女子ふたりの知られざる気持ち 1


『僕には、大好きな人がいます。それは、ファンのみんなです。そして、僕の彼女です』


 その突然の推しの発言は、前半大好きであろうファンを高揚させておいて、後半大好きであろうファンを一気に奈落の底へと突き落とした。

 本題に入る前にファンへの愛をクッション代わりとし、実は自分の彼女のことを強調したいのが見え見えでえてしまった。

 けれども、彼は大好きなファンに隠すことなく彼女の存在を報告した。

 怒りに任せ突っ込みたいところではあるけれど、ファンに自ら報告しただけでも賞賛に値すると思った。

 いろんな感情が入り混じり、正直混乱しまくっていて一丁前に葛藤してはいる。

 感情の答えを説明できないでいると、大好きなヨリリンはこんなことを言った。


「来夢はどっちなの?…葛藤中なんでしょ?好きな推しに彼女がいるって知った瞬間、一瞬でも萎えるに決まってるから」


 完全に見透かされていた。やんわりと嫌味なくさとすその口調に腹が立った。

 自分の気持ちがいろいろと厄介で嫌気がさす。なのに、さらにヨリリンはこんなことを言った。

「恋してるって可愛いね。私には縁がないや」

 その言葉を受け、ヨリリンに嫉妬心に似た厄介な気持ちを抱いた結果、口を尖らせ、通じることのない妥当なセリフを言って退ける。

「まったく…。他人のことはよくわかるくせに、自分のことになれば無知なんだからぁ!その気になれば縁があるのに本当可哀想な子だよねぇ。ヨリリンって!」

 本当に可哀想な子。そんな風に思っていた。

 このまま単に可哀想だと思えば、優越感に浸れるのに…。

 ヨリリンが可愛くて愛おしくて、すぐ私がデレてしまうから本当に厄介すぎる。

 上げて落とされる気満々の薄ら笑みを浮かべた余裕ある表情ができるのは、一体どうしてなの?

 私が大好きな友達のヨリリンは、本当に可哀想な子なのにーー。

 だったら、私がヨリリンに少しでも幸福感を与えれたらいいんだ。

 どんなに報われない未来が待ち受けていても、私だけでも味方でいれたらそれで良くない?簡単な話じゃん!

 善と悪の感情を持ち合わせた自分が、時々恐ろしかった。


 私がヨリリンに土曜日のお誘いをする前日、放課後のこと。

 まだガヤガヤと騒がしいうちのクラスに颯爽と現れた推し友・ミコト。

 そんな彼から真剣な眼差しを向けられ、何事かと思いつつ紡ぐ声を待つ。

 ニコッと愛らしい笑みを見せて私の気を一瞬緩ませた途端だった。


「いよいよ明日、決行しよう」


 ミコトは変わらず”天使の笑み”のままなのに、その言葉を聞いた途端、反射的に身が引き締まる。

 かねてから計画していたあるプロジェクトの決行日が、翌日に決定した。

 碧には秘密があるーー。

 それは、ミコトが誰にも内緒と言って私に教えてくれたことだから、他言は許されない。

 だけど、心の中でなら他言ではないとし、吐露しても許されるだろう。

 碧は、METEORと深い関係のある人物であり、METEORにとってなくてはならない存在らしい。

 私は碧のことをがれている存在として見ているのではなく、憧れの気持ちをいだいていた。


 翌日、碧への憧れの気持ちが強いあまり、依とともに初対面を果たした私は、至近距離で碧をおがみ、声を失った。

 透明感とはかなさをまとった美しい人間を、こんなにも間近で見たことがなかったからかもしれない。

 憧れていた対象に会うということは、得てしてこういうことなのだろう。

 とうとう話すチャンスが訪れたというのに、私は感極まって思いにふけり、未だに声を失ったまま、碧を見入っていた。

 私の様子がおかしいことを悟って心配そうに聞いてくる依にさえ、私は重要なことを告げられないのだ。

 きっと理解に苦しむだろうし、言っても仕方がないから。

 今、ミコトと話す依を見て思うこと、それはーー。

 この子は一生大切な人を見誤って生きていく運命なのかもしれないということ。

 すべてを知っている私だからこそ、こんなにも辛辣しんらつな思いを秘めているのかもしれない。

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