第3話 救出と恐怖の日々の終わり……

 自分の力に首をひねりながら、ドカッ、グシャ、と軽快な? 音を響かせて、8階に向かっていると、ふと嫌な予感がする。

 体の周辺の空間を切り取り、更にバリアを体の周りに展開する……。


 なにかの力が周辺を吹き抜けた後、壁に手を付きダンジョンの状態を見ると7階に存在していたモンスターが消滅していた……。

 あの嫌な予感は、フレイヤの死の神言だったようだ。


 意識を集中し、フレイヤの居場所を探し出してゲートを開く。すぐ目の前を、魔石を求めて走り抜けていくフレイヤ。その首根っこを素早くつかむ。

 殺気を全開にしながら問いかける。

〈なあ、フレイヤさん。俺がいることを知っていて、神言使ったよね。ねっ?〉


〈いっ嫌だなぁ、まだ7階にいるのに、気が付かなかったよ。よく無事だったよね。 私の力は耐魔法とかのシールドじゃ透過するのに……〉


〈そうか、それじゃあ意図的に俺を殺しに来たんだな…… さて、これは適当に空間接続したゲートだから、どこに行くか知らんが入ってみるか? フレイヤ短い間だったが楽しかったよ。さよならだな〉


 フレイヤの足元に、黒い渦が広がっていく……


〈やだにゃ、私がそんな事。するわけないじゃないか……〉

 ガクブルして、目が泳いでいる。


〈魔素で構成されていても息ができないとだめだし、高温とか低温とかもそこそこしか耐えられない。上品で…… 非常にデリケートな体だから、どこかわからないところはちょっと…… 行きたくないにゃ〉


〈何がにゃだよ、普段そんな事言わねえじゃないか〉


 一瞬だけ、手を離す…… 落下寸前に首を掴み直すと、フレイヤは黒猫なのに青い顔をして滝のような汗を流していた……。


〈動物虐待にゃ、役所に訴えるにゃ〉

〈役所に行って、念話使った瞬間にモンスターだとバレるぞ……〉

〈手紙を書けば良い〉

〈担当者の目の前で、亜空間収納から手紙を出して渡すのか?〉


〈ここにょ世界は魔物に優しくない。待遇改善を要望する〉

〈勝手にお前たちが、来たんだよな?〉


〈ううっ。ああ言えばこう言う。口の減らないやつにゃ〉

〈根本的なものが、間違っている。人がいるのに神言をお前が使った。神言は受ければ死ぬ、間違ってないな?〉


 じたばたしながら、逃げられないフレイヤ。

〈死んでないじゃない〉

 さらに言い訳をする。


〈それは結果論だ。それならこのゲートに入って、帰ってこられるのか試すのもいいっていうことだな?〉

〈ええと、すいませんでした〉

 やっと謝る。

〈なんで、それが一番最初に出ないんだ、おまえは……いくぞ〉



 フレイヤさんは驚いていた。結構本気で。あちゃー、まだ7階に居たのは誤算だけれど、私の言葉を受けて生きている…… いくらなんでも異常だ…… もし、この物質世界の特性だとしたら、私たちは絶対勝てないこととなってしまう。未来は動物園の檻の中は嫌だよ。まあわたしはペットのポジションがあるから安泰だけど、他の奴らは消滅か動物園かどうなるかな?


「さてと、8階かどこかな? 要救助者は確か左側に…… この階迷路かよ……。 一旦9階に降りる階段の脇を通って、ラーメンどんぶりの模様の渦みたいなのに入って、途中の分岐を右ね。

これって、9階から降りてきて、道を間違えたんだろうね。まあ行くか。先に9階かな?」


 ボコ、グシャしながら、剣や魔法を使ってくるオーガを蹴散らし進んでいく。体つきはオークより少し大きく筋肉もモリモリだが、遅いし弱い……。


 ちょっと9階に降りてみる。

スキャンすると、ここにいる要救助者はそんなに奥じゃない。

先に迎えに行くか。


 てくてくと100mくらい進み、途中で3回位分岐を進むと、ちょっとくぼんだ所に警官二人が絶賛警戒中で、こっちに銃口を突きつけられた。

手を上げながら近づくと、銃をおろして泣きながら走ってきた。……元気じゃん。


「他には居ないんですよね」

 と聞くと、

「2日前に一人、同僚が殺されてしまった」

 と返事が来た。


「それはお気の毒ですが、帰りますよ」

 と言って8階をめざす。


 8階の階段を上がりながら、後ろをついてくる警官に、

「ちょっと要救助者だと思うので、救出に向かいますがここに居ます? それとも付いてきます?」

「「付いていきます」」


 なんか、すごい顔で返事された。怖いよ。



〈フレイヤ、後ろ見といて〉

〈ほーい〉


 みんなを連れて、渦巻きを進む。

「えーとここを右か」


 ちょっと進むと、少し道幅が狭くなりどん詰まり。うーん怖くて動けなかったんだろうけど、色々臭うな……。


「生きてるかい?」


 うつろな目をした4人。5日目だったっけ? 高校生か大学生。その辺りの歳だろう。亜空間収納からスポーツ飲料水を出し、

「飲める?」

 と渡すと、この状態でも、けなげに分け合おうとしていたので、人数分出す。


「ちょっと脚を見せて」

 と、怪我をしている女の子が目に入り、声をかける。

 了解を得てズボンの裾をめくる。血は止まっているようだが、化膿をしてきている。浄化魔法と神聖魔法で治療をする。

 ついでに、4人共浄化する。



 少し落ちついたのか、少し広い方へ移動して携帯用バーナーを出して湯を沸かす、

「どれが良いですか?」

 最初の混乱時にあわてて買い込んだ、レトルトのリゾットとかを取り出す。するとみんなの目つきが変わった。

「まだまだあるから、遠慮しないでね」

 と俺が言うと、頷く元気は有るようだ。


 大学生たちは非常食などを一応は持ってはいたが、量が少なく、ちびちびと分け合いながら過ごしていた。警官の方は、この2日間、水も飲めずギリギリだったようだ。


 少し落ち着いたのか、弛緩した空気の流れる中。当然。空気を読まずモンスターはやってくる。


 物音に気が付き、全員が慌てて振り返り目を見開く……。


 そう、剣を持ったオーガが、フレイヤの猫パンチを額に受けて消滅していく……。


 俺は状態が分かっていたが、さらっと流す。

「どうしました? 温まったので、これもどうぞ。えーとスプーンはどこだっけ?」


 要共助者の女の子。

「いい今、猫が……」

「ああ、うちのフレイヤ強いでしょ。でもマネして、普通のねこに戦闘の無理強いはしちゃだめですよ。リゾットどうぞ」

 私がそう言っても、あくまでも、さらっと流す男の人。


「ありがとうございます」

 私は、お礼を言いながら、熱々のリゾットを受け取る。

 その非常識な場に居た私達……。

 きっとその場にいた全員が、大いなる無力感にさいなまれていたのは、私の勘違ではないだろう……。

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