第9話

 放課後。


 俺は武蔵と卓球をしにきていた。試したい技があるらしい。卓球に技というのがあるのかがわからないが。とにかく俺は武蔵について来いと言われたのだ。


「さて、そろそろ時間だな、新見よ。我の秘技に圧巻されるとよいわ!」


「おまえ卓球できるのか?」


「どんな秘技か楽しみだよ!」


「えっ!?」


「なぬ! 新手の敵手か!?」


 振り向くとそこに柊木がいた。


「さっきここに入っていく二人を見たから、ついてきてみたんだ。この町ってこういうノスタルジックな公園があってうらやましいよ。それで今から卓球するんでしょ? 私も卓球してもいいかな」


 柊木は素振りをしてやる気を示している。


「卓球というのは甘くはない道だぞ。貴様にその覚悟はあるのか」


 武蔵が急に語りだした。


「私はその覚悟が出来ている。さぁ、私と勝負をしないさい、籠野君」


 対する柊木はノリノリだった。なんだこのノリ。


「その度胸は買ってやる。吠え面をかくなよ、柊木氏!」


「さぁ、来い!」


 二人はずんどこと卓球場に入っていく。おいおい、お金先払いだぞ。俺はとりあえず卓球場の使用料金二百円を払っておいた。あとで何かをおごってもらおう、武蔵から。この町にこしてきたばかりの柊木にはサービスだ。


 卓球場に入ると、すでに二人は台に立っていて、その手にはラケットが握られている。ピンポン玉は柊木が持っていた。


「新見よ、審判を頼む。この我と柊木氏の頂上決戦をしっかりと記録して、後世にも伝えてもらいたい。この我が真の卓球神だということを」


「残念だけど、この私、柊木柚香の前に君は涙をのんでもらうよ」


 俺はその茶番を横目に台の横に立った。これは盛り上がっていると言っていいんだろうか。二人のノリノリな廚二に俺は少し引いていた。卓球ってこんな厨二ワードがたくさんでるスポーツだっけ? 


 もういいや、って思い、俺は審判になりきることにした。こういうのは無であるのが一番だ。


「ルールは十一点先取でデュースはありでいいか?」


「おう」


「それでいいよ」


「ならゲームスタートで」


「とりあえずはこのサーブで様子見だね」


 柊木のサーブは武蔵のバックハンド側の台ギリギリに入る。かなり上手なサーブだ。


「なかなかやるではないか。だが、この我にはそんなものは効かぬ!」


 武蔵は思いっきり回り込んで、柊木のフォア側に強烈なドライブを叩き込んだ。柊木にとっては不意打ちだったのか、反応はしたが、ラケットの先をこすれて、ピンポン玉は飛んで行ってしまった。完璧なカウンターだった。


 滅茶苦茶上手い。


「我の秘技、速攻オーバードライブだ」


 決め顔だった。これは決め顔をしても文句は言えない。


「これは私も本気を出さないといけないようだね。籠野君を見くびっていたよ」


 ピンポン玉を回収した柊木は腕まくりをした。健康的な腕が露わになった。柊木の目は燃えている。


「さぁ、勝負はこっからだよ!」


 柊木はさっきやられたフォアサーブではなく、バックサーブを選択した。台の中央に立ち、思いっきり玉を擦る。


 武蔵はそのサーブをまたドライブで返そうとするその瞬間、ピンポン玉は急激に伸びた。


「なぁ―にぃ―――――!!!」


 武蔵はその魔球に対応することができずに、体勢を崩した。


 なんだ今のサーブ!


「これが私の真球キラー・クイーンだよ」



・・・・・・



「すぅ―――、ふぅ――――」


「ぜぇぜぇ。この我が負けるとは」


 息の絶え絶えの武蔵がベンチに座りながら、呼吸を整えていた。だが顔はやり切ったという表情をしている。


 柊木も武蔵のとなりで深呼吸をして、息を整えていた。


「はい、お疲れ様」


 武蔵と柊木に俺はスポーツドリンクを渡す。試合前は武蔵に卓球場の使用料金のお返しに、ジュースをおごってもらおうとしていたが、あの接戦を見て、逆におごりたくなったのだ。


 良い試合をありがとう、と。


 結果としては柊木の勝ちとなったが、本当にものすごい試合だった。二人とも適応能力が高く、一度見た技は、次に繰り出されたときには返しているのだ。互いに必殺技を繰り広げ、相手のミスを待つか、まだ見せていない必殺技を出すか、が点を手に入れることのできる方法で、集中力をかかすことのできない、球が速くて、長いラリーが続いていた。


 あまりに白熱した試合だったから、周りの人も自分たちの卓球を忘れ、二人の応援をしていた。試合が終わったあとには、みんながスタンディングオベーションをしていたのだ。


「……。新見、助かるぞ……。これで我はまだ死なずにいられる」


 汗だくの武蔵はキャップを開けると、一気に半分くらい飲んだ。


「生き返る……」


「ありがとね、修哉君」


 柊木もしたしたと汗が滴っていた。ゴクゴクとスポーツドリンクを飲む。きりのよいところまで飲むと、ひと落ち着きしたようだった。


「ほんと、すごい試合だったな。二人とも卓球したことあるのか?」


「私は昔家族で遊んだくらいかな」


「我はゲームで遊んだくらいだ」


 俺は二人は卓球神から愛されているんだなと思った。真面目に部活とかに励んで、うまくなろうとしている人が絶句しそうだ。


「卓球神の称号は柊木氏に譲ることにしよう。上にはまだ上がいるということを痛感させられた」


「籠野君も卓球神に値するプレイだったよ。だから私が卓球仙で、籠野君は卓球神ってことで、いいんじゃいかな」


 柊木もけっこうこういう厨二ワードはいける口のようだ。同氏を見つけたように、籠野の目が輝いている。


「なら、これからもよろしく頼む、卓球仙柊木氏」


「こちらこそ、卓球神籠野君」


 二人は厚い厚い握手をした。新しい友情が芽生えた。


 そんな厚い友情が生まれてから、一週間が経った。あの日から俺は武蔵と柊木の二人と過ごすことが増えていた。お昼を一緒に食べたり、放課後に遊びに行ったり。俺の知らなかった新しい青春の階段を上り始めていたのだ。


 階段の一段目を上り始めたあの日から一週間の経った金曜日のこと。


 俺はエリカに視界を奪われて縛られていた。


「……あの女、誰なの」







追記。いつもお世話になっております、ポン酢です。たくさんの方に読んでもらっていて、ありがたいかぎりです。

そんな中心苦しいのですが、「海の日まで毎日更新」と書かせていただいてにもかかわらず、この話以降は毎日更新することができなくなりました。毎日更新するから読もうと思っていただいた方、楽しみに読んでいただいた方、本当に申し訳ございません。これは筆者の管理ミスです。


更新できなくなった理由は、これからの展開を以前投稿していた時よりも大きく変えるからです。この話までもところどころ修正を加えていましたが、それでは間に合わないために、更新をいったんストップさせていただく決断をしました。


更新の再開はある程度のストックをためてからと考えています。その更新再開は7月25日からと考えていて、それ以降は月、水、土の22時30分の週三回の更新を目指しています。何卒宜しくお願い致します。


皆様からのフィードバック、感想、応援メッセージがあると、書き続けるモチベーションとなります。ですので、ここまでの感想やこれからの期待、などなどを、ぜひ、カクヨムのコメント欄や、Google Form(https://kakuyomu.jp/users/sizen/news/16817139556424641269)に書いて、ポン酢に送ってください。いつも本当に励みになっています。


合わせて、ポン酢の小説の紹介です。


恋愛成就の神様にお願いした結果

https://kakuyomu.jp/works/16817139556358306350


隣に住んでいる大学の先輩とのラブコメディーです。お姉さん系ヒロインが好きな方、ぜひ一度、お読みください!



幼馴染が積極的なんです!!

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ポン酢による幼馴染小説の第一作品目です。こちらの方は完結まで書いています(更新はまだ続きます)。幼馴染が好きな方、ぜひ一度、お読みください!


7月25日22:30に更新再開できるよう、精一杯頑張ります。応援コメントお待ちしてます!


2022年7月12日17時7分ポン酢。

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