その5
ドッカーン、ドッカーン!!
先手を取ったのは、スヴィア艦隊だった。
轟音と共に放たれた砲弾は、空を切って落下してきた。
バッシャン、バッシャン……。
だが、砲弾はサラサ艦隊の前の水面に吸い込まれていくだけだった。
「撃ってきましたね」
バンデリックは唖然としてしまった。
まあ、バンデリックが唖然とするのは、もはやデフォルト状態なのかも知れない。
「撃ってきたわねぇ……」
サラサの方はホッとしたような、そして、残念なような表情だった。
この距離から砲撃してくるので、腕には余程自信があるものとも思えた。
そして、エリオ艦隊と同レベルか、それ以上の砲撃技術を有しているのかと期待というか、不安というか、そんなような感情を抱いてしまった。
だが、どうやらただの勇み足のようだった。
向こうにしてみれば、先手を取りたいが為に、牽制の意味合いもあったのだろう。
しかし、その考えはサラサには全く通じなかった。
それどころか、今の砲撃で敵の力量が大体把握できてしまった。
(よくて、我々と同レベル、でも、この距離で砲撃を始めてしまうとなると、それ以下かも知れない……)
サラサは敵の力量を見切ったように感じた。
しかも、先程の謎の艦隊停止。
ここに、サラサ艦隊がいる事を想定していなかったという動きは論外に思えた。
だが、すぐに、その考えを打ち消した。
(敵を侮ってはいけない。
今回は、敵を殲滅する必要は全くない。
敵に上陸の機会を与えさえしなければ、よい。
それに徹しよう)
サラサは当初の戦略目標を堅持する事とした。
まあ、そんな事を考えている内に、艦隊の距離が近付いていた。
「全艦、斉射!」
頃合いを見て、サラサは指示を出した。
ドッカーン!!
何十発の合わさった砲撃音と共に、砲弾が弧を描き、着弾した。
バッシャン!!
「至近弾多数、敵の出足が鈍りました」
バンデリックは状況報告した。
ドッカーン、ドッカーン!!
先程より多くの砲撃音と共に、敵からの反撃があった。
バッシャン、バッシャン!!
グラ、グラ……。
敵の砲撃が先程より近くに着弾し、船体が揺さぶられた。
グラつく甲板上で、サラサとバンデリックは微動出せずにいた。
「敵との距離を保ちながら、後退!」
サラサがそう指示を出すと、艦隊はゆっくりと後退した。
ドッカーン、ドッカーン!!
それを許さないように、敵からの砲撃がまたあった。
バッシャン、バッシャン!!
グラ、グラ……。
先程より、更に近くに砲弾が落下し、艦隊全体が揺さぶられていた。
傍目から見ると、サラサが敵の砲撃に耐えかねて逃げ惑っている様子に映る。
ドッカーン、ドッカーン!!
敵は嵩に掛かって、サラサ艦隊に襲い掛かってきた。
バッシャン、バッシャン!!
グラ、グラ……。
更に揺さぶられる艦隊。
どう見ても、ピンチだった。
このまま推移すれば、大損害は間違いが無かった。
「全艦、斉射!」
サラサはピンチの中、再び命令を下した。
ドッカーン!!
待ちかねていたかのように、命令とほぼ同時に砲撃音が合わさった。
バッシャン、バッシャン、ドッカーン!!
砲弾が水面を叩く音と共に、轟音が響き渡っていた。
「無理に沈める必要はないのに……」
サラサはやれやれといった感じだった。
「敵艦1隻、轟沈。
敵の出足が鈍りました」
バンデリックはサラサの言い分に呆れてはいたが、努めて事務的に現状報告した。
サラサのその天才的な感性に迂闊に感化されると、碌な事がない事は経験上、よく知っていたからだ。
それはともかくとして、サラサは戦略目標を満たす為に、彼女なりの戦術を展開している最中だったのは言うまでもなかった。
敵艦隊は圧倒的有利と思われた展開から、予想もしない反撃を受けたと言った感じだ。
なので、警戒すると共に、慎重になったようだ。
その証拠に、嵩に掛かって、攻め立てるという事を止めて、陣形を整えつつあった。
その為、出足が鈍っていた。
「後退を一旦停止!」
サラサが敵の動きを見て、すぐに対応した。
彼女が考えている距離感が離れすぎた為だった。
ただ、サラサ艦隊が動きを止めたのに、敵艦隊の反応は鈍かった。
「全艦、斉射!」
サラサは動きの鈍い敵艦隊に対して、砲撃を加えた。
ドッカーン!!
それに対して、敵艦隊は陣形を整えつつ、反撃をしてきた。
ドッカーン!!
双方撃ち合いになったが、お互い牽制し合うような格好になったので、先程までの激しさはなかった。
「このまま押せば、敵は崩れるのでは?」
バンデリックは一応聞いてみた。
「うーん……、そうかも知れないけど、逆にこちらの損害も増えそうだしね」
とサラサはちょっと誘惑に駆られそうになっていたが、一旦間を置いた後、
「このままの陣形で砲撃を続行!」
と現状維持を告げた。
バンデリックに言われたので、サラサの戦略目標の意思を逆に固めさせる切っ掛けになったようだった。
バンデリックの質問が絶好のタイミングだったのは、ただの偶然ではなかった。
そして、このままの陣形での砲撃戦はしばらく続いた。
「再び一旦後退!」
サラサは敵の動きを察知すると同時に、艦隊は後退を始めた。
こうした駆け引きの中、セッフィールド島沖海戦は始まった。
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