ナリーの事情②
まるで何事もなかったかのように元通りになった店の中に通されたフェルドとラトラスはカウンターの席に座る。
「なにか食べるかい?」
「ジュースだけでいいよ」
「昨日食べたのと同じパスタとサラダとライス」
次々と頼むフェルドにラトラスは苦虫をかんだような顔をするが、ナリーのほうは食欲旺盛だと笑うだけだった。
しばらくすると出来立てのご飯が運ばれてくる。
すべての料理を運び終えたナリーはフェルドたちのいる席へと腰かける。そのころにはファルドはムシャムシャと料理を食べ始めていた。
「モグモグ。話聞かせてもらうモグモグ」
「はい。どこから話そうかしら?」
「過去のモグモグ、妖魔の暴走についてモグモグ」
「フェルド。食べるかしゃべるかのどっちかにしたほうが……」
「気にするなモグモグモグ」
「構わないさ。とりあえず話を進めるよ」
そういってナリーは話し始める。
ことの始まりは魔王が封印されてからしばらくたってからである。魔王の強大な力は各地に散らばっていき、それによって引き起こされる事件が多発していた。のちに“魔王の残党”とよばれる存在に対処したのが、魔王と戦ったティラシェイド王子たちとアメシスト王国の魔法騎士団たちだった。フロンティアも例外ではない。妖魔たちが襲来したのだ。
人々はなぜ魔王が倒れたのに妖魔たちが暴れるのかと不安を抱いたのはいうまでもない。
その不安を払拭するためにも騎士団は妖魔を排除していった。その事件はほどなく解決することになる。
だが、実際には終わらなかった。
数年に一度は妖魔が出現し、人を襲うという事件が起こるのだ。それもフロンティアの魔法騎士団により対処できるレベルであったためにとくに国への援助要請はしてこなかった。
ただそれを繰り返すうちになぜか妖魔のターゲットがミニル学園の生徒へと移り変わっていった。その理由はわからない。とにかく、ミニル学園の生徒なのだ。
「この店が襲われるわけってモグモグ、ミニル学園の生徒が集まるからってことなのか?モグモグ」
「それもあるわ」
「ほかにも? パクっ! モグモグ」
「さっきもいったように私は元々このフロンティアの魔法騎士団だったのよ。だから妖魔退治もしてきたわ」
「要するに妖魔たちが仲間を倒されたことを恨んで襲っていると」
「その可能性があるんだよ」
「でも、返り討ちにしたんだろう? 」
フェルドは食事を終えてフォークを皿の上におく。
「まあね。だが、いつもあんな感じになる。街の連中もまたかとあきれるばかりなんだよ。もうすっかり慣れちまった。だけどねえ。さっきの襲来はちょっとわけがちがった」
「わけがちがう?」
「ちょいと苦戦しちまったんだよ。あんなに苦戦したのは久しぶりだねえ」
そういいながら腕を捲る。そこには包帯が巻かれている。おそらく、さっき巻いたのだろう。
「ついでに仕留め損ねたのさ。もしかしたらクライシスが発動しちまったということになるのかねえ。もしそうなら私が仕留め損なったのも致し方ないことさ」
「どうだろうなあ」
「違うのかい?」
「そこは調査中。それよりもおかわりくれよ」
フェルドはそういいながら空になった皿をナリーに差し出した。
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