第10話 伝説のやばい物(ブツ)
「すみません、まだ入荷待ちです」
と謝りながら、頭を下げる。
もう今朝から何回お詫びをしたのか判らない。
当然、入荷待ち。しばらくお待ち下さいと札は掛けている。
先程は、神崎さんに納品を催促の電話をしていると、お客さんがちょうどやって来た。それを知らせるために、隣の子が私の体をゆすり、椅子から転がり落ちそうになった。
その時、私は変な声上げてしまい、電話の向こうで、神崎さんもびっくりしていたみたい。電話を切られたけど大丈夫よね。
しばらくすると、女の方だと思うけど。フードを目深に被り、キョロキョロしながらこちらに近づいてくる。
少し大きめの黒いカバンを大事そうに抱えて近づいてくる……。
すごい怪しいけれど、一応対応をする。
「あの、まだ入荷待ちでして……」
「わかっています、これを」
と差し出してきた手には、一枚の紙……。半分に折られた紙を恐る恐る開くと…… 納品書の文字。
「きゃぁーあっ」
叫んだ後、慌てて自分の口をふさぐ。だが時は遅く、周りに人が集まってきた…… マズイわ。早くしなければ。叫んでしまったのは、おのれの不覚。
「ブツを…… ブツを早く……」
黒いカバンを受け取り、内容を確認する。
先ほどの折られた紙に、書かれた数字は120個。
10個入りの箱が12個。
無作為に取り出し箱の中身を数える…… 10個あります。
「こちらに、受け取りの……いっ印鑑を」
「ここね」
ヒソヒソと、でも素早く受け取り、作業を済ませた。
受領書に判をつくと、彼女はあわてて、それでも素早く離れていった。
周りには、何かを期待した瞳があふれている。
奇妙なプレッシャーが、周辺に充満している。
これは駄目だ。
私は、静かに入荷待ちの札を片付ける……。
それを見て周りから、どよめきが上がる。
同時にカウンターの目の前に、突然列が出来上がる。
「お一人様1個です。友人の分とか購入はだめです。本人確認も必要なので、必ず本人が並んでください。個数は120個です」
事の始まりは先週。
突然、環境政策課の課長で高梨さんが持ち込んだ物。
商品名『魔道具個人用バリア。魔法の世界から女性に優しいお届け物。モンスターも痴漢も近づけません。中からは攻撃可能。ほぼ10回使用可能なお得バージョン』と言う物。
怪しい商品で効果も定かではないが、その日のうちに女の子を中心に持ち込まれた10個は完売。
次の日からは、口コミで広がったのか、ダンジョンで活動をしている人たちが買いに来始めた。
さらに痴漢対策にライセンス登録してまで購入する人が増加。その後は、運転手さんとか工事現場で働いている人とかまで登録と購入をし始めた。
「役所として販売の手数料は、10%もらえる事となっている」
と高梨さんが言っていた。
売上を考えると、私個人のお店じゃないのが悔しい。
一個1万円なのでお釣りは必要なく、販売はスピーディ。2~3分で販売終了。
そしてまた、お詫びの長い時間が始まる……。
「お疲れ」
帰ってきた美月に、言葉をかける……
納品しても、絶賛作成中だ……。 終わることのない作業。そうだ工場を作ろう。
求む錬金術師とか…… 魔道具作れるなら、自分で作って売ったほうが良いよな。
なあフレイヤ、魔道具を作る魔道具って作れないか?
〈あっそうだにゃ、ダンジョンへ入って〉
いい加減フレイヤも限界だったのか、動きはスピーディだった。
〈ここなら魔素濃度が高いから、クリエイトゴーレム〉
〈こっちに魔石、こっちに金属[今は真鍮を使用]実行〉
左手? に真鍮のブロックを握り込んだ手だけのゴーレム、見た目はまるで宇宙怪獣ジャ○ラのようだ。だが、魔石を右手に持ち、握り込んで再び手を開くと魔道具が出来ている。
出来上がったブツを一つつまみ上げ、動作確認のため実行してみる。 使える、解除、実行……。
11回、俺より上手に作成できる。
〈なあ、フレイヤこいつの餌は?〉
〈一日、魔石3個くらいかな?〉
〈おお素晴らしい〉
脇に大量の真鍮と魔石を積んで、その横に箱詰めするゴーレムも作った。
これで、箱に入っている個数の確認をして納品するだけだ。楽になると思わず包装用のOPPの袋を買いそうになったがぐっと我慢して、これは消耗品と割り切る。
1分間に5~6個。魔石の種類によって魔法の通りが多少違うようだが、これで一日7千から8千個作れるはず。
ちょっとお茶をして、フレイヤをウニョウニョしていると1000個出来たので納品に行く。
カウンターに近づいていくと、
「すみません、まだ入荷待ちです」
と謝りながら、頭を下げて来る。
「いやこれを」
と、納品書を見せる。
見た瞬間一瞬喜んだが、すぐ怪訝そうな顔をして、
「すいませんが、タグ見せてもらえます?」
と言ってきた。
「はい」
と言って、見せると、
「本物ですね……」
と思案している……。
「ああ、作成用のゴーレム作ったので、スピードが上がったんです。中の物を適当に抜いて試してもらっていいですよ」
「本当ですか?」
「ええ、どうぞ」
立ち上がって…… 実行したんだろう、外から見るとパントマイムだ。
「……」
「なんですか?」
指をバリアの境界付近に持っていき指差しながら、なにかパクパクしている……
近づけば聞こえるかと思い、耳を寄せようかとしたその瞬間。額のあたりにスパークが走り、嫌な予感が脳裏をよぎる。その場から慌てて身を引くと、わたし窓口のゆかちゃんこと、冬月ゆかさんが、人にキスしようと近づいてきていた。 間一髪で慌てて身を躱す。
「ちっ、もう少しだったのに」
一応くぎを刺す。
「ああ一応、婚約者も居るのでやめてもらえます? 下手になにかあると、俺が社会的にやばくなりそうなので」
「検品大丈夫そうなら、帰ります、後ろがすごいので……」
なんか睨まれているんだよな、さっきの見られたか。
「とりあえず、ハンコください」
「チッチッチッ」
と舌打ちを連打しながらも、受領証にハンコはくれた。
「それじゃあまた」
と言ってそそくさと帰る。
彼女は、今後要注意人物として、マークしておこう。
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