14、私たちの大切な人たち

14.私たちの大切な人達

2人で東屋を出て庭園に戻っている間、ずっといわゆる恋人繋ぎで手を繋いでいた。


なんだか照れ臭い。

小さい頃は、2人でずっと手を繋いで走り回ってたのに。


すっかり大きな手になったゼルに包み込まれているようだった。


指も長くて、手さえも本当に綺麗――。

まじまじと手元を見てると、ふいにゼルの歩調が緩やかになった。


「――そんなに見られると照れ臭い」

「あ!ごめん」


空いてる手で髪の毛をかきながら、ゼルは真っ赤な顔をしている。

所作一つが綺麗で、うっとりしてしまう。


はっ!

いかんいかん!

こんな事で浮かれていては!


頭を切り替える為に、話題を探した。


そうだ。

さっきリウネ様が気になること言ってた。


「ねえ、ゼル。この1年、パーティはどうしてたの?」


ゼルの身体がびくっと震えた。


怪しい。

この挙動怪しすぎる。


何かやましいことがあるに違いない。


「――あー、実はあんまり出てないんだ。政務が忙しくて、そんな余裕がなかった」

「……本当に?」

「本当だって!王太子としては失格と思われても仕方ない……」

「リウネ様をエスコートして、行ったことは?」

「ないない!会場でどうしてもってせがまれた時は、1曲踊ったくらいかな……」


青い顔をしながら、ゼルはつぶやく。


リウネ様のあの性格だと、強請って強引に踊ったところだろうか。


確定黒だけど、会場には私はいないわけだし、リウネ様に強請られれば踊るほかなかったかもしれない。


「勿論、アンネ嬢とも踊ったよ。候補の1人だから……」

あくまでも候補者に平等に接したと言いたいらしい。


仕方ない。

許すか。


「――私はいないわけだし、仕方ないかな」

そう言うと、ゼルはほっとしたように笑顔を浮かべる。


「そうだ――今度の王国設立パーティなんだけど、実はエルナット国のアンティカ様が来られるんだ」

「あら、アンティカ様が?もうお元気に?」


隣国エルナット国のアンティカ女王は、齢60歳代の方で王配が昨年亡くなり、去年はこちらを訪問されなかった。


かなりの大恋愛の末、王配と結ばれ、女性たちの憧れの恋愛小説にもなっているらしい。


「それでもう引退されるらしいんだ。今年で最後だとおっしゃってた」

「そうなの……」


とても快活なアンティカ様は過去2度ほど面識があるが、60代とは思えない気品を持った方だ。


「だから最後にエスコートして欲しいって、頼まれちゃって――だから今年はエスコート出来ないんだ。ごめん」


「来賓として出席なさるのでしょ?ホストであるゼルがエスコートするのは当然でしょ」

「うん、今年から俺主導でやってるから。『ゼル坊、よろしくね』って。ファーストダンス踊ったら、エステのとのろ行くから、それまで待ってて欲しい」

「うん――わかったわ。今年はグリムにエスコートしてもらうわ」


久しぶりにグリムと一緒に行くのも良いかもしれない。


「うん、ごめん。ありがとう。そのかわりドレスとか全部贈るから。というか、もう準備してるんだけどさ」

「えっ?!去年のがあるじゃないの。それでいいわ」

「だめ!絶対だめ!俺の大切な人だって、知らしめたいから」


ゼルがこう言い出したら、絶対に引かない。

半ば諦めている。


「――わかったわ。準備までありがとう」


私の言葉に満足したように、ゼルは上機嫌で歩き出す。


庭園の入り口に差し掛かった時、中にいる人物を見て驚いた。


え、なんでうちの両親?


国王様、トウヒ様、グリム、アンネ様、アンネ様の兄でゼルの護衛であるマリブ様と、何故か私の両親が揃っている。


「あれー?その様子だと、うまくいったのかな?」

国王様の茶化すような口調に、ゼルと2人で目を合わせて真っ赤になってしまった。


「ええ?!良かった!」

アンネ様の歓喜の声。

「まったく世話の焼ける……」

グリムのちょっと泣きながらの声。

「いきなり本気で走るから、追いつけなかったですよ……」

マリブ様の溜息交じりの声。

「エステ……」

泣いている父親。

一応、この国の宰相ですよね?

母は隣で父を慰めてるいる。


「何はともあれ、私も嬉しい!エステちゃん!ありがとうね!こんな愚息だけどよろしくね!」

「はい……」

国王様に小さく私は返事した。


「――そうと決まれば、早めに発表したいかな。下準備はもう出来てるから、今度のパーティーで発表しちゃおうか!」


「えっ!?早くないですか?!」

「本当は1年前に発表しちゃいたかったのに、うちの愚息がさぁ、やらかすから」


あっと気まずい顔をして、ゼルは私を見ている。

手がぎゅっと握られた。

わずかながら震えている気がする。


な、なんだか、可愛い。

そんなに私が好きなの?


「――わかりました。よろしくお願いします」

そんな顔されてこっちを見られたら、それしか返事できないじゃないの……。


「よし!じゃあ全は急げだ!ほら!リオス!呆けてないでいくよ!」

国王様は父を引きずるように、王宮に戻っていく。

その後に、母と、トウヒ様は私達に一礼してからついていった。


「あ!そうだった!僕の応接の間に、フェリメル呼んでるから!ちゃっちゃと片をつけちゃって!」

去り際に、国王様はさらっと爆弾を落として進んでいく。


「えっ!?ちょっ!!国王様!?」





私達はこの時、本当に浮かれていたのかもしれない。


茂みに隠れていたリウネ様が。


「あの女、本当に許さない!」

凄い形相で私達を睨みつけていたなんて。

気づいていなかったのだ……。

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