その14

「なっ……」

「えっ……」

 ルドリフとエンリックは目の前の光景に絶句していた。


 全くの予想外の光景が繰り広げられていたからだ。


 本当の事なのかといった感じで、2人は顔を見合わせてしまった。


「閣下、このままですと、艦同士で衝突の恐れがあります」

 ステマネも2人と同じ考えであったが、目の前の光景を正確に伝えていた。


 ホルディム艦隊が無秩序な行動をしていた。


 それは敵艦隊へ反撃を試みよとした所に、急な撤退命令が下されたからだった。


 すぐに反転しようとする艦、命令の意図を確認しようとする艦、反転しようとしているが、僚艦が邪魔で反転できずにいる艦など、収拾がつかない状態に陥っていた。


 それに巻き込まれる形で、ルドリフ艦隊も混乱の渦に簡単に巻き込まれてしまった。


 指揮官の命令が不味いと、とんでもない事が起きる好例だった。


「砲撃中止、衝突回避に専念せよ!」

 ルドリフは慌ててそう命令を下す他なかった。


 あまりの無様振りに唇をギュッと噛んでいた。


 だが、すぐに混乱が収まるという訳ではなかった。


 ホルディム艦隊の猛威はまだ続き、味方同士で衝突するだけでは飽き足らず、ルドリフ艦隊にも衝突するという事態に発展していった。


「ぐぐぅっ……」

 ルドリフは更に深まる混乱振りに対して、何とも言えない声を上げて、耐える他なかった。


 本当は声も抑えたかったが、無理だった。


 それ程、無様な光景だった。


「閣下、これはあの小僧の罠なのでしょうか?」

 エンリックは本心からそう思ってはいなかったが、あまりの光景に、こういった言葉が出てきた。


 あ、ここでの小僧はエリオの事だった。


 悪名は全て彼に帰結するようだ。


 これは、何度か小競り合いを演じているせいだろう。

 

 そして、その小賢しさは身に染みていた。


 そう、被害の全ては、ルドリフ艦隊が受けていたのだった。


「くっ……」

 ルドリフは声にならない声を上げて、怒りを爆発させようとしていた。


 これまでの煮え湯を飲まされた過去を思い出していたからだ。


 とは言え、これは被害者意識が過ぎるものかも知れない。


 エリオとはいずれも小競り合い程度で、まだ本格的な海戦を繰り広げた事がなかった。


 尤も、ルドリフの方は、何度も本格的な海戦に持って行っていこうとしていたのは言うまでもなかった。


 そして、叩きのめすまでを描いていたので、功績を台無しにされて続けていると感じているのかも知れない。


 だが、目の前の光景を見て、流石にエリオの策略ではないとルドリフは感じたようだった。


「まあ、何にせよ、あの小僧が蠢動するようだったら、正面からそれを打ち破るのみ」

 ルドリフはそう言うと、一気に平常心に戻ったようだった。


 そして、そこに強い決意のようなものを感じ取れた。


 エンリックはルドリフの言葉に静かに頷いた。


 やがて、ホルディム艦隊はバラバラながら撤退し始めて、ルドリフ艦隊との間に距離が出始めた。


 無様な衝突がよくやく治まっていった。


「敵艦隊に対して、砲撃!」

 ルドリフは待ってましたとばかりに、命令を下した。


 この状況になるのを待って、耐えていたのだから当然の事だろう。


 逃げゆくホルディム艦隊に追い打ちを掛けるルドリフ艦隊。


 それはもう一方的な戦いとなった。


 ホルディム艦隊はここで更に6隻を失い、参戦した時の数の半数になってしまった。


「よし、次は、敵の本隊を狙うぞ!」

 ルドリフは壊走したホルディム艦隊には構わずに、次の獲物に狙いを定めた。


 - 艦隊配置 -


 As SC     リーラン王国側

   EC Hr


     RH ウサス帝国・バルディオン王国側

   Hi

 OR


 As:アスウェル艦隊、SC:サリオ艦隊(旗艦)、Hr:ホルディム艦隊

 EC:エリオ艦隊

 OR:オーマ艦隊、Hi:ハイゼル艦隊(旗艦)、RH:ルドリフ艦隊

 ---

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る