第74話 本編62 証拠(2), 本編63 仲間(1)
雀藤友紀は、はっきりと答えた。
「トランプのカードですよ。今朝、みんなで事務所でやった、あのトランプのカードからです」
今朝、富樫の元女房が営む美容院へ行くと言って出掛けていった梟山と孔雀石は、実はその美容院のすぐ近くにある警察署に向かっていたのだった。彼らはそこで、雀藤から受け取った鳩代の指紋付きのトランプを提出し、二十年前の事件との指紋照合を依頼していたのだ。もちろん、非公式に。
「ちっくしょう。しくじった……」
強く舌打ちした鳩代伶は、髭の下で唇を噛んだ。
雀藤友紀は得意顔で続ける。
「ちなみに、当時は難しかったDNAの検出技術も、今は格段に向上しています。手帳に付着した汗などの分泌物から犯人のDNAを割り出すことができれば、それをあなたのDNA情報と照合することが可能ですよね。覚えていますか、今朝、鵜飼所長があなたから煙草を回収したことを。あれ、あなたが一度口に咥えた煙草ですよね」
鳩代伶は、下を向いて黙ったまま、ゆっくりと立ち上がった。その隣で、雀藤友紀は目を閉じて顎を上げ、勝ち誇った顔で喋り続けている。
「他にも、私が伝えた情報で、今頃、所長がたくさんのDNAサンプル物を回収してくれているはずです。決定的な証拠とは、こういう物のことを言うんですよ。これでもう、言い訳はできなくなり……んぐっ、んんんん!」
鳩代の太い二の腕が雀藤の背後から首の下に回り、彼女の頸部を絞めた。背後から鳩代の声が聞こえる。
「そうか……。そいつは手間を掛けたな。礼と言っちゃ……なんだが……、先に首の骨を折って楽にしてから、下に落としてやろう。その方が落ちても痛くなおっ!」
突如、鳩代伶は前回りで宙を舞い、そのまま床に激しく叩きつけられた。
何が起こったのか分からなかった。正面に天井の蛍光灯が見える。鳩代は顎を上げて上方向を見た。逆様に、ミニスカートから出た脚が見える。赤いダウンベスト、三色のニット帽。
鳩代伶は腰を押さえて身を反転させた。そして「うう……」と短く
転落防止柵から放れている手錠は、雀藤の右手首にぶら下がっている。右手に掛かっている方の手錠の鍵穴にスパロウボールペンを差し込んで動かしながら、彼女は言った。
「私、探偵は十年やっているんです。手錠くらい目をつむっていても外せるんで」
右手首からも手錠を外し、横に放り投げる。スパロウボールペンは大切にベストの内ポケットに仕舞った。
鳩代は腰を押さえながら立ち上がると、鬼の形相で雀藤を睨みつける。
「このアマあ……」
雀藤友紀は泰然としていた。脚を肩幅に開いて立ったまま、落ち着いた声で静かに言う。
「しかも、さっき言いましたよね。私は柔道をやってましたって」
雀藤友紀は、向かってくる鳩代の目をじっと見据えた。
63 仲間
金色のピカ子の車内に阿鷹尊の声が響いた。
「はああ? それ、めちゃくちゃユキさんが危ないじゃないですか。なに彼女一人にあんな強そうな人を任せているんですか! 助けに行きましょう、早く!」
阿鷹は慌ててキーを回し、車のエンジンをかけた。
クリスマスツリー並みに装飾されたピカ子はアンテナの上に目玉の風船を浮かせたまま走り出す。
助手席の大島美烏が手を何度も振りながら言った。
「大丈夫、大丈夫。彼女ほら、あの調子で抜け目が無いし」
阿鷹はハンドルを切りながら強めに言った。
「どの調子なんですか。そういう問題じゃないでしょ。それに、その話のとおりユキさんが進めているとすれば、それって、ユキさんに鳩代を煽らせているのと同じですよね。しかも二人っきりで。マズいでしょ。ユキさんが殺されたら、どうするんですか」
大島美烏は指を鳴らすと、その指で阿鷹を指した。
「お、鋭いじゃない。そのとおり。そうなれば、万々歳なのよ」
「なにがバンバン……とにかく、急ぎましょう」
ピカ子は幹線道路に出た。阿鷹はアクセルを踏み込んで精一杯にスピードをあげる。
「こらこら、そんなにスピードをあげない。事故って怪我したら、本採用も流れるわよ……ていうか、マジで遅いわね、この車」
「そんな事どころじゃないでしょ。仲間の命がかかっているんですよ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます