変化とは、常に勇気を必要とするもの。――11

『グゥ……ォオオオオ……』


 壁にめり込んでいたハンマーオークが、ひざをガクガクとさせながらもなんとか立ち上がる。


 見るからにいっぱいいっぱいな様子のハンマーオークに、それでも英雄願望のトナカイは容赦しなかった。


 ガッ! ガッ! とひづめで地面を蹴り、暴走トラックのようなスピードでハンマーオークに突進する。


 二本角が再びハンマーオークに突き込まれた。


 それだけに留まらない。英雄願望のトナカイは二本角を振り回し、ハンマーオークにラッシュをかけた。


 一発ごとに、ズドンッ! ズドンッ! とパイルバンカーが打ち込まれたような轟音ごうおんがして、広間の天井からパラパラと石の破片はへんが降ってくる。


 ハンマーオークはろくな反撃もできず、めった刺しにされていた。


 一方的な展開すぎて申し訳なくなってきたなあ……。


 ついつい俺は、ハンマーオークに同情してしまいそうになる。


 そのときだった。


『グゥォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』


「調子に乗るな!!」とばかりに叫び、ハンマーオーク英雄願望のトナカイに鉄槌を振るった。


 ハンマーオークの意地の反撃を、しかし、英雄願望のトナカイはひらりとかわす。


 ハンマーオークの反撃はむなしくも空振りに終わり、鉄槌はただ、地面を叩き砕いただけだった。


 だが、ハンマーオークの意地は幸運をたぐり寄せる。


 鉄槌に砕かれた石片が散弾さんだんのように飛び散り、英雄願望のトナカイの背後にいた八体のカカシに直撃したのだ。


 カカシのステータスは、HPが5、それ以外はオール1。超貧弱ステータスでは石つぶてでさえ致命傷だったらしく、八体のカカシが消滅した。


 俺はハッとする。


「これは……流れが変わるな」


 俺がまゆをひそめるなか、英雄願望のトナカイが再びハンマーオークに接近し、二本の角を突き込んだ。


 巨体がぐらりとかたむくが――


『グウゥオオオオオオオオオオッ!』


 ハンマーオークは倒れることなく踏みとどまり、英雄願望のトナカイに反撃の鉄槌を見舞みまった。


 鉄槌に殴られて、英雄願望のトナカイが後退る。


 ハンマーオークにとって、この戦闘で初となるクリーンヒット。そのクリーンヒットに戸惑ったのは、英雄願望のトナカイでなくハンマーオーク自身だった。


『グウゥゥ?』


 英雄願望のトナカイがあまりに強すぎたためだろう。自分の反撃が当たるとは思っていなかったらしい。


 英雄願望のトナカイが体勢を立て直し、三度みたびハンマーオークに挑む。ハンマーオークも迎え撃ち、二体の壮絶そうぜつな攻防がはじまった。


 先ほどは一方的な展開だったが、現在は七:三で英雄願望のトナカイが優勢。いまだ劣勢だが、ハンマーオークも戦えている状況だ。


 英雄願望のトナカイの二本角と、ハンマーオークの鉄槌がぶつかり、反動で二体の体が後退る。


 両者の距離がいたそのとき、ハンマーオークの視線が英雄願望のトナカイの背後にひかえるカカシたちに向いた。


 ハンマーオークが目を見開き、「なるほど、そういうことか」と言うように口端くちはしを上げる。


 ハンマーオークが、野球のバッターのように鉄槌を構えた。


『グウゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』


 フルスイングするとともに、ハンマーオークが鉄槌のから手を放す。


 ハンマーオークの鉄槌は巨大なブーメランとなり、一直線にカカシたちのもとへ飛んでいった。


 直撃。


 轟音ごうおん


 ハンマーオークの鉄槌が地面を爆散ばくさんさせて、カカシたちが吹き飛んだ。


 カカシたちがひとつ残らず消滅する。


 同時、ムキムキマッチョだった、英雄願望のトナカイの体がしぼんでいく。威風堂々いふうどうどうとした巨体は見る影もなく、英雄願望のトナカイは、ヒョロヒョロな貧相ひんそうボディーに戻ってしまった。


 先ほど八体のカカシが消滅した際、英雄願望のトナカイはパワーダウンした。そのことでハンマーオークは、英雄願望のトナカイの強さの秘密に気づいたのだろう。


『グウゥオオオオオオオオオオッ!』


 ハンマーオークが英雄願望のトナカイに迫り、豪腕ごうわんを振るう。


 HPが5以下のクリーチャーが並べば強いけど、英雄願望のトナカイは本来ほんらい貧弱。ハンマーオークに殴られた英雄願望のトナカイは、『ルオォォ……』と弱々しい鳴き声を漏らし、白い煙になって消えた。

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