その22

「うっひょー、攻撃のタイミングが絶妙だな。

 流石、リンクと言った所か」

 アスウェル艦隊の砲撃を見て、サリオが感心していた。


 リンク・クライセンこと、アスウェル男爵はサリオと同年代であり、若い頃は一緒に戦っていた事を思い出していた。


 アスウェル艦隊は、蜘蛛の子を散らすように散開して、いつの間にかに、ルドリフ艦隊の死角に回り込んでいた。


 絶妙な偽装だった。


「閣下、感心ばかりしていないで下さい」

 傍観者となっているサリオをオーイットが諫めた。


「分かっているさ」

とサリオは笑顔でオーイットに言ってから、

「反撃だ!

 このままアスウェル艦隊と協力して、半包囲下に置くぞ!」

と命令を下した。


 艦隊は粛々と命令を実行し、反撃を始めた。


 そして、サリオ艦隊とアスウェル艦隊は、ルドリフ艦隊を半包囲下に置いた。


「それにしても、ここまではエリオの読み通りの流れだな……」

 サリオは、今度はエリオの事で感心していた。


 勿論、半包囲下に置いた戦術に関しては、サリオとアスウェル男爵の共同作業である。


 しかし、それは事前にルドリフ艦隊の行動を予想し、その対策を伝えたエリオの功績が大きかった。


 それにより、見事なまでに作戦が嵌まっていた。


 ルドリフは敵艦隊の穴を見付けると、そこに集中攻撃をする癖みたいなものがあった。


 それを利用した形だった。


「皆、エリオ様の掌で踊らされているようで、私なんかは空恐ろしさを感じてしまいますが……」

 オーイットはそう言った。


「まっ、そうかもな……」

 サリオはそうとだけ言った。


(尤も、あいつはそういう自覚さえ、ないんだろうけど……)

 サリオにとっては、エリオ自身に才能の自覚がないのが問題だと思っている。


 うぬぼれられても困るのだが、その逆も同じくらい困るのだ。


 でも、まあ、そんな戦い方の事より、すぐにお金の事を言ってくるのが問題であるとサリオは常々思っている。


 とは言え、エリオは無自覚に艦隊指揮を行っている訳ではない。


 きちんと計算して、指揮を執っていた。


 まあ、それを才能と思っていない点がちょっとずれているのかも知れない。


 丸投げされている被害者だという認識だった。


「そう言えば、エリオのヤツはどうしているんだ?」

 サリオは今更ながら気付いた。


「それはちょっと酷いんじゃないですか……」

 オーイットは心底呆れた。


 息子も息子だが、父親も父親だった。


「エリオ艦隊はハイゼル艦隊と交戦中です」

 マリオットがそう報告した。


「これまた予定通りの展開だな……」

 サリオは感心を通り過ぎて呆れていた。


「閣下、敵はエリオ艦隊の4倍ですぞ。

 しかも、ルディラン艦隊を合わせると8倍ですぞ。

 心配にはならないのですか?」

 オーイットは理解し難かった。


 まあ、当然の感覚だろう。


「そうだよな、大変だよな。

 でも、アイツがやるって言ったからな……」

 サリオにとっては他人事だった。


(いやいや、それはあなたが強要したのでは?)

 オーイットは心の中で突っ込んだが、口には出さなかった。


 不毛な事だと感じたからだ。


 でも、まあ、エリオがやってくれている効果を、オーイットはよく分かっていた。


 4倍の敵と戦いを引きつけてくれていた事により、敵艦隊に渋滞を起こし、更に4倍のオーマ艦隊の動きも封じていた。


 それにより、敵の分断が出来ており、ルドリフ艦隊を半包囲下に置けていた。


 本来なら、ルドリフ艦隊、ハイゼル艦隊、ルディラン艦隊と次々と波状攻撃を受ける羽目になる筈だった。


 それを考えると、空恐ろしいと感じるのは無理もなかった。


 ただ、オーイットはエリオを少し見くびっていたかも知れない。


 引きつけているだけではなく、大いに翻弄していたのを知ったらどう言う評価をするのだろうか?


「まあ、無理だったら逃げ出すでしょ」

 サリオは他人事だという事を繰り返しているようだった。


「……」

 オーイットはもう口を噤んで、エリオの無事を祈る他なかった。


「それより、今は目前の敵に集中するぞ!」

 サリオはまともな事を言った。


 だが、今までの話の流れで、まともな事を言っていると思うのは、オーイットにとって難しかった。

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