイアが気遣ってくれた。
「あんまり頼らないで済むように頑張るよ」
「そ」
彼女と笑いながら、俺たちは平伏の黄原へ向かう。
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