第23話 炎の魔人 美月参上(笑)

 茶を飲み。落ち着いたところで、諸々を片付ける。

 攻略を再開する。

「じゃあとっとと、終わらすか」


 社長たちは突然、小走りで走り出した。


 俺たちは、何とかついて行きながら、目の前の光景に目が点になった。

 社長が走っていく先で、勝手にモンスターがばらばらになっていく。

 その後ろで、フレイヤさんと美月さんが魔石を拾っている。


 そのままの勢いで、20階層まで一気に進んでしまった。

 普段は俺たちに合わせて、いかにゆっくりしていたのかが分かった。


 20階には、フロストジャイアントと言う、スノーマンの大きな奴が居た。


「私がやる」

 と言って美月さんが飛び出すと。

「炎の魔人。美月参上‼」

 と言いながら右手を振り上げて、声を張り上げた。



 美月は何を思ったのか全身に炎をまとい、仁王立ちしてモンスターに対峙する。

 そこから、全身に火を纏ったまま、ガンガンと攻撃をする。

 ただまあ、火は纏っていても、打撃はやはり吸収されてあまり効いていない。

 炎に対する耐性もあるのか、分が悪そうだ。


 それに…… 攻撃で足とか景気よく振り上げているけれど……。


 ぼちぼち止めようと、一司は声をかける。

「なあ美月、それ熱くないのか?」

「うん大丈夫」

 元気な答えが返ってくる。楽しそうだな。

「あ~でもなあ、美月……。 若者2人が、鼻血出しそうだから、そろそろやめてくれないか」

「へっ」


 そうなんだよ。本人は大丈夫だが、服はだめらしい。

 美月は気が付かなかったようだが、服はあっという間に燃え尽きた。


 つまり一糸まとわぬ姿で、足を振り上げる美月…… どこかの何とか仮面のようだが……。

 

 珍しく、

「きゃあ」

 と言ってしゃがみ込むが、もう遅い。


「とりあえず炎を消せ」

 バスタオルを被せる。


「さすがにお前でも恥ずかしかったのか?」

「当たり前でしょ。うー見られた」

「炎纏っていたから大丈夫。細かいところは見えていないから」

「細かいところは? じゃあ大まかには見られたって言うことじゃない」

 目の端に、わずかに涙がたまっているが。

「それは自業自得だ」

 まあしゃべりながらも、俺がサクッとフロストジャイアントは倒した。

 バスタオルにくるまれながら、ごそごそ着替えると美月は一応復活した。


「うー、久々に失敗した」

「酒なんか飲むから、馬鹿な失敗をするんだよ」

「一本しか飲んでいないもん」

 それについては反省はないようだ。


 まあ、今更遅い。

「彼女が裸見られたのに、一司冷たい」

「お前が勝手に燃やしたの、そして見られたじゃなくて見せたの。それにやばくなったから止めただろ」

 ちなみにこいつが出て行ってすぐ俺はやばいと気が付き、高校生二人にはすぐ回れ右をさせた。

「ぶーぶーぶー」


「さて、何処かな?」

 もう一階下へ行く、階段が見つからない。

「……あれ? 下りの階段じゃなく。管理用クリスタルが見つかった……。じゃあ本来のダンジョンは、ここまでなのか?」


 もう一階分。

 降り口はどこだ?

「ちょっと、下への降り口を探してくれ」

 俺が皆にそういうと、フレイヤから念話がやって来る。

〈ここにあるにゃ、ただ嫌な臭いがするにゃ〉

 フレイヤが見つけて、教えてくれた。


「ああ? これか? ずいぶん小さいな。蟻ダンジョンクラスだ。それで、奥にいるやつ知り合いなのか?」

〈なんとなく、知り合いポイ。それにここ寒いし、いやな予感がぞくぞくするにゃ〉

 フレイヤがそんなことを言っていると、穴の奥の方に動きがある。

〈なんだい、懐かしい匂いがするじゃないか。ええ、セクメト〉

 穴の奥から念話を使いながら、ちっこいわんこが出てきた。


〈やっぱりお前か。フェンリル〉

 猫なのに、肩を落としながら、ため息をつくフレイヤ。

「フェンリルってやっぱり神様だよ。北欧神話だよね。ラグナロクに絡むよね…… ロキの子供じゃん」

 俺はぼやく。


〈われらは魔素から生まれるもの、誰かの子供ではない。大昔一緒に行動していた時期があるから勘違いをされたのだろう〉

 フェンリルが偉そうに語る。


〈ほう? お前様主か〉

 フェンリルがそう言うと、なぜかフレイヤが焦って言い訳をする。

〈ちがう、ちがう。こいつは、この星の原住民だから同種ではない〉

 フレイヤがそういうが、フェンリルは、鼻を鳴らしながら、

〈だが匂う。我らを束ねるものだろう?〉

 そう言い切る。


 話が分からない俺は、ちょっと聞いてみる。

〈ああごめん、割り込んで。束ねるって何?〉

〈創造神の力を宿していないか?〉

〈創造神? 創造者(クリエイター)の事?〉

〈なんじゃ、持っておるじゃないか。ならばそなたは、私らが仕える主じゃ。何なら女人となって仕えてもいいぞ。 ほれ〉


 フェンリルはそう言うと、煙も音もなく、すっぽんぽんの女の子登場。4~5歳くらいかな?

「ダメ。速やかに犬に戻って」

 俺は、あせって念話をする。

〈犬ではないオオカミだ〉

「どっちでもいいから戻れ」

 少し威圧を掛ける。


〈おおその力、やはり主〉

〈やっぱりこうなるか、これだから犬は〉

 フェンリルは主を見つけたー状態で、ぶんぶん尻尾を振っている。

〈うん? セクメト何か申したか?〉

〈いいえ。それと今は私、フレイヤと名乗っているの〉


〈その名前。上位神族の名前じゃろ、本人が来た時に怒られるぞ〉

〈まあその時はその時で。これから主のペット枠同士よろしくにゃ〉

〈ペット? とは〉

〈気にするな。主に仕えるなら、この世界ではそれが便利なのよ〉

〈そうか。それならば、その枠でいい〉


〈話はまとまったのか? やばそうな単語とかが出ていたけれど……〉

〈ああ主には、また機会があれば説明する〉


「じゃあ、上に帰るか。クリスタルは…… 芳雄。あのクリスタル持ってきて、お前が持っていろ」

「あっ、はい」

 走っていく芳雄。


 クリスタルをつかみ「うわぁぁ」と声が上がる。そうだよな。

「社長、頭にいろんな情報が、これ、なんですか?」

 なんだかげっそりしているな。なんでそんなになるんだ?

「家に帰ったら教えてやる。一翔には内緒にしとけ、次はあいつに取らすから。その方が楽しそうだろう」

 こそっと、芳雄に命令する。

「そうですね」

「もう亜空間収納が使えるだろう、その中にクリスタルは入れておけ」

「おおっ。使えます」


「よしそれじゃあ、帰ろう」


 外へ出て、ダンジョンを閉じる。

 天を仰ぎ、俺はつぶやく。

「ああ、これですでに5つか……」

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