第35話 我が人生に一片の悔いなし
移動してきた先は、約束通り水族館。
「4時には、来る」
と言って、一司は消える。
そこで、薄暗い雰囲気で瀬尾さんの手を堪能して、お土産屋さんの雑貨で一喜一憂をする女性陣に圧倒され、最後に、ドルフィンパフェを始めとした甘い物を別腹に押し込む姿に圧倒された。
芳雄と壮二は、すごいなと言葉には出さないが、確かに思いは通じていた。
4時になって一司から電話が入り、パークの外で落ち合う。駐車場の隅で皆の姿が消える。
宿に行くかと思ったが、
「一応ここも抑えておこう、べっぷ地獄めぐりだ」
と一司が言って、共通観覧券を購入して中に入る。
今回は一司も一緒だと、美月さんがはしゃいでいた。
今日だけで、30以上潰してさすがに疲れたらしい。
ここでもプリンを見つけて、みんな食べていた。
女性ってすごい。
さすがに、次は宿へ移動をした。
普通と違って、離れのタイプで戸建てになっている。
静かな森の中に建つ雰囲気で、各部屋にお風呂が付いているようだ。
予約は2棟取ってあるらしく、部屋割りは後で決めるとのことだ。
最初は瀬尾さんが参加するため、3棟取ろうとしたが、真魚が私たちは家族だと言い張って2棟になったようだ。
食事はこっちの少し大きい部屋で、一緒にとることになった。
お肉がメインの懐石で、俺たちはもう初めてで一気に食った。
一司さんと美月さんは、それを嬉しそうに見ながら酒を飲んでいた。
芳雄は切実に思った。
お願いします。美月さん、今日は、はっちゃけないで。
と考えていると、
〈まかせろ。美月は俺が押さえておく〉
と、一司から念話が入った。
やっぱりこの人、心を読んでいるんじゃないか? そうでなければこの前言われたように俺がサ〇ラレ状態なのか?
芳雄は、悩み始める。
食事のあと、
「部屋割りは、芳雄と瀬尾さんな」
「えっ」
驚く、瀬尾さん。
芳雄は悟っていたのか、お地蔵さんのような顔をしている。
「えって何? 家の芳雄が嫌いなの?」
と美月がにまにまと、言いくるめにかかる。
「えっと、嫌じゃないんですが、心の準備が」
と、もじもじする、瀬尾さん。
「そういや、そんなこと言って、23歳になるまで踏み切れなかった奴がいるな」
と、一司が突っ込む。
美月がガーンという顔で、大仰に驚く。
「いやさすがにそこまでは、待たそうとも思わないんですが」
美月が突っ込む。
「あれを知らないのは、人生においての損よ」
むふーという感じで力が入っている。
それを横目に、追い打ちをかける。
でも、こいつら高校生だから保護者としてはどうだ? まあいいだろ。本人の自主性、俺は煽っただけで、行動を起こすのはこいつら。後は知らん。
結構屑なことを考えて責任を放棄する。問題になったら、婚約させれば不健全性的行為には当てはまらんだろう。
「じゃあ、良いじゃないか。どうせ瀬尾さん。神に気に入られてもう人間じゃないし」
「えっ」
「多分。寿命も、かなり違ってくるんじゃないか?」
「皆さんも、そうなんですか?」
とすごい表情をして、瀬尾さんが聞いてくる。
「ああ、俺と、美月それと今回参加していないが、うちの社の神地さんも一緒だな」
うん? という顔をする瀬尾さん。
「えーと、芳雄君は違うんですか?」
「ああ違うな。必要なら管理者の一つくらい、すぐ拾えるだろう」
びっくりして目を見開いているが、大丈夫か?
「そんなに簡単に、人間て、やめられるんですか?」
「ああ、なんだか神同士の都合があるみたいだから。きっと俺の周りには勝手に集まって来そうだ」
うん? と考え始める瀬尾さん。そーっと一司に問いかける。
「えらく大事そうな話を、ぺらぺらと喋ってくれているのは……」
「おお勘が良いな。君はもう、逃げられない」
にまっと、笑う。
がっくりと膝を落とす、瀬尾さん。
突然真魚が、
「一司さん、私もそれ欲しいです」
と言ってきた。
「おまえと、壮二はもう少し大きくなってからな。背が伸びなくなったら困るだろ」
と言ったら、ぶんぶんと頭を縦に振っていた。
と言うことで長い人生だが、楽しみも長いほうがいい。
「ほれ。そう言う事で、君らの部屋は向こうだ。行け」
と半ば追い出した。
「あー、瀬尾さん行こう」
と芳雄が手を伸ばす。その手を取りながら、
「もう良い。決めた。芳雄くん、みゆきって呼んで」
と手を取り合って、隣の建物へ移動していった。
速攻で、美月が覗きに行こうとしたから、捕まえて部屋の風呂場へ移動する。
温泉だからもう皆で入るかと言って。
みんなで入った。
壮二が、隅の方でもじもじしていたが、昔の俺を思い出した。
「壮二、恥ずかしがることは無いさ。みんな家族だ」
と言ってこっちに引っ張って来た。一部元気なのは美月のせいか?
中1でも、お年頃なのか?
お隣の若い人たち。
部屋に入るなり、彼女がわめく。
「もううっ、良い。芳雄くん。一緒にお風呂入ろう」
「えっあっ、いいの?」
「良いの。もう私、人間やめているみたいだし。慈愛と癒しを司るみたいだから、芳雄くんに初めて与えるの、芳雄くんひょっとして嫌なのかな?」
小首をかしげて、そう問うて来ながら、手を伸ばして来る彼女。
「嫌じゃないです。よろしくお願いします」
芳雄は、彼女の手を取った。6個入りの小箱を握りしめて。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます