7 そして邂逅の時へ1


「ねえ、東雲くん……その、すごくよかったよ……気持ちよかった」


 成瀬が嬉しそうな顔をしながら俺に抱き着いてきた。


 今日はやけにベタベタしてくるな……?


 やっぱり、片桐さんのことで何らかの危機感を持ってるんだろうか。

 けど、あいにく……俺がこいつに恋愛感情を持つことはあり得ない。

 見た目がいいから性欲処理には使えるが、恋人にはなり得ない。


「終わったんだから、さっさと帰れよ」


 俺は服を着替えながら言った。


「えっ……? もうちょっと一緒にいちゃ駄目?」

「駄目だ」


 俺はきっぱり言った。


 射精後の――いわゆる『賢者モード』だから冷淡な態度になっているかもしれない。


「帰れ。また抱きたくなったら抱いてやる」

「あ、うん……楽しみにしてるね。えっと……最後にキスしていい?」

「まあ、それくらいなら」

「今日はエッチしてくれてありがとう、東雲くん。またしてね?」


 ちゅっと俺の唇にキスをすると、成瀬は何度も俺をチラチラと振り返りながら出ていった。


「あまりまとわりつかれると、うっとうしいな……」


 俺は小さく舌打ちすると家を出た。

 セックスで小腹が空いたみたいなので、近くのコンビニで何か買おうと思ったのだ。


 自動ドアを通って店内に入る。

 すると、


「並んでるんだから隣のレジにも誰か入れよ! 客を待たせてんじゃねーよ!」


 叫んでいる客がいた。

 五、六十代くらいの気難しそうな男だ。


 こういうクレーマーって前にもいたよな。

 俺が【時限爆殺】の実験台にしたんだった。


「こいつも殺すか」


 慣れてきたのか、即断だった。


 ――これ以上、誰かにクレームを入れれば即座に死亡。入れなくても、きっかり三時間後に脳内血管爆破で死亡だ。

 そう念じる。


「っ……!?」


 クレーマー男はびくんと体を震わせると、いきなり黙り込んだ。


「ううう……い、いや、なんでもないんだ。申し訳ありませんでした……」


 と謝る男。


 まあ、今さら謝っても、もう遅いけどな。

 お前の命は長くてあと三時間だ。


 俺は内心でほくそ笑んだ。


 適当にお菓子と店内メニューの唐揚げを買い、店を出る。


 と、前方から一人の少年が歩いてきた。

 俺と同い年くらいだろうか。


「東雲涼介くん、かな?」


 彼がたずねる。


「……ああ。君は?」

「俺は――」


 彼がまっすぐにこちらを見据える。


 鋭い眼光だった。


「竜堂という者だ」


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