第11話

 面白くない時間を過ごしているときはゆっくりと感じられるが、楽しい時間というのは過ぎるのが早く感じられる。集中している時も然り。そして、面白くない時間が終わるときには幸せを感じるが、楽しい時間が終わるときには絶望を感じる。という言葉は同じなのに、なぜ感じ方はこんなにも違ってくるのだろうか―――。

 問いに答えるために思考を始めようとすると、肩がトントンと少し強めに叩かれた。


「おはよ、明日香」


「……」


 今日から学校が始まるため、普段通りに待ち合わせをしていた。残念なことに時間ときに逆らうことはできない。

 俺が行こうと足を出すが、明日香は動かない。明日香は俺のことを睨んでいた。理由はさっぱり分からん。行こうぜと声をかけようとすると、明日香がかぶせて口を開いた。


「さとるが浮気した」


「?」


 どういうことだ。まず誰とも付き合っていないし、明日香と天以外に話す女子なんていないぞ。ここ最近の行動を思い出す。うむ、特に女子とは行動はしていない。


「さとるがお姉ちゃんとショッピングデートに行った! ねぇ、聡。お姉ちゃんと梅田に行ったよね」


 声を大きくして言う明日香に言われて思い出す。あの梅田ヲタク勘違いされてしまった事件か。あれはショック過ぎて思い出したくない。俺はひとまず周りを確認する。ふう、これで勘違いが起きることはない。トラウマになってしまっている。


「明日香、それは勘違いだ。俺は確かに葵と梅田に行ったけど、あれはショッピングデートとは言えない」


 真っすぐに明日香の目を見て言い切る。少し恥ずかしいが、浮気男と思われるよりはずっとましだ。


「でも、私が家に帰ったとき、お姉ちゃん、とっても楽しそうに話してたよ。聡君と梅田に行っていい買い物をしたって」


 あの野郎。何を買ったかまでは言ってないな。アニメキャラクターのグッズを買いに行くために、俺を同行させて、荷物持ちまでさせたということは伏せていやがる。葵、許すまじ。あれで、俺のメンタルがけっこう削られたんだぞ。


「信じてくれ、明日香。俺はショッピングデートなんて行ってない」


 更に強く明日香の目をじっと見る。俺のセリフは完全に浮気した男が使うものだが、これ以外に言葉は思いつかない。信じてくれ、明日香。


「……さとるが嘘ついてる風には見えない。ねぇ、さとる。本当にショッピングデートをしていないんだよね」


「(コクコク)」


「学校行こ。久しぶりの学校なのに、遅刻しちゃうよ」


 スタスタと明日香は先に歩いていってしまった。ショッピングデートの件はどうなった。特に何も言わないから、許してくれたってことでいいのだろうか。乙女の心はいまいちよく分からない。

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