頑張りましょう

「あなた、あなた、起きてくださいな」

 少し高い声がする。

 僕は、眼を開けた。

 すると、あの少女の顔が映る。

「おはよう、でいいのでしょうか?怪我とかもないですか?意識ははっきりしてます?指、何本か分かります?」

 少女が僕の目の前で指を見せてくるが、少女は指を振っているのでぶれて何本あるのか分かりにくい。

 少女は着物のような袖をしている服を着ていた。

「怪我はないです。意識もしっかりしてます。指は、3本です」

「はい、正解です。よくできました」

 少女は袂を抑えながら、僕の頭を撫でる。

「さて、ご無事なのはいいことですけど、早く元に帰った方がいいですよ」

「え?」

 僕が頭を撫でられたままにしていると、彼女は歌を歌うかのように言葉を紡いだ。

 可笑しいことでないように、当たり前のことに、彼女は言葉を発する。

「ここに居過ぎると死にますよ?」

 僕は彼女の言葉にハッとして、周りを見渡す。

 暗い世界。

 僕と彼女の周り以外は、真っ黒な闇で覆われていた。

「僕、大学に」

「気を失われて、空き教室に運んだらこうなったんです」

 少女は驚くことなく、淡々とあったことを話していた。

 ある程度、僕の頭を撫でたのだろう。

 彼女は軽く僕の頭をぽんぽんとし、立ち上がるために、僕に声をかけた。

「さあ、立ち上がって?」

 僕はいつの間にか、少女の膝に頭を置いていたらしい。

 いわゆる、膝枕と呼ばれるやつだ。

「この世界にずっといると、花と花の香りで狂って、死んじゃいます」

 僕が身体を起こすと、彼女は満足そうに笑った。

「希望を失っても、絶望して、狂って、溶けます」

 少女は舌を少しだけ出して「残念ですけどね」と告げた。

 そして、僕の背中を軽く押してにこにこと笑った。

「希望を持っていきましょう!私がお手伝いしますから、ね?だから、頑張りましょう!」

 頑張るぞ!と言わんばかりのポーズをしている少女は幼げで可愛らしかった。

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