第33話 無双その4
俺はまず、指を打ち鳴らして結界を展開した。
騒ぎを聞きつけた外野に邪魔されないように。
メルルたちを巻き込まないように、俺たち三人だけの空間を構築した。
「――我、長年
カーネルとの
「
「ゲホッ、クソッ! テメェ何言って――」
「我は答える。いずれも等しく、と」
未だに咳き込むカーネルを無視。
詠唱を続けながら、指を何度か鳴らしてウィスリーに発動待ちに仕上げておいた
「我、こうも思い
詠唱は終わった。
あとは指を鳴らしての発動を残すのみ。
……だが、まだだ。
それでは、俺の気が済んでも彼女の怒りがおさまるまい。
「シギャオオオッ!」
許可は出した。
そして、ここは結界内。
「ド、ドラゴンだとッ!?」
これがただの喧嘩ではないと悟ったカーネルが剣を抜いた。
「ま、まさか例の依頼にあったドラゴン使いの暗黒魔導士って……クソが、舐めやがって! ドラゴンっつったって、よく見りゃ
何か言いかけていたカーネルの体が再び吹っ飛んだ。
転倒こそしなかったが、その表情は驚愕に打ち震えている。
「な、なんだ!? 速過ぎて攻撃が見えねェ……!」
……これは俺も今初めて知ったのだが。
ドラゴン形態でもクラスによる
剣闘士は速度と攻撃力重視の前衛クラス。
だから
しかも、俺の
「コォォォォッ!!」
「ぐおおあああああッ!!」
冷気のブレスがカーネルを包み込んだ。
ドラゴンの必殺技といえば、口から吐き出すブレス攻撃だ。
従来の仔竜ならちょっと寒いぐらいで済むが、
「クソッ、どうなってんだ。俺は夢でも見てんのか……!?」
その後もカーネルは爪や尻尾で攻められながら、必死に踏ん張っていた。
いや、
「チクショウ! オレは『
動きを見ていればわかる。
カーネルは決して弱くない。むしろ強いほうだろう。
いくらウィスリーが俺の
だが、カーネルは明らかに互角以上の相手との戦いに慣れていない。
おそらく自分より弱い相手としか戦ったことがないのだ。
体格にも力にも才能にも恵まれていたから、ゴリ押しでのし上がってこれたのだろう。
だが、それも今日で終わる。
「うおおおォォォォッ!! 【ファイナル・ストライク】!!!」
武器を犠牲にして攻撃力を劇的にアップさせる【戦技】まで発動して決死の反撃を繰り出そうとするカーネル。
しかしその剣が振り下ろされるよりも前に、肩口に
「ぐゥおあァァァァッッ!!?」
「グルルルルッ!!」
肩に食い込む牙に
首を振って傷口を引き裂き拡げていく
そんな光景を
そして――
「ウィスリー、やめろ! そこまでだ!!」
叫んだ。
だが、一見理性を失っているように見えた
そして
「……戻れ」
「あい!」
確かめるような……あるいは願うような気持ちで命令を出すと、いつもの元気な声が返ってきた。
俺の隣にいるのは元のウィスリーだ。
その笑顔に思わず
「もういいか?」
「うん! 充分だよ」
いつもなら撫でて欲しそうにこちらを見つめてくるのだが、今のウィスリーは油断なくカーネルのほうを睨みつけている。
「あ、が……」
カーネルはあまりのダメージにショック状態に陥っていた。
「
一言告げて傷を完治させる。
「はっ、オレは……」
「カーネル。貴様には呪いをかけた」
「呪い……?」
俺の言葉の意味がわからなかったのか、カーネルは不思議そうな顔をした。
「『冒険者として得た力を他人のためにしか使えない』……それが、貴様にかけた呪いだ」
「なっ、テメ、ふざけんぎァァァァッ!!」
カーネルが体をのけぞらて悲鳴をあげた。
「苦しいだろう。それが呪いの効果だ。今後は自分の欲求を満たすために暴力を振るおうとすれば、死に匹敵する苦痛が貴様を襲う。つまり、俺たちに私怨を
俺が指を鳴らすと、呪いが一時的に消える。
悶えていたカーネルが泣きそうな顔でこちらを見上げた。
「だが、安心しろ。俺も
そこでカーネルが何かに気づいたようにハッとして、ぶるぶると震え出した。
「ま、まさか……そんな。アンタ、マジで“全能賢者”アーカンソーだったのか……!?」
「今更気がついても、もう遅い。己の愚かさを噛みしめながら自分以外の誰かのために生きてゆけ、カーネル。呪いの詳細についてだけは記憶を残してやるから、今後どうすれば呪いを避けられるかわかるはずだ」
「待ってくれ! 呪いを解いてくれ! いやだって、おかしいだろ!? 何もここまでしなくたっていいじゃねェか! オレはあいつらとちょっと喧嘩しただけだぜ!?」
客観的に見れば、そうかもしれない。
自分でも明らかにやりすぎていると、思わないでもない。
だが、しかし――
「駄目だ。貴様は俺たちの尊厳を踏みにじった。文字通り、虫けらを潰すような気軽さでな。到底許すことはできない。十三支部のみんなが味わった痛みと屈辱、存分に思い知るがいい」
「なんでだよォ! あんな生きる価値のないクズども、どんだけ殴ったって別にいいじゃねェか! ああいうゴミは、オレたちみたいな上に立つ存在に
本気でそう言っているのが感じ取れて、俺はカーネルの
思っても口にせず、行動に移さないだけの
「……それが何故いけないのか。本当の意味で理解したとき、呪いが解けるようにしておく。貴様には一生無理かもしれんがな」
「いやだッ! オレはこれからも自分のためだけに生きていきたい! 他人のためにしか力を使えないなんてまっぴら御免だ! だから呪いを解いて! 解いてくれえェェェェェェッ!!」
絶望に泣き叫んで
「次に目覚めるとき、貴様は俺や十三支部に関するすべての記憶を失っている。俺をスカウトしようとは絶対に思わなくもなる。もはや二度と会うこともあるまい。さらばだ、カーネル」
そう言って俺はカーネルの額に指を突きつけた。
「
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