その20

「この距離で当ててくるとは……」

 ハイゼル候は撃沈された艦を目の当たりにして、驚いていた。


 侯爵はクライセン艦隊との交戦も豊富であった。


 なので、この驚きにより、エリオ艦隊がそれより1ランク高い事を示していた。


 とは言え、歴戦の提督らしく、狼狽えている訳ではなかった。


「敵艦隊、こちらに向かってきます!」


 ハイゼル候はこの報告に一瞬考え込んだ。


「右舷回頭!

 エリオ艦隊に対して、砲撃を開始!

 無理に当てようとするな。

 敵の前進を阻めばいい」

 ハイゼル候はそう命令を下した。


 この命令の意図としては、砲数はこちらが上だが、精密性では全く適わないと感じた為だった。


 それに加えて、エリオ艦隊の機動性を警戒していた。


 息子であるルドリフ艦隊の横を簡単にすり抜けてきた結果、ここにいる事を十分に認識しているようだった。


 ドン、ドン……。


 両艦隊の撃ち合いが始まった。


 そして、またもや被害を被ったのはハイゼル艦隊だった。


 正確に艦に着弾すると、その艦はあっと言う間に撃沈されていた。


「まずいな……」

 ハイゼル候の言葉は、数では有利だが、先手を取られた現在の状況を表していた。


 このまままともに撃ち合えば、負ける事はないだろうが、被害は甚大なものになりかねなかった。


 しかも、艦隊運用に支障が出やすい箇所ばかり狙われている。


 押し切ろうとすれば、そこを痛打されかねなかった。


 エリオの狙いも正にそこだった。


 それを察したハイゼル候は無理な攻撃を避ける決意をした。


「艦隊を一時後退させて、陣形を立て直す。

 砲撃はエリオ艦隊旗艦に集中。

 当たらなくても、我慢強く打ち続けろ!」

 ハイゼル候はエリオ艦隊の指揮系統の圧迫を指示した。


 この事により、ハイゼル候の老獪さが発揮され、エリオは中々攻めきれないようになった。

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