その7

「敵艦隊からの攻撃、停止。

 誘いにも乗ってきません」

 バンデリックは現状報告した。


 サラサ艦隊とベレス艦隊はウェイドン近海で睨み合う形になっていた。


 つい先刻までの激しい砲撃戦は全くなくなり、静かな時を過ごしていた。


「ふうっ……、ようやくこれからが本番ね……」

 サラサは溜息交じりにそう言った。


「珍しいですね……」

 バンデリックは本当に珍しそうにサラサと見た。


 サラサの性格はポジティブなのは明白である。


 それがやれやれ感満載の疲れた感があった。


「艦隊のトップって、大変なのね。

 父上の偉大さが更によく分かったわ」

 サラサは今まで自分がしてきた事を思い返していた。


 そう、随分と好き勝手に戦ってきたと……。


 とは言え、人それぞれ、その時その時の役割というものがあるのだから、過去の戦い方はそれで良かった。


 だが、トップという立場になると、全体を見る必要性と、何よりもかなりの自重に我慢が必要だった。


 それは戦略目標を達成させる為には必要最低限なものだと、改めて思い知らされた感じだった。


 まあ、それでも、比較的自由な裁量を委ねられていたので、かなりマシに思えていた。


 例え、フレックスシス大公の思い通りに動かされているという認識があったとしてでもだ。


「それをお聞きになると、侯爵閣下も大変お喜びになるでしょう」

 バンデリックは苦笑いしながらそう言った。


 あ、まあ、余計な一言だったので、サラサにキッと睨まれたのだった。


「!!!」

 バンデリックは勿論慌てて口を噤んだ。


「そんな事より、現状に変化はないの?」

 サラサはまだ睨んではいたが、戦いの最中なので、自重したようで、報告を求めた。


「ええっと、今の所は……」

とバンデリックは言い掛けた所に、伝達係から紙を渡された。


「敵の上陸部隊に大きな動きあり。

 島の反対側に向かっている模様」

 バンデリックは紙を読み上げた。


「うん」

 サラサはその報告に短く頷いた。


「それをマリック隊が追尾しているとの事です」

 バンデリックは紙をめくって、次の報告を読み上げた。


 マリック隊は今回の作戦の肝となるサラサ艦隊の別働隊だった。


「万事順調ね」

 サラサは笑顔でそう答えた。


 作戦は上手く行っていた。


 そして、自分で実行する事も面白いのだが、人が作戦通り動いてくれる醍醐味というものも感じていた。


「よし、我々は目の前の艦隊が向こうに行かないように、監視を怠らないように。

 敵艦隊が動いたら、こちらも動くわよ」

 サラサは改めて気を引き締めるように命令を下した。

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