なぜ?


 少女は僕が言いたいことを理解したのか、答えを教えてくれた。


「邪魔だったからですよ?私は人形でいないといけない。そのために邪魔だった。だから潰した。簡単なことでしょう?」


 文字にするのは、言葉にするのは簡単だ。

 でも、実行するには多くの恐怖に抗い、狂気がないとできないことだ。


「怖くなかったの?」

「怖がってどうするんですか?誰も助けてくれない人生を送ってきた。もう、とっくの昔に諦めたのに、何を怖がる必要が?」


 何も分からない。

 不思議に思うことが分からない。


 そんな顔をして少女は無邪気に笑う。


「なぜ、生きるのか」

「え?」


「なぜ、私があんな目に遭うのか」

「ちょ」


「なぜ、誰も救ってくれないの?」

「ま」


「なぜ、私は笑わないといけないの?こんなに痛くて苦しいのに!」

「何を」


「なぜ、感情があるの?なければこんなことを考えなくて済んだのに」

「いきなり」


「なぜ、死んではいけないの?死ねって、要らない子って言ったのはあなた達。だから死んであげようと思ったのに」

「待って!」


 僕がようやく一言挟むと、少女は口を噤んだ。

 でも、笑ったままであった。


「急に何を言って」

「幼少期から思っていたことですよ。自殺しようとするたびに止められた。死ねって言ったのは彼らなのに」

「何でそんなことを」

「家の評判が悪くなるから死ぬなと怒られました。私なんてどうでもいいんだと毎回毎回思いました」

「何を」

「私なんてどうでもいい存在だった。自身の下にいる存在とし、虐げるためだけに私は生まれた。ただそれだけでした」


 少女は静かな笑みをやっぱり浮かべたままだった。


「止めてと言っても誰も止めなかった。私の悲鳴は聞こえないふりをされた。だから、人形になる必要があると理解した。人形には感情はない。意思だってない。だから、潰した」


 少女は左手を前に出し、ぎゅっと固く拳を作った。


「二度と蘇ることがないように。二度と振り返ることがないように」


 その動作が、少女が感情を潰した時の動きと同じだったのかもしれない。


 僕はそう思ったけれど、言葉にすることはできなかった。

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