几帳面な男

(むむっ、3mmズレてるな・・)


私はテレビの前に置いたスピーカーの位置を

念入りに直した。


(よしっ、これでいい。ふぅー落ち着いた。)


この部屋は完璧にしてある。


テレビの脚の角から、

テレビ台の角への距離、それと角度。


椅子はテーブルに対して垂直に、

かつ15.0cmテーブルから離しておく。


床や柱の木目も

ランダムで落ち着かなかったので、

上から無地のシートを貼った。


玄関から見た私の部屋の物たちは

全て真っ直ぐ、垂直に整然と並んでいる。


そして今日届いた立方体のこれを

テーブルの真ん中に置けば・・・

ぁぁああ・・完っっ壁だ!


これは時計だ。

立方体の上面、それから側面に

時間が表示される。

ネットで買った、

聞いた事ない社名の商品で、

説明書の日本語も怪しいような代物だが、

これでよい。

立方体である事が大事なのだ。

もはや半分オブジェとして買っている。

あぁぁ・・美しい・・・・・




次の日、気持ちよく目覚めた私は

トーストを焼きながら既にお気に入りとなった

時計に目をやった。


(うん、美しい立方た・・・・ん?)


少し角度がズレている。

さっき一度テーブルに座った時、

その振動でズレたんだろう。


(うーん、この・・角度で・・よし)


うん、やはりこうでなくては。

私は静観なスウィートホームに別れを

告げながら、仕事に向かった。



・・・・・



(ただいま・・と。)


仕事から帰ってきた私は早速違和感に気付く。


(あれ、まただ、ん〜?)


おかしい。またズレている。

まぁ細かい事は気にしない・・なんて

できないのが私だ。

私はすぐさま説明書を読み直した。

しかし勝手に動く機能などない。

知っている。昨日読破済だ。

だがやはりおかしい・・。


(もしかして地震でもあったのか?)


すぐさま地震情報を調べると、

思った通り、地震があったようだ。


(ふっ、やはりな・・)


私は自分の考えが良く及ぶ事に満足しながら、

落ち着いて角度を直した。


こうも連続だと流石に不安になる。

もやもやしながらも、その日は眠りについた。




翌朝、

いの一番に立方体を見に行く。


「ズレてる!なんで!?」


思わず声が出た。

地震情報を調べる。

無い。地震は無かったようだ。

私の身体を恐怖が満たし始める。


と、その時


「あ、」


地震情報が更新された。

ついさっきの地震だったので、

まだ更新される前だったのだ。


「なんだ・・よかったぁー・・

 ・・てっきり誰か・・あーよかった。」


地震の多いこの国では焦りは禁物である。

私は数秒前の格好悪い自分を揉み消すように

ブラックコーヒーをダンディに飲み干した。

さぁ、今日も仕事に行こう・・



・・・・・



「た、ただいま〜ぁ・・」


誰もいない家に、私の不安そうな声が響く。

あの美しい立方体は、今や恐怖の塊だ。

地震情報はチェック済。

帰路でも揺れを感じていない。


万全の状態で

私は部屋の電気をつけ、

恐る恐る立方体の悪魔に目をやる。


(・・・!?!?)


とにかく警察に電話だ!!

絶対に不法侵入だ!!!

誰かが!!誰かが入ってる!!!






程なくして警官が家に来た。

警官が言う。


「この辺一周しましたけど、

 不審者は見当たらなかったので、

 安心してください。」


そんなの気休めでしかない。

しかし家の中を調べてもらおうにも、

色々ガサガサと雑に漁られそうで・・

・・うーんいや、背に腹はかえられぬ。

調べてもらおう。


「ありがとうございます・・ただ・・その・・

 家の中に隠れてる可能性も

 あると思うんです。

 ちょっと中を調べてもらっても・・」


私は意を決して中を調べてもらった。

そして案の定、

スウィートホームはごちゃごちゃになった。


でもこれで安心だ。

少なくとも今日は安心だ。

私は警官を見送った後、

入念に戸締まりをして、

スウィートホームを

スウィートホームたる状態に戻していく。


(こんなにごちゃごちゃじゃ・・

 ・・夜中までかかるな・・・)


とにかく戻していく。

とにかくとにかく戻していく。


その時


『ガチャ!』


(えっ!?)


音のした方に目をやる


『キュルルルルル!!・・ガチャン・・』


時計が高速で回転した。


(・・・え?)







3001件ある商品レビューに

1件だけこんなものを見つけた。


 ★★★★☆

『昼の12時と夜の12時に、

 急に回転しだします。

 説明書にも書いてないので

 びっくりしました。

 でも面白いので、これはこれでいいかなー』



私は恐怖か怒りかも分からない感情によって

震えた手で、3002件目の星1のレビューを

書き始める。

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