第21話 壮二。修学旅行の秘密

 女の子が、男に絡まれている。

 

 そんな様子を、横目で見ながら、

「あの子たちかな?」

 俺は、自分の後ろに立って、おろおろしている3人に確認する。


「そうです。あの子たちです。でも、見つかったのはよかったけれど、絡まれちゃった。どうしよう?」

「まあ、何とかなるよ。多分」


 絡んでいる奴らに、歩み寄りながら考える。

 周りに家族はいないけれど、ぼくもあの家族の一員だから、きっと普通からは外れている。

 力加減を間違えないようにしないと、相手を簡単に殺しちゃうはず。


 男たちと女の子の間へと、体を割り込ませる。


「ちょっと、どいてくれ。君たちがはぐれていた子たちだよね。班の子たちがあそこで心配しているから、早く行ってあげて」

 そう言って送り出す。


 ……当然。

「なんやこら。割り込んできて、何に勝手さらしとんじゃぁ。しばくど、ボケェ」

 そんな、どこかで聞いたことのあるセリフを言ってきた。

 見た目は、普通の大学生のようだけれど。


 頭の中で、スイッチを入れる。

 こいつらはモンスター。今から退治する。

 そう考えて、相手をにらむ。


「「ひぃー」」

 にらんだ瞬間。

 二人とも一瞬腰を抜かしたようだが、どこかの悪の組織にいる、戦闘員のような声を残して四つん這いになりながら逃げて行った。


「「「ありがとう、ございました」」」

 そう言って、3人とも頭を下げてきた。


「いや大したことはしてはいないし、無事で何より」

「あの閉結界を、壊してくれたのはあなたなの?」

「閉結界?」

「そう、私の力では壊せなくて困っていたの。千本鳥居に入った瞬間に、お狐様が横切って行ったから、遊ばれたのだと思うけれど……」

 さっき絡まれていた女の子。


 この6人は、かわいい子の集まった班のようだが、その中でも一番かわいいというかちょっときつめの美人顔。

 黒髪で、肩にかからないくらいのショートボブ。

 身長はほとんど一緒か、ちょっと負けている?


「ああ、空間の隔たりを感じたのがそうかな? 魔力を纏わせて、殴ったら壊れた」

「殴って壊したの? あなた何者?」

 そう言って、ずいっと怪訝そうな顔が寄って来た。


「神音(かぐね)集合だって」

 そう呼ばれて表情が変わり、戻ろうとしたが、再度こちらを振り返り

「あっ、また後でね。私は、鵜戸 神音(うと かぐね)」

 そう言い残して走っていった。

「俺は、少林壮二(わかばやしそうじ)」

 と返したが、その声が彼女に聞こえたかどうかは分からない。



 逃げ出した二人。

「やべぇ。あのガキ何もんだ? にらまれた瞬間。絶対殺されると思ったぜ」

「ああ俺もだ。危うく、小便ちびる所だった。絶対あのガキ、二桁は殺しをやっているんじゃないか?」

「ああ、あの落ち着き方。ぜったい、鉄砲玉じゃねえ。本職だ。制服着ていたから学生だろうが、どこかの組の跡取りで、英才教育とかで殺しを仕込まれているんじゃないか?」

「そのうち、下着会社に就職するんだぜきっと。関東は恐ろしい」





 その晩。

 うちの班の部屋へ、鵜戸さんはやって来た。


 夜に男の部屋へ女の子が訪ねてくれば、当然のように同じ部屋の連中からはやし立てられる。

 周りがやかましいので、彼女と一緒にロビーの方へと移動した。

 部屋にいた連中、みんなどうして、とっさに自己紹介をするのか不思議だ。


 ロビーの方は、なぜか人気がなく空いていた。

 ソファーへと座り込むと、なぜか彼女も隣へ座って来た。


「ごめんね、騒がしい連中ばかりで」

 俺がそう言うと。

「いえ、まあ予想はしていたけれど……それでも。どうしても、あなたに会いたくて来ちゃったの……」

 そう言って、何かもじもじしていたが、思い立った様に、

「あなた一体何者なの?」

 体をこちらへと向き直り。ビシッと音がする勢いで指をさして来る。

 背景が暗転と同時に、効果音がババーンと聞こえそうな勢いだ。


 おれは、

「人を指さすなよ」

 そう言って、こっちへ向いている彼女の手を握って下す。


「単なる、普通の中学生」

 そう答えて見たが、許してくれないようだ。


 やれやれと思いながら、話せる部分だけを話そうと説明を始める。

「家族全体で、会社をやってる。ダンジョンの駆除とかモンスターの駆除とか」

「でも、壮二くん中学生じゃない」

 いきなり名前呼びされた。まあいいけど。


「いやまあ、いろいろ便利だから、危なくないようにトレーニングとかしているし。一司兄ちゃんがいろんなコネがあって、中学生でもダンジョンへ入れるんだよ」

「何時から? もう長いの?」

「半年―、いや7か月かな?」


「そう…… それで、あの気力なのね。あの二人に気を向けたとき、私も腰が抜けるところだったわ」

「気力?」

「武道とかでも使う言葉だけれど、自分の精神力を高めて達人になると、気力だけで相手を倒したり威圧したりできるの。あなたの…… すごかったわよ」

 そんなことを言いながら、ほほを染められる。

 人が聞いていたら勘違いされそうだ。


「私の家も代々宮司をしていて、子供のころからいろんな修行をしてきたの。今回のことは、私の中ではお狐様のいたずらだと思ったけれど、お導きだったんじゃないかと思っているの。今回、あなたに出会ったのは…… 運命よきっと。壮二くん、これからよろしくね」


 そう言われても、どう返していいのか分からない。

 答えを迷っていると、

「ひょっとして、許嫁とか決まっているの?」

 真顔でそんなことを聞いて来た。

「いや許嫁とかはいないし」

 じゃれついて、からかって来るのは一人いるけれど……。


「あの、壮二くん手を放してくれるかな?」

「えっ」

 そう言われて視線を下ろすと、彼女の膝の上に彼女の手があり、その上に俺の手がかぶさっている。

 あっ、さっき指差しを下ろさせた時から、握りっぱなしだった。

 

 手を放し、顔を上げながら謝ろうと上を向くと、彼女の顔がもう目の前に来ていた。

 ちゅ。「うぐっ」うわっ舌が入って来た。


 少しして、離れると。

「初めてだから下手かもしれないけれど、私本気だから…… 壮二くん。よろしくね」

 そう言ってもう一度、唇に軽くキスをして。彼女は走っていった。


「いや、俺も初めてなんだけど……」

 見えなくなった彼女にそう言って、誰もいないロビーで一人。

 唇を押さえながら、しばらく呆然としていた。

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