第57話


「キャロラインが大好きな君達に何かあったら、彼女が悲しむだろう?」


「!!」



リロイの言葉から分かる通り二人の仲は以前とは違って、かなり良好のようだ。

激しい口喧嘩もしていたし、一番距離も遠いような気がしていたが、近付くキッカケがあれば予想以上に早かった。



「リロイ様は……キャロライン想いなのですね」


「お陰様でね」



捻くれつつも素直なところが、何ともリロイらしいと思った。



「……あとは忙しくて此処に来る暇もないベルジェに頼まれたんだ」


「ベルジェ殿下が……?」


「君は何でベルジェ限定で、こんなに鈍いんだろうね。キャロラインが心配する意味が分かる気がするよ」


「…………鈍い?私が?」


「まぁ、半分以上はベルジェのせいでもあるんだけど」


「???」


「……話を戻そうか。噂の件もそうだが、ベルジェは君に嫌な思いをさせたくないし、なるべく迷惑を掛けたくないんだよ」


「え……?」


「ジュリエット嬢の前では、全く印象は違うと思うけど、ベルジェは『完璧王子』って呼ばれている。本当によく出来た男なんだ。それにあの外見と肩書き、婚約者が居ない事で令嬢達は常に彼の隣を狙っている。他国の王女達からもラブコールが絶えないんだ」


「…………!」



それを聞いて無意識に眉を顰めた。

一言で言えば面倒なことに巻き込まれることは御免だと思ったからだ。

カイネラ邸でのベルジェは親しみ易くて可愛らしい人だと思っていた為、そんな設定だった事はすっかり忘れていた。



「そんな反応をされるのが分かってたから、今まで黙ってたんだけどねぇ」


「……………」



あの時、一人で参加するつもりだったのにリロイに流されるような形で承諾した事を少し後悔していた時だった。



「だからそういう令嬢達から妬まれやすい。もう君達がパーティーに一緒に参加する話で持ちきりだ。恐らくは兄上が何気なく漏らしたり、キャロラインがジュリエット嬢と同じドレスを着ることが嬉しすぎて漏らした事も原因だろうけどね……」


「あー……はい」


「そこに関しては申し訳ないと思っているよ。ルビー嬢とベルジェは、その危険性を十分に理解しているから、漏れる事はないと思っていたけど、あの二人はねぇ」


「ですが、私も直接アイカ様に言いましたから、二人のせいではありませんよ」


「…………。君のそういう所はとても好感が持てるよ」



つまりはその尻拭いを含めて、リロイが動いてくれているという事なのだろう。

それとは明らかにリロイの発言に気になる部分があった。



「つまりはベルジェ殿下の悲しんで傷付くところも見たくないんですね!ふふっ……!」


「……。そういう事にしておくよ」



珍しく照れているのか頬を赤くしたリロイはすっと視線を逸らした。

そして、今まで黙っていたルビーが大きな声を上げた。



「リロイ様、ジュリエットが嫌な思いをしないように、わたくしに出来る事があったら何でもやりますわ!!」


「…………お姉様」



先程まで黙って話を聞いていたルビーが、必死にリロイに訴えかける様子を見て二人で驚いていた。



「こんな事になったのは、わたくしの責任もあると思うの……だからッ」


「そんな事ないわ……!」


「いいえ。本当は今回のパーティーもジュリエットとモイセス様は……っ!」


「そうだねぇ」


「???」



二人のよく分からない会話に首を傾げた。



「………ならルビー嬢、君にも手伝ってもらおうかな」


「勿論ですわ!!」


「リロイ様、お姉様に危ない事は……っ!」


「……ジュリエット、わたくしは!」


「はいはい、落ち着いて。二人の想いは十分伝わったから、次は互いの幸せの為に動いてね」


「「…………」」



今、聞いた話を含めて作戦を練り直すと言ったリロイのニヤリとした顔を見ながらゴクリと唾を飲み込んだ。

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