第13話 転生の仕組み
報告がてら本部に戻った俺を、顔のついた陽気な木は快く迎えた。
「やあ、おかえり。その様子だと、無事に再会できたみたいだね」
ハルキは本部に入ってきた俺と、その後ろのレイアを見て満足そうに言う。
「ただ…なにかあったみたいだね?」
着替える暇がなかったのでボロボロな俺の服装や、レイアの腕を見て察したようだった。
「ああ、レイアが天使とかいう奴らに襲われて、力を失ってしまった。原因に心当たりはあるか?」
俺は訊ねる。
「なるほど…力を失ったと…。むむむ、おそらくだが、魂をいくらか回収されてしまったのかな?」
「魂を?」
俺が訊ねるとハルキは体を揺らした。ワサワサと葉が揺れる。
「君たちは天使についてどの程度の知識があるだろうか。はい、転生者の戮腕くん」
急に偉そうな教師のように言って、枝をレイアに向ける。
レイアは、戮腕って呼ばないで欲しいのだけど。と呟いてから、ハルキの問いに答える。
「私たち転生者を狙ってくる存在ってことくらいまでしか知らないわ。ああ、力を奪い取ってくることもさっき知ったけれども」
「そう、天使の説明をするためには、まず転生者の成り立ちを説明する必要がある。僕の端末を見てくれ」
ハルキに言われて、俺はハルキの端末を見る。レイアは持っていないので、俺の後ろからのぞき込むような形だ。
画面には地球と、もう一つの地球、そしてそれらを繋ぐ黒いトンネルが表示されている。
「人が死ぬと、本来は自分の世界で転生するんだけど、何らかの理由によって世界を繋ぐ大穴が開いてしまったために、その近くで死んでしまった我々の魂はこちらの世界に流れ込んでしまった」
映し出された図では飛行機が爆発して、そこから発生した魂が黒いトンネルを通ってもう一つの地球に流れ込んだ。
「どうやら我々の世界の魂は、こちらの世界の魂よりも情報量が多いらしくてね。こちらの世界で転生を待っていた魂を吸収してしまったんだ」
図は一つの地球にズームインして、そこには魂がふよふよと浮かんでいる。これがこちらの世界の転生を待つ魂だろう。そこに赤い魂…つまりレイアたちの魂が流れ込んで、周りの魂たちを吸収してしまった。
「魂は本来、空気中で初期化されるのを待つ。その待っている魂たちを僕らは食べてしまったんだ」
「ほ、ほう…」
「僕らが記憶そのままに転生しているのは魂の初期化の前にこの世界にやってきたからだろうね。そして、現地の魂を吸収した僕たちは本来の人間では得られない能力を得た。それが、僕で言う全知、君で言う戮腕だね」
「戮腕と言わないで欲しいのだけど」
レイアは戮腕と言うなbotと化した。
「これは僕の想像だけど、たぶん僕らはこの世界の初期化待ち魂をおおよそ食べてしまったのだろうね。だから特殊能力を持つ転生者は飛行機事故の被害者だけだし、あれから僕は転生者が生まれるところを見たことがない」
ふむふむ、なるほど、つまり転生者は1つの地球の魂と、複数の異世界の魂で構成されていて、特殊能力を使えるのは異世界の魂の部分のおかげという訳だ。
俺がなんとか話について行けていることを確認したハルキは話を続ける。
「ここでようやく本題に入ろう。天使の役割とは、魂の管理だ」
画面には新しく天使のイラストが表示された。
「彼らはそれぞれの世界の魂を管理していた。それなのに、急に穴が開いて魂が流れ込んだり、その魂が現地の魂を吸収したり、イレギュラーが続いた。天使は今、大忙しなんだ」
イラストの天使は汗を流しながら右往左往している。そんな天使が穴をふさごうとしている様子が表示される。
「もちろん原因となったゲートをふさごうと頑張っているだろうね。そしてそれと平行して…」
穴をふさごうとしていた天使たちの一部が離れ、顔のついた木を攻撃し始める。おそらくハルキだろう。
画面の中のハルキは天使にやられてしまい、死体からは赤い1つの魂と複数の青い魂が解放された。
1人の天使は赤い魂を持ってゲートをくぐり、地球に魂を放流する。他の天使たちは青い魂を逃がすように散らし、満足げにさっていった。
「なるほど、転生者を殺して、魂を正常な状態に戻そうとしているのか」
「正解だ紳弥くん!」
満面の笑みでハルキはサムズアップをした。ような気がした。
「つまり彼らは悪くないんだ。むしろ良い存在だといえる。ただ…僕らも当然死にたくない。だから抵抗はする」
「まあそうですよね」
世界のために死んでくれと言われて快諾できる人間は少ないだろう。
「そして戮わ…レイアくんは、おそらく天使に魂の一部を回収されてしまったんだと思う」
レイアに睨まれたハルキはついに折れた。
「なるほど、さっきの図で言うと、赤い魂の周りの青い魂をいくらか取られてしまったっていうわけだ」
「そう、異能力を司る要素を奪われてしまったんだ。おそらく僕の推察では、今のレイアくんは一般人より頑丈で、限られた時間だけ少し能力を使えるくらいにまで弱体化してしまったんじゃないかな?」
「そうね、そのような認識で間違っていないわ」
「実は、今回のレイアくんはとても珍しいケースだ。何人か天使にやられてしまった転生者は知っているけど、能力を奪われた転生者は君が初だね。おめでとう!」
ゆさゆさゆさ。愉快そうに体を揺らすハルキをついにレイアは殴りつけた。
なんだか話を聞いていると、レイアとハルキはあまり仲がよろしくないように見えた。きっと過去に何かあったんだろう。2人とも最初期からこの街にいて、さらに言うと2人とも割と我が強い。
「にしても、既に転生者に犠牲が出てるんだな」
先ほどの話の中で気になった部分を確認する。
「そうだね。誰も彼も戦闘向きの異能力を持つわけじゃない。まさしく僕みたいにね」
「そういえばハルキは襲われたことないのか?」
「生き物だと思われてないのでしょう?」
「失礼な。1匹2匹くらいなら襲ってきたことはあるよ。調査団のみんなが助けてくれたけどね」
「なるほどな…」
転生者の味方となってくれる存在は主に人間か、転生先の種族の仲間だろう。
ただ、今まで見てきた転生者は皆群れて生きていないような気がするので、やはり戦闘向きじゃない転生者が天使に襲われてしまえば、ひとたまりもないことはよく分かった。
それともう一つ、調査団で天使を撃退出来たと言うことは人間は少なくとも天使に対抗するくらいの力をつけることが可能だということも分かった。
「なあハルキ、俺は可能な限り転生者を助けたいと思ってる。だから力を貸してくれないか?」
俺はハルキに頼む。
「うーん、あまり手放しで協力はできないなあ」
しかしハルキには断られてしまった。
「ハルキも転生者なら気持ちは分かるだろ?」
俺はさらに食い下がるが、ハルキの顔は渋いままだった。
「いいかい、僕が君に骸具まで与えて、全知の知識を惜しげもなく披露するのは君が調査団の一員だからだよ。残念ながら転生者の救済は調査団の目的にはないんだ。君の本職はあくまで調査。そこを忘れて貰っては困るよ」
「くっ…」
確かに正論だった。
この施設も調査団のものだし、ハルキは調査団のトップだ。
俺が都合良く使うだけではいけないだろう。
「いくら君が特異な体質を持ち、転生者を仲間にしていてもそればっかりはどうしようもない。調査団のルーキーとして目をかけることはできるし、これでも君には期待しているんだ。それを裏切って貰っちゃあ困るよ」
正論なのは分かっているが…。
「こいつはこういうやつよ。やめてしまえばいいのだわ。調査団なんて」
レイアはそう言うが、彼女と会えたのは間違いなく調査団のおかげだ。恩返しもせずに自分の都合で抜けるなんてことは考えられない。
「まあまあ、そんな怖い顔しないでよ。別に転生者を助けるなと言っているわけではないじゃないか。どうせどこに転生者がいるかも分からないだろう?」
「あ、そうか」
「そう、調査団の目的は未踏区域の調査。つまり、調査団の仕事をしていれば君の目的は叶えられる可能性は高いんじゃないかな」
前にこの街にいる転生者は2人だとハルキは言っていた。
逆に言えば、それ以外の転生者は街の外にいるというわけだ。これに関しては実際に足で探すしかないだろう。
唯一、1人だけは勝手に向こうからやってきてくれそうではあるが。
それに未踏区域の探索は骸具の探索も十分兼ねるだろう。
「分かった。調査団の仕事を優先しよう」
「うん、ありがとう」
「ふん」
なにやらレイアは不機嫌だが、俺の今後の方針は決まった。
「じゃあ、俺も前線組に合流すればいいのか?」
「いいや、君達には独自で動いて貰おうと思っていたよ」
ハルキはそういうとレイアを見る。
「彼女はきっと集団行動を望まないだろうし、それに君たちの戦力は隊に組み込むには規格外すぎて逆に持て余す」
「当然ね」
レイアは得意げに笑う。
「だから君たちには大人数じゃ攻略が難しい地域を少人数で調査してもらうことにする。さしあたっては…」
ハルキの端末の液晶に地図が表示される。地図といっても街を中心としたまだまだ狭い範囲の地図だが。
その地図の、調査が進んでいる方向の逆側に矢印が表示される。
「街に隣接しているものの、あまりに環境が悪くて調査団では調査ができなかった、平伏の黄原の調査をお願いしたい」
「平伏の黄原…」
「あ、名付けたのは僕だよ」
「いやそこは別に気になってない。どんなところなんだ?」
「そうだなあ、せっかくなら予備知識なしで行ってみようよ。冒険はそうでなくちゃ!なあに大丈夫大丈夫、君はなかなか死なないそうだし、彼女はとても頑丈だ。君たちなら心配いらないと思うよ!」
どうやらこちらに情報を渡すつもりは無いようだ。
まあ、大丈夫というからには大丈夫なのだろうが、事前情報がないと不安にはなる。
隣のレイアを見るとまるでゴミでも見るかのように、はしゃいでいるハルキを見下していた。
何か仲が悪くなったきっかけはあるんだろうけど、単純にロマン主義のハルキと現実主義のレイアで相性が悪いっていうのもあるんだろうなあ。
「分かった、行ってくるよ。でもなにかしらのアドバイスは欲しいな。ゲームでも事前のヒントくらいくれるだろ」
「むむむ、そうだね!」
オタクっぽいこの木ならこう言えばアドバイスをくれると思った。
「長い鉄の棒とか用意していくといいかもしれないね!そこのすごい顔した彼女に持たせておけばきっと君は安全さ」
鉄の棒…?
「分かった、ありがとう。行こうレイア。そんなに顔をしかめていると元に戻らなくなるぞ」
俺はイライラゲージが限界間際になっているレイアに声をかけ、本部を後にした。
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