第25話 鵜戸家。爺さん再び

 久々に役所へと電話して、俺が把握している野良ダンジョンとの情報すり合わせをする。

 3つほどの、未確認ダンジョンがあったので、それを週末に潰すと言うことで話を付けた。


 家のリビングでみんなを集め、

「あすは、中学生組も連れて、ダンジョンピクニックを開催する」

 そう宣言をする。すると、

「私たちは、どうするんですか?」

「お前たち高校生組は、こちらの2つ。役所からの依頼分の野良ダンジョンの殲滅だ。昼飯は、玲己に渡しておこう。まあ午前中に一つで、午後から一つで行くなら、移動途中でどこかで外食しても、保護者が居るし大丈夫だろう」

「やったー」

 そう言って歓声が沸いた。

 おかしい。食い物には、苦労させていないはずだけどな?


「やったね。あれチャレンジしてみる?」

 一翔が、発案する。

「あれは無理でしょう。チャレンジメニュー3人前で3kgもあるらしいよ」

 しばらく前から、一翔がうだうだ言っていたので、話を聞いて調べた。

 みゆきからの情報が伝えられる。


「失敗しても1万円払えばいいし、勝てば逆に1万円もらえる」

 そんなことを言って、一翔は一人ではしゃいでいる。

 一翔は一翔だから、周りの反応は気にしない。いや見えていない。一翔だし。


 クラスで一人。

 成功したと吹聴をした奴がいて、それを聞いた一翔はこれだと思ったようだ。

 霞がずっと冷たく。

 それに焦り、焦りからさらに空回りが続く。破滅のループへどっぷりと足を突っ込んでいる。

 そんな一翔の頭の中では、霞にどうすれば男を見せることができるのか、そんなことを思いさらに自滅へと向かう。


 相談した一翔の友達は、彼女が居ない連中ばかり。発想が目立とうという方向へと突き進んでいく。


 そんな一翔を、冷ややかな目で見るその他全員。

 なつみは、少し前に自分も感じた不安と頼りなさを、同じように一翔に感じて霞が距離を取っているのだろうと思っている。

 中学生の壮二くんよりも頼りないというのはどうなんだろう? 一翔がんばれとエールを送る。

 頭の中では、完全に他人事だと思っている。

 そんななつみの背後にも、ライバルがぴったりと張り付き、積極的行動により、自身の付き合いの長さというアドバンテージが、すでに無くなっていることを知らない。


 なつみも、壮二に対して積極的行動を取っていない訳ではない。

 一緒にお風呂に入ったり一緒に寝たり。

 相手が普通なら効き目もあるだろうが、壮二にとってはそれが普通。

 お風呂? 一緒に入るよね。

 寝る? みんな一緒だよね。

 それが普通だったし、今でも、美月や玲己に引っ張り込まれて、当然風呂も一緒に入るし寝ていることもある。


 実は、この家で異性との接触が一番多いのは、一司ではなく壮二である。

 なつみは一言『すき』と言えばよかった。

 言わなかったために、壮二の中ではスキンシップの多いお姉さんポジションと認識されていた。


 そして、翌朝。

 玄関のチャイムが鳴る。


 出てみると、鵜戸神音ちゃんは良いとして、横に爺が居た。

「おはよう。先日ぶりですが、お爺さんはなぜ?」

「うむ。その節は勘違いから申し訳なかった。この通りだ」

 そう言って頭を下げる。


「事情を分かっていただいたなら、それで結構です。それでは。神音ちゃんは参加するんだよね」

「はい。でも……」


「でも?」

「わしも参加させていただこう。貴殿の強さには感服した。是非とも修行につき合わせて頂きたい。なあに、自身の獲物はこちらで用意させていただいた」

 そう言って背中に背負った鍵付きのバッグを見せてくる。


「そうですか。今日は、中学生向けのつもりだったのですが、まあいいでしょう」

 見た感じ、引きそうもないので引き受けてしまった。

 

 俺、真魚、壮二、フェン、神音ちゃんと爺。

 フレイヤは、高校生につけた。リボンのついたピンクの首輪をつけて、リードを持たせ、キャリアに入れて移動の予定。

 首輪は暗くなるときらきら光る仕様。

 最初は〈えー首輪をするのにゃ〉そんなことを言って首輪を嫌がったが、最近はカタログを見ながら自分で決めている。その日の気分で選んでいるようだ。

 ただ、美月と見ていたカタログは、同じように首輪が載っていたが怪しさが満載の物だった。

 ちなみに今日は、二日酔いで不参加だそうだ。


 フェンも一応、首輪と鑑札を付けている。

 ただこいつは、〈主に頂いたものなら何でも喜ばしい限り〉とフレイヤほどこだわりはないようだ。登録犬種は雑種となっている。

 これは、登録時に、「犬種は何ですか?」と聞かれてフェンリルと言えず、「さあ?」と答えると雑種になった。


 一応、注射済票を着けることが義務のようなので、狂犬病予防注射も受けに行ったが、針が刺さらず大騒ぎになった。診察室の気温を下げながら、俺の命令で何とか受けた。

 帰るときに先生から、「本当に犬ですか?」と聞かれ「たぶん」とだけ返答したが、「絶対違いますから。言ってくだされば、接種証明書は発行しますので、連れてこないでください」と言われた。解せん。

 多分注射は必要ないし、ほかの患畜(かんちく)がおびえるそうだ。



 それはさておき。

 いきなり玄関先でゲートを開き、爺さんたちを押し込む。

 目の前には、洞窟が口を開けている。

 爺さんは、さっきから「面妖な」とぶつぶつ言い続けている。

「さあさあ、行きますよ」

 先頭でフェンを連れながら、ポン〇クロスSS2000に印刷して、わざわざ作った、クロネコと白いわんこが書かれた旗を振る。


 内部に入ると、おもむろに神音ちゃんと爺が、背中のバッグを下ろして鍵を開け始める。やっぱり出てくる日本刀。


 邪魔そうなので、バッグは預かる。

「最初は実力も見たいので、お二人で討伐を進めてください」

 そう言うと、うむという感じで頷く2人。


「早速、一匹来ましたから、順番を決めて攻撃してください」

「わしが行く」

 爺さんはそう言って走り出し、走り抜けるとゴブリンの首が落ち黒い煙になった。

「むむっ、面妖な」

 また何か言ってる。

「さあ進みますよ」

 そう言って進もうとしたら、爺さん。俺に太刀筋でもほめてもらいたかったのか、表情が曇った。

 ガキかよ。

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