第30話 お尻の違和感
「つまりだ。モエはクルーンを猫獣人と女じゃない穴を通過してきちまってそうなった、と」
祭壇の部屋には今は3人だけである。おばあはこの口の悪いすっ裸なエルフ少女に着せる服を探しに出ている。
「で、フィナはなんとなくエルフで女のところを通過してきたと」
「そういうことね。あとのクルーンの内容はさっぱりだったけど、真ん中なら無難なのかなって。そこは2人とも同じ穴よ」
現状をまとめている少女おじさんは「なるほどな」と頷く。
「それで一緒に通過した俺もエルフ少女ってわけか」
どういう計算がなされたのか、腕だけで別種族へと生まれ変わった扱いの元グールはフィナ曰くおおよそ7、8歳だという。
背丈はちょうど100cmほどで、長い金髪に尖った耳、大きな二重の目は少女そのものであり、羞恥など知らぬかのように堂々とその裸体をさらしている。
「まだ戸惑いが無くならねえ。お前たちと同じで記憶を引き継いで今この姿な俺に少しは配慮してくれよ?」
「モエは耳が生えちゃったのですぅ」
「なんだかわたしだけ普通で悪いわね。ていうかモエは耳だけなの?もしかしてさ、ほら……」
フィナは座っているモエを四つん這いの体勢にしてその可愛いお尻をスリスリと撫でてみる。
「ひゃんっ⁉︎」
「や、やっぱり……なんで自分で気づかないかなあ?」
フィナが撫でたちょうど割れ目のあたりに長く“し”の字に窮屈に丸まっている例のアレを見つける。
「モ、モエはいよいよ獣人なのですぅ」
四つん這いの体勢のままに背中側からズボンに手を入れたモエはその長いしっぽを外に出して解放してやった。
「ちょっと反則なくらいに可愛いじゃないの」
「ああ、こりゃ下手にその辺をひとりでうろつかせたら危ないやつだな」
フィナがそうさせたわけだが、今のモエの体勢に仕草が2人にはドストライクらしい。
「これでよし、と」
モエのしっぽの位置を確かめたフィナがズボンに穴を開けてしっぽを通せばゆらゆらと揺れて自在に動くことを確認できた。
「どう?ちゃんと立てる?」
獣人はヒューマンとは身体のつくりが違う。
しっぽでバランスを取るようになれば自ずと違和感が出てくるはずである。
「何だかさっきまでより立ちやすいのですよ」
「違和感あったなら早く言いなさいよ」
ここまでモエは真っ直ぐに立つことが難しいなと感じてはいたものの、クルーンを通過したあとに1階層に現れたあたりが影響しているのかと、大して気にしていなかった。
「でも今はもうとっても動きやすいのですよ。どんな姿勢でも出来そうな感じがするのですっ」
ぴょんぴょんとその場で跳んだりして身体の調子を確かめるモエは目の前しか見えていない。
「はい、お待たせよ」
「にゃっ⁉︎」
そんなやり取りをしているとモエの後ろから服を手にしたおばあが現れて声をかける。
「おやおや、驚かせたねぇ」
「はっはぁっ。まさに猫獣人だな」
驚いたモエはヒューマンの時には考えられない俊敏さで飛び上がってあっという間に壁の高いところまで退避している。
「いや、あの子にそんな身体能力与えたらどうなるか……今から怖いわよ」
そうでなくとも鉄球の威力に内心恐れるものがあるというのに明らかに付け足された身体能力に、やはりモエは敵に回さないと固く誓うフィナであった。
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