第69話
「フフッ、ジュリエットに会わせたい方がいるの」
「…………」
「貴女が大好きなマルクルス様よ」
「私は話すことはありませんので。失礼します」
「…………逃す訳ないでしょう?」
すると、部屋の出口を塞ぐようにマルクルスが現れる。
以前よりも痩せこけて髪も伸びて、覇気もなくボロボロな彼は、まるで別人のようだ。
目の下に深く刻まれた隈を見て、これはヤバいのでは?と思いつつもマルクルスが此方に近づいてくる度に一歩また一歩と後ろに下がった。
「こっちに来ないで……!」
「お二人でごゆっくり……ベルジェ殿下はわたくしに任せてね。ウフフ」
そう言ったアイカは扉を閉めて嬉しそうに去って行く。
本来なら悲鳴を上げるか、斧を振り回してでも拒否するところだが、これも我慢だとなんとか気合を入れて、フラフラと近寄ってくるマルクルスを避けながら端の方へと逃げていた。
「やぁ、ジュリエット。久しぶり……今日から僕達の関係をやり直そうか」
「っ、やり直しません」
「アイカ様から聞いたよ……!少し強引な位がいいって。確かにそれくらいが丁度いいかもしれない。以前は邪魔されてしまったけど、今度こそは…………君は僕が好き過ぎるあまり、僕の愛がルビー様に向いてしまう事が許せなかったんだろう?」
「……は?」
一人でブツブツと一方的に呟いているマルクルスは、何の話をしているのか分からない。
唇を歪めて顔を覆う姿は、とても正気には思えなかった。
「素直になればいいんだよ?ちゃんと責任は取るからさ……安心してくれ」
「…………」
「でなければ僕は!僕は……ルビー様に許してもらえないんだッ」
アイカの甘言に釣られて、ノコノコと付いてきたのだろう。
そして結局は「ルビーに許されたい」と、ジュリエットの前で口にしている時点で終わりだとは思うが、もうどうでも良い事だった。
騎士達が側に居て助けてもらえると分かっていても、マルクルスが迫ってくる事に嫌悪感を覚えた。
「さぁ、ジュリエット!!今から僕とヨリを戻したいと言いに行こう!きっと今からでも間に合う!今日は僕達の再出発の日だ……!」
「…………」
「ジュリエットが許してくれたらルビー様だって、きっと僕を許して下さる!!」
この男の言葉を聞いているだけで苛立ってくるのは自分だけではないだろう。
だんだんと恐怖は薄れて湧き上がる怒りを抑え込むように手を握り込んで堪えていたが、そろそろ限界である。
しかし、マルクルスには色々と話してもらわなければならない。
「アイカ様に何て言われたのですか?」
「アイカ…………?アイカ様は僕達の架け橋だろう?」
「…………」
「彼女には感謝してやってもいい!今回もわざわざ僕を助ける為に屋敷に来たのだからッ」
「それで?」
「ジュリエットを僕のものにするんだ」
そのアドバイスで破滅に向かっているのだと教えてあげたいところではあるが、この思い込みの激しい性格では先程の令嬢達のようにはいかないだろう。
やはりマルクルスはアイカの捨て駒に過ぎない。
しかしアイカがマルクルスを騙したという証拠を喋ったことは大きな収穫だと言えるだろう。
彼の手が伸びて、肩を掴んだ。
実害も出たところで片手を上げて騎士達に助けを求めようとした時だった。
「ーーージュリエット嬢!!どこに居る!?返事をしてくれッ」
「お待ち下さいっ!ベルジェ殿下」
「アイカ嬢ッ、離してくれ!ジュリエット嬢……!どこだ!?」
部屋の外から聞こえてきたのはベルジェの声だった。
こんなに大声で叫ぶ彼の姿を初めて聞いた気がした。
そしてどうやらアイカと一緒のようだ。
「ベルジェ殿下……?」
「ーーージュリエット嬢!!」
ベルジェの名前を呼ぶと、小さな声が彼に届いたのか、バタンッと勢いよく扉が開いた。
焦った様子のベルジェとアイカの姿が前にあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます