その29

 - 艦隊配置(ルドリフ艦隊半包囲) -


     SCSCSC

     AsRH

     AsAs


     OR


 As:アスウェル艦隊、SC:サリオ艦隊(旗艦)

 OR:オーマ艦隊、RH:ルドリフ艦隊

 ---


「ここまで回り込まれているとはな……」

 オーマは思った以上に戦況が悪い事に唇を噛んだ。


 ルドリフ艦隊はまだ完全に包囲下に置かれてはいなかった。


 だが、容易に逃げ出す事が出来ない状況にある事をオーマは悟っていた。


「どうなさいますか?

 このままの位置で突入すると、敵艦隊の最も厚い部分を突破する必要がありますが」

 ヤーデンが問題点を指摘してきた。


「艦隊、右舷回頭!

 然る後に、左舷に回頭し、敵艦隊の先端部を攻撃。

 突破口を広げて、ルドリフ艦隊の救出を行う」

 オーマは当然の命令を手早く下した。


 ヤーデンはそれに対して、ただ頷いただけだった。


 艦隊は一斉に右舷回頭を始めた。


 そして、再び直線的に前進を始めた。


 美しく綺麗な艦隊運動だった。


 これはオーマの指揮能力の高さを示すものだった。


「よし、左舷回頭!」

 オーマは頃合を図って再び命令を下した。


 すると、艦隊は一斉に左舷回頭し、アスウェル艦隊へ近付いていった。


「砲撃準備!」

 艦隊がアスウェル艦隊を正にその射程圏に捉えようとした時、オーマは命令を下した。


「砲撃準備!」

 オーマの命令の復唱をヘンデリックがした。


 その声が、妙に耳に残った。


(ん?)

 オーマは何か引っ掛かるものが覚えた。


 そして、何故かエリオ艦隊の影がちらついた。


「まずい……」

 オーマがハッとして叫んだ。


「エリオ艦隊、急襲!」

 ヘンデリックが急報した。


 ドッカーン!

 ばしゃばしゃ、ギシギシ……。


 急報と同時に、旗艦付近に至近弾が着弾し、船体が揺さぶられていた。


 エリオ艦隊は最短距離で急襲が成功するように、ルディラン艦隊を右に誘導していたのだった。


 - 艦隊配置(ルドリフ艦隊半包囲) -


     SCSCSC

     AsRH

     AsAs

       OR×EC

 As:アスウェル艦隊、SC:サリオ艦隊(旗艦)

 EC:エリオ艦隊

 OR:オーマ艦隊、RH:ルドリフ艦隊

 ---


「更に左舷回頭!

 戦闘海域を一旦離脱せよ!」

 オーマはすぐに命令を下した。


 オーマはこの時初めて、エリオの企みを把握した。


「閣下……」

 ヤーデンはびっくりして止めようとした。


 現状、奇襲を受けたが、大した事がないという認識があったからだ。


「くっそ!!

 完全にやられた!!」

 オーマは尋常じゃない悔しがり方をしていた。


 そう、こんなオーマを見るのは初めてだといった認識にヤーデンは至った。


 と同時にこれは一大事だという認識に変わった。


「何をしている!

 早く、左舷回頭しろ!

 そして、離脱だ!!」

 ヤーデンは動きが鈍い艦隊を叱咤した。


 艦隊全体にも最初のヤーデンの認識と同じで、大した事がないと感じた為、左舷回頭が遅れた。


 その隙を見逃す筈もなく、エリオ・アスウェル両艦隊による強烈な挟撃が開始された。


 ドッカーン!バキバキ!!


 砲撃により2隻が一瞬のうちに消し飛ばされていた。


 それでも、ルディラン艦隊は左舷回頭し、何とか次弾による損害を免れていた。


「離脱を優先!」

 オーマは砲撃に晒されながらそう叫んだ。


「閣下、エリオ艦隊の追撃に備えなくては!」

 ヤーデンは更に不利になる状況に備えるように進言した。


 このまま行くと、一気に壊走する恐れがあると思ったからだ。


「それは大丈夫だ。

 ヤツも本隊との合流を優先するだろう」

 オーマはそう断言した。


「……」

 ヤーデンはこの言葉に驚いて黙ってしまった。


 そう、まるでオーマとエリオが意思疎通している気がしたからだ。


(エリオ・クライセンは閣下と匹敵する人物なのか……)

 オーマはそう感じると愕然とするのだった。


 ルディラン艦隊はその後、それ以上の主な損害を出さずに何とか離脱していった。


(エリオ・クライセンを舐めていた……)

 オーマは自分の迂闊さを恨まずにはいられなかった。


 エリオ艦隊の今回の戦い振りを見れば、エリオは小部隊に特化した優秀な隊長にしか見えなかった。


 まあ、それでも侮れない厄介な敵だと感じていた。


 しかし、その実は、全体を俯瞰して、動かしていた事が今の急襲により、明確になった。


 はっきり言って、この才能は異常だとオーマは感じていた。


 4倍の敵を翻弄しながら、戦い全体を俯瞰していた。


 これが如何に難しい事か、オーマにはよく分かっていた。


 そして、このまま、あの海域で戦っていたら、良くてルドリフ艦隊と同じく包囲網の中、悪ければ、艦隊を分断された挙げ句に、殲滅されていた。


 それ程、エリオの攻撃位置が絶妙だった。


(どれほど優れた人物なのだ、彼は!!)

 オーマは悔しさをとっくに通り越していた。


 とは言え、この思いをクライセン一族の者が聞いたら、即答するだろう。


「他に役立たないのだから、この位はして貰わないと!」

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