第10話 攻略の腕前は強さだけでもないから、な
モエたちは素直に18階層へとやってきた。
スキンヘッドの職員が言う攻略とは、その階層の奥にいる階層主を討伐して次へと進むことだ。
ポータル自体は49階層まで解放されていて、誰でも移動できるのだからそんな事に意味はないと思われがちだが、階層主の素材の持ち込みは記録されていて、自己申告ながらも討伐時のパーティもその記録に残る。
「つまり、2人パーティでそいつらを倒せる実力があることを示せってことよね」
フィナは大きな湖を中心とした階層でそのほとりに立ち湖面を眺めている。
「そうなのです。モエたちならやれるのですよ、きっと」
おそらくは大丈夫だろうとフィナも感じてはいるが、少し面倒だなとも思っている。
ひとつの階層の広さ自体が馬鹿にならない面積を誇り、ポータルから階層主までの距離は殆どが端から端までだ。
野宿を繰り返して過ごした日々を思い返してまたそれをやり直すことに、それではいけないと思いつつもため息がでてしまう。
湖の周辺は背の高い草が多く、道らしい道もない。
原野というべき様相のフィールドであるが、ここで出てくる魔物は馬だけだ。
それも基本的に単体で、たまにつがいで出てくる程度。
もしここで出てくるのが殺傷能力の高い小動物やヘビなどであれば簡単にピンチにも陥るかも知れないが、遠目にも分かるこの魔物に遅れをとることはない。
「つまり、ほとんど階層主までのハイキングでしかないのよね」
よく斬れる剣はため息混じりにも馬の首を落としてしまった。
「ここに初めて来た時は大きな馬に悪戦苦闘したのです」
そういうモエはその鉄球を胴体にめりこませることで馬を瀕死に追いやり、それを今しがたフィナが剣で斬り落としたのだ。
「それが今ではモエだってやれるのですよ」
そういう訳でフィナからしたらモエのおかげでこの階層は更にヌルゲーと化していた。
「それで携帯ポータルを使って小刻みに進めたわけだ」
「そうよ。稼ぎなんて全然残らないけど今回はそれでいいのよ」
携帯ポータルは攻略済みの階層に限るとはいえ、最後に使ったポータルまでどこからでも転送してくれる便利アイテムである。
さらに携帯ポータルを使った場所を座標としてひとつ記憶してくれるので、階層設置のポータルと併せて同じポイントに戻ることが可能な優れものだ。
その本体自体は多く産出されていて貴重でもないが、充填するエネルギーをポータルから抽出するのに行き先に応じて変動する金額を支払わなければならない。
充填する金額は低階層では微々たるものだが、2桁階層からは馬鹿にならない。
コミュニティに戻れば美味い飯に安心できるベッド、シャワーなんかもあるから使いたくもなるが稼ぎの殆どを失ってまでしたいかと言えば大抵の人が躊躇うものだ。
2人はさっき階層主の巨馬を換金したばかりだ。
その記録はしっかりと残りやっとの思いで18階層を終えられた今日は始めた頃から4週間が経過している。
「まあ、実力を示すという点においてはいいんだろうな。道中ずっと2人でなら毎日コミュニティに帰還するのも安全の確保という点からしても良い判断だろう。攻略のためなら出費もやむなし──この調子で越えてくるといい。無理はするな、焦ることもない」
スキンヘッドの反応は上々だ。
フィナとモエは新たに確保してある相部屋に戻り明日からの19階層に備えることにした。
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