その5

(困ったな……)

 サリオは困り果てていた。


 一昨日に続き、昨日もエリオに剣の稽古を付けたのだが、問題点が浮かび上がってしまった。


 木刀の時と真剣の時のエリオの動きがまるで違うのだ。


 恐らく、何度やっても同じだろうという結論にすぐに達してしまった。


(そもそも、真剣と対峙した方が遙かに動きがいいって、おかしいだろう!)

 サリオは暗澹たる思いで空を見上げた。


 だが、あれ?とふと思い出した事があった。


(そう言えば、俺も子供の頃に、師匠やオヤジに同じ事を言われたような気がする……)

 サリオはそう思い出すと、エリオだけではなく、自分にも呆れてしまった。


(陛下が仰っていたな、俺達親子は全然似ていないようで、妙な所が全く一緒だと。

 何も、こんな所が似なくても……)

 サリオはそう思いながら更に呆れてしまった。


(とは言え、これからどうする?

 真剣で稽古しないと、エリオの為にはならなしな……。

 だけど、下手したら俺がエリオを殺しかねないし……)

 サリオはそう思うと、天を見上げた。


(そんな事をしてしまったら、陛下に何て言われるか……。

 まあ、陛下はともかく、あの世に言った時に、ルディアナに申し開きも出来ない……)

 サリオはそう言うと、溜息をついた。


 ルディアナとはサリオの妻であり、エリオの母親だった。


 既に、他界している。


 そんなこんなしている内に、エリオが甲板に出てきた。


「父上、今日も剣術の稽古を付けてくださるのですか?」

 エリオはサリオに対して、真顔でそう言った。


 相変わらず、やる気満々といった感情とは無縁のようだった。


 まあ、でも、父親に構って貰って、少しは嬉しいのかも知れないとサリオには感じた。


「そうだな」

 サリオは諦めたようにそう言った。


 こんな危ない稽古を他人に任せる訳にはいかなかったからだ。


「閣下、海賊行為を発見しました」

 マリオットが親子に対して、急報を告げてきた。


 ある意味、サリオは助かったと思った。

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