エピローグ

 怒鳴り合いながら餃子を勢いよく食べきったゆなちゃんとひーちゃんは、互いの体力的な安全のため、といったん休戦し、寝室に向かいました。

 セミダブルのベッドに並んで横になると、ひーちゃんがくすくすと笑い出しました。


「何笑ってんの?」


 ゆなちゃんは未だぷんすかした声音でしたが、いかんせん怒鳴り合いが長丁場でしたので、疲労が見えていました。


「だって……、面白いんだもん」

「はぁ?!」


 思わず身を起こすと、ひーちゃんはいつもの柔らかい笑顔を浮かべていました。


「ゆなちゃん、確かに僕は人より色々混ぜちゃうのかもしれない。『って、ゆなちゃんに気づかされた。でもね、僕の中にも、絶対に混ざらないものがあるんだ」


 その声は、いつもと同じ、穏やかで優しいひーちゃんの暖かさを持っていました。ゆなちゃんはそれに心をほぐされるように、


「混ざらないもの?」


 と、聞き返しました。


「うん、ゆなちゃんへの愛だよ。こんな大喧嘩して、さらに確信しちゃった。あんなにぶち切れたゆなちゃんを見ても、あ、ゆなちゃんホントはこういうしゃべり方するんだぁ、とか、知れて嬉しかったし、嫌なこともいっぱい言われたけど、それでも、じゃあ別れようなんて気持ちは微塵も出てこないんだよ。僕は本当に、心の底からゆなちゃんが大好きで、こんな些細なことで終わるような関係じゃないんだって、今回の件で再認したよ」


「ひーちゃん……」


「まあ、これは僕が勝手に思ってることだから、ゆなちゃんがまだ怒ってたらどうしようもないけど——」


「わ、私もなんかすっきりした!」


 ゆなちゃんは大声でそう言いました。


「さっきも散々言ったけど、『普通』ってひーちゃんに言われてたから、ひーちゃんの混ぜ混ぜっぷりが正しくて、家事ができない私が間違ってるんだって思ってたんだけど、それって多分、コンプレックスっていうか、劣等感みたいなもので、そいつらが『ひーちゃんが正しい』っていう考えを肥大させてたんだと思うの。で、でもね、さっき思ってたことを全部言ってみたら、私もなんか、リフレッシュできたっていうか、すっきりしたの。ずっと溜め込んでたものを吐き出せて、ひーちゃんはそれをちゃんと受け止めてくれて、まして、私あんな酷いこと言ったのに、それでも好きって言ってくれるなんて、私感動しちゃって——」


 ゆなちゃんが顔を真っ赤にして言うと、ひーちゃんはゆなちゃんを軽く抱きしめました。


「これからは、お互い言いたいこととかを溜め込まないようにしようね。今回は良い教訓になった。これから先、混ぜ混ぜだけじゃなくて、色んなことが僕らを待ってると思う。でも僕たちは夫婦だ。二人で乗り越えていくためには、やっぱり溜め込んじゃダメだね」

「うん、ちゃんと言い合っていこうね」

「じゃあ僕キッチン行って、牛乳とジンジャエール割って飲む」

「私も行く。芋焼酎と午後ティーミルク割って飲む」


「え?」


                             【了】



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