変化とは、常に勇気を必要とするもの。――9

 その後も俺は、モンスターを倒しながらダンジョンを進んだ。


 コンボで使ったときのカードの効果はすさまじく、遭遇そうぐうしたモンスターはすべて呆気あっけないくらい簡単に倒すことができた。いままで怖がっていたのが馬鹿ばからしくなるくらいの快勝っぷりだ。


 そして二時間後、ついに俺は、ロードモンスターがいる最奥さいおうにたどり着いた。


 Eランクダンジョンの最奥は、円形の広間になっていた。


 ここにいるロードモンスターを倒せばダンジョン攻略は成功。ゲートをくぐって外に出れば、めでたくダンジョンは消滅することになる。


 広間の入り口からそっと顔を覗かせて、俺はロードモンスターを確認する。


 広間の中央にいたのは、ずんぐりむっくりとした、二メートルほどの巨体だ。


 豚に似た顔。鈍色にびいろの肌。手にしているのは巨大な鉄槌てっつい


 俺は顔をしかめた。


「『ハンマーオーク』か……厄介やっかいな相手だな」


 ハンマーオークは、攻撃力と防御力が高く、魔法力、魔法耐性、敏捷性が低い、いわゆる重戦士系のモンスターだ。


 魔法耐性が低いため魔法で大ダメージを与えられるわけだが、とあるスキルを持っているため、ハンマーオークに魔法を放つ際は細心さいしんの注意を払わなくてはならない。


 ハンマーオークが持っているスキルは『打ち返し』。その効果は、『鉄槌で殴った魔法を跳ね返す』というもの。


 弱点だからと不用意に魔法を放つと、打ち返しで反射されて、逆にこちらが痛手いたでう羽目になるわけだ。


 そのため、ハンマーオークとの戦闘において大切なのは、『いかにして打ち返しを使えない状況を作り、魔法を当てるか』になる。


 前衛ぜんえいの物理アタッカーが打ち返しを使えない状況を作り、後衛こうえいの魔法アタッカーが魔法で仕留しとめるという流れが、ハンマーオークと戦う際のセオリーだ。


 しかし、ソロでダンジョンに挑んだ俺には、打ち返しを使えない状況を作ってくれる仲間がいない。


 だからこそ厄介だった。


「こっちの必殺技は怨恨破だけど、あれは魔法攻撃だ。迂闊うかつに放ったら打ち返しで反射されてしまう。そうなると目も当てられない。一瞬でこちらがおだぶつだ」


 なにかさくを練らないといけない。


 俺はストレージを開き、所持しているカードを確認する。


 ひととおり眺め、俺は一枚のカードに目を留めた。


「……今回はこいつに頼るか」


 戦いのじくとなるカードを決めた俺は、頭のなかで勝利への道筋を組み立てる。


 しばらく考えてから、俺は「うん」と頷いた。


 行ける。この作戦なら行けるはずだ。


 あとは覚悟を決めるだけ。


 俺は合掌がっしょうと深呼吸をして、ルーティンで緊張を鎮める。


 行くぞ、勝地真。人生を変えるための、一世一代いっせいちだいの大勝負だ!


 心のなかで自分を励まし、俺は最奥の広間に踏み入った。


 ハンマーオークが俺の姿を捉える。


『グウゥオオオオオオオオオオオオオオッ!!』


 鉄槌を肩にかつぎ、ハンマーオークがえた。


 ハンマーオークの咆哮ほうこうが広間を震撼しんかんさせる。腹の底にまで響いてくる。


 恐怖ですくみそうになるも、俺は歯を食いしばって耐えた。


 ひるむな! 戦え! 勝つぞ!

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