<さちしお>の援護
「なにっ!」
後方からロシア艦を攻撃した正体不明の高速潜水艇アルファに追いかけられ、更に前方から魚雷がやって来て挟み撃ちにされ速水も深谷も絶句した。
「! 待ってください!」
だが、音響分析を行っていたソナーが発令所に報告する。
「前方の魚雷は一八式魚雷です! 数は二本、発射地点付近に推進音を探知! <さちしお>です!」
「生きていたか!」
深谷艦長が嬉しそうに言う。
そして瞬時に魚雷が放たれた理由も確信した。
「操舵手! 急速潜航! ダウントリム三〇! 魚雷の真下をくぐれ!」
「了解!」
深谷の命令で操舵手がジョイスティックを押し込み、<くろしお>を潜航させる。
急速な降下にジェットコースターが落ちるような浮揚感が伝わってくる。
だが、止まるわけにはいかない、目の前から魚雷が迫っているのだ。
「デコイ発射!」
降下しつつ深谷はデコイを撃ち出した。
後方から騒音を放つ物体が放たれ<くろしお>を隠す。
同時に<さちしお>から放たれた魚雷が、<くろしお>の真上を通過。
甲高い推進音が発令所の頭上から響くのは生きた心地がせず、通過して後方へ去って行ったときはホッとしたものだ。
それも二本も。
何度聞いても気分は良くない。
「さて、アルファには魚雷とお見合いして貰うか」
深谷は壮絶な笑みを浮かべて言う。
<さちしお>が放った魚雷は<くろしお>の真上を通過するとそのままデコイの発生させる騒音に紛れてアルファに接近。
<くろしお>を追尾するアルファの正面にやって来た。
幾ら最新の水中兵器でも探知装置は従来のソナーと同じはず。
デコイが発生させる騒音に紛れた魚雷をアルファは発見できないはず。
騒音を迂回していることも考えられるが、それなら雑音源の脇の探知可能な領域を通るためソナーが探知しているはずだ。
「<さちしお>の魚雷一本! デコイの騒音源、アルファの正面に到達!」
「ソナー! スイッチを切れ! 総員対衝撃防御!」
直後、爆発音が響いた。
<さちしお>の魚雷がアルファの近くで爆発したのだ。
激しい衝撃が<くろしお>を襲う。
「ソナー、どうだ。探知出来るか? アルファを仕留めたか?」
「今探知します。爆発の残響が残っていて探知しにくく……いや、待ってください。推進音を探知! アルファです! 生き残っています」
「畜生、正面衝突しなかったか。どんな風に回避したのか分かるか?」
「右下へ転舵して回避したようです! アルファは反転していきます! 残った<さちしお>の魚雷追尾に入ります!」
デコイを出して騒音をまき散らしたのはアルファのセンサーを探知不能にして<くろしお>が回避しやすくするためだった。
発生する音に紛れて降下し、アルファから逃れる算段だ。
同時に<さちしお>から放たれた魚雷の推進音を隠し、アルファがのこのこと魚雷の正面に出てくる事を狙った。
だが、僅かにタイミングがずれて、アルファに探知され、回避されてしまった。
一瞬悔しそうな表情を見せる深谷だったが、すぐに真顔に戻り部下に尋ねる。
「アルファと<さちしお>の魚雷はどうなっている」
「<さちしお>の魚雷追尾を続行! アルファの速力速く、追いつけません!」
「衝撃に注意しろ! 発射管室三番管開け! お守を使うぞ! 合図と共に発射!」
深谷が命じた直後、<くろしお>の後方で爆発が起きた。
<さちしお>が放った魚雷が自爆したのだ。
元々、海自の魚雷を振り切るような性能を持っており追尾は不可能であり自爆は当然だった。
追いかけてくる魚雷がいないと知るとアルファは再び反転。
自分を攻撃したとおぼしき敵艦を探しに向かう。
暫くして、爆発の残響が止むと全速力で離脱していく<くろしお>の航行音を探知した。
アルファは、攻撃を仕掛けるべく全速で追跡。
海域を離脱していった。
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